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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第四章 道中記
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その19 人型の炎①

登場人物

僕 (ニブイチ)→主人公。穏やかな生活を望むも、結局はアクシデントに巻き込まれる不幸体質。一応魔術士。


テルテ→ニブイチの造った人造人間。ニブイチの幸せを願う一方、溢れんばかりのエネルギーで理不尽に暴れ回る衝動に駆られることがある。


詩人→テルテに興味を示し、行動を共にしている。以前はファスの仲間だった。


ファス→テルテを狙う魔術士。悪趣味。

 それは僕、テルテ、詩人の三人が村を出てしばらくした日のことだった。僕らは色々考えた末、占い師に言われた通りに街へ向かっていた。辺りは見渡す限り森であり、そこから抜けることなく日が暮れてしまっていた。人造人間であるテルテはさておき、僕と詩人はれっきとした人間であるため休息が必要だった。そこで夜営をすることになり、火を起こした。火を囲むようにして僕らは座った。見つけた食材を焼いてその日の腹ごしらえとした。

 そのとき詩人が僕に尋ねた。

「君はさ、テルテ以外に人間を造ったことはある?」

「テルテが今のところ最初にして最後の完成品だよ」

「じゃあ砂以外をベースに造ったとしたことはないわけだ」

「色々試したけど砂だけだね、上手くいったのは」

「ファスは一度水をベースに造ったことがあったよ。人間を構成する成分の多くが水であることを理由にしていた。結局完成したものは呆気なく消滅したけど」

「それはどうして」

「単純なことさ。水は蒸発してどっかへ行ってしまう。短時間の内に人間の形を維持できなくなるまで蒸発してしまったのさ」



 テルテは寝る必要もないため、夜の見張りはテルテに任せきりとなった。火は獣除けにもなれば、盗賊が来れば位置を知るための明かりにもなることからそのままにしておくことにした。

 そうして僕と詩人が寝てから事は始まったらしい。

 寝ていた僕は夢の中にいた。快晴の草原を子供の頃の僕が走り回っていた。そのとき太陽がこちらに近づいてきた。最初は気にならなかったが、次第にその暑さ、そしておびただしい量の汗が噴き出ているのに無視できなくなって振り向くと、すぐそばに太陽がいた。僕は無我夢中で逃げるものの、太陽がじわじわと距離を詰めていった。あのときの太陽は笑っていた。

 あまりの衝撃と恐怖に僕は夢から目が覚め、飛び起きた。白い人型のシルエットが尻餅をついていた。よく見るとそれは白いシルエットではなく、燃える炎が人型をしているようだった。

 この人型の炎は僕に向かって正座をし、

「起こしてすみません、父さん」

 と言った。炎に父さんと言われる筋合いはない。僕は自分が寝ぼけているのかと思った。

「テルテなのかい」

「私は左にいる」

 確かに僕から左手にテルテが座っていた。

「流石に父さんと母さんを見間違えたりはしませんよ」

 どうやら僕がこの炎の父でテルテが母と言いたいようだ。繰り返しになるが僕は父ではないし、テルテが母もあり得ない。僕は砂を用いてテルテを造りはしたが、人型の炎なんて造ったこともなければ考えたことすらない。だから彼を造るわけがないし、術そのものは無意識の内に行使できるほど簡単な魔術ではない。もし血縁上の意味で僕を父と呼んでいるのならそれもあり得ない話である。テルテとキスはしたが、それ以上の関係は一切踏み込んでいないからだ。

 では、この人型の炎は一体なんなのか。僕は詩人を真っ先に疑い、容赦なく起こした。

「おい、これはお前が仕組んだのか」

「ニブイチくん、僕はそんな魔術は使えないよ。君が造ったんじゃないのか」

「付近に魔術士の追手がいるってことか」

「追手はいないよ」人型の炎が割って入った。「父さんと母さんが僕を造ったんだよ」

 この炎はそれだけ言うと慌ててに薪の方に戻った。テルテは僕の方を見て、

「水でもかけて消しちゃう?なんだか気味が悪いんだけど」

「テルテはこいつに心当たりないよな」

「こんなの知らないよ。私を君の奥さん扱いしてくれるのは嬉しいけどさ」

「よし消してしまおう」と僕が言おうとして、

「待ってよ父さん、オレの話を聞いてくれよ」

「僕はお前の父親になった覚えはない」

「そりゃそんな覚えはないでしょ。オレを造ろうとしていたわけじゃないんだから」

 その知ったような口の聞き方はテルテが初めて目覚めたときと重なった。

「もしや、僕のことを知り尽くしている?」

「そうだね。消すのをやめないなら、そこの詩人さんにバラしちゃおうかな」

 テルテみたいに僕を知り尽くしているなら気をつけなければならない。詩人がどこまで信用できるか分からない以上、何でもかんでも話されては困るのだ。しばらく沈黙が続いたあと僕は、

「詩人、水をくんできてくれ」

「聞かれたくないことを話すんだね。信頼のためだ、行こうじゃないか」

 詩人はそそくさと森の闇に溶けていった。

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