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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第三章 村の外を目指して
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その6(17)

 贋てるては役人三人に命令した。

「おい、こいつを見張ってろ。どうもあの茂みからこちらを見ているようなんでな」

 贋てるては僕を放り投げ茂みに向かった。空中に連れ出された僕は役人がてっきり抱き止めしてくれるのだと思っていたが、彼らは誰が取るかで押し付けあったせいで、最初に僕を待っていたのは地面だった。葉っぱは大してクッションにならず、硬い土に叩きつけられ、鈍い音に重い痛みが僕の右半身を伝った。

 そして、葉っぱに付着していた夜露が首筋に触れた。それは下へ下へとゆっくり垂れていった。局地的に冷たく、気持ち悪かった。散々な結果に腹が立ってきた。とは言っても、身動きは縄のせいでまともに取れなかった。役人たちは僕を放置したまま小声で話し出したので、僕はそれを聞くことにした。


「あの茂みにいるのってよ、もしかしてニブイチのてるてかな。あれも結構乱暴だよな」

「いい感じに潰しあってくれると助かるな。人造人間は決まって乱暴だからな」

「なあ、今のうちにずらかろうぜ」

「すぐ追いつかれて殺されるだろ。もしもだ、逃げるなら戦闘を覚悟しなきゃいけない」

「このまま従順についていったって、あれの気まぐれで殺されるかもしれないんだぜ。そんなことを祈りながらこれ以上歩いてられるかよ」

「ちょっと待ってくれ」僕は会話に割り込んだ。「まるで僕のテルテが負ける前提みたいじゃないか」

「そもそもあの茂みにいるなんて都合のいいことがあるとは思えないし、仮にいても贋てるてに勝てるとは思えない。お前だって実体験しただろ。あいつはいとも簡単に家の一つや二つ壊せるんだぞ。石橋を叩いて渡るとか言って石橋を壊すやつだぞ。お前のてるては屋根から俺たちを落としただけじゃないか」

「それにさ、ニブイチのてるてが贋てるてに勝ってしまうようなバケモノだったら、ファスさんいらないんじゃないかな」

「いや、あの人のことだ。興味本位で観測と分解をするんだろうさ」

 テルテが向かった茂みに隠れているなんて確かに都合のいい解釈かもしれない。だが、いるような気がしていた。そして勝っていてほしかった。


 茂みからてるてが戻ってきた。贋てるてがいない間、少しは体を楽にしておけた。僕の感覚が正常であれば戻ってきているのはテルテだと断じた。贋てるてではなかった。テルテの服装は先程別れた時のままだったが、茂みにいたせいだろう、服の所々が濡れており、髪の毛には水滴がついていた。とにかくちゃんと来てくれたことが嬉しかった。何より無事で良かった。

 こちらに到着すると地面に横たわっていた僕を抱きかかえ、

「作戦変更、村の宿に向かう」

 と宣言した。役人たちは今の状況に混乱しているようで、

「どういうつもりだ。まさか贋てるてを倒したのか?」

 その問いかけに対し、テルテは口角を上げながら、

「私は贋作を倒したよ。もちろんあんたたちは言うことを聞いてくれるよね」

 自分は贋てるてよりも強いぞ、逆らうならどうなるか分かるよなという脅迫に近い発言だった。

「分かったよ。お前らもいいよな」

 役人たちは同意した。そして、役人三人を先頭に、テルテは僕を抱えたままその後ろを歩いた。

 僕はテルテに、

「流石だな。君の戦う光景をなぜか見れた試しがないけど」

「それは私の美学さ。『鶴の恩返し』ではないが、見られたくないもんでね。実際私の戦いなんてつまらないものばかりだし」

 こんな風にしばらくテルテと会話を続けて一向は村に向かって歩いた。その最中のことである。

「そういえば贋作は人を投げるのも杜撰だったね」

 そう言い終えたかと思うと、テルテは僕を鉛直方向へ高く投げ出した。いきなりのことで驚きつつ、僕は上からテルテを俯瞰した。するとテルテの背後から誰かが走り寄ってきた。それがテルテを殴りつけようとした瞬間、テルテはそれに回し蹴りを喰らわせ、動作を終えたのと同時に僕を抱き止めた。何とも華麗な一部始終だった。

 蹴飛ばされた方向に目を向けると、贋てるてが倒れていた。僕を投げ捨てる前の端麗な姿から見違えるほど傷だらけになっていた。傷口からは血ではなく、砂が吹き出していた。

「私よりも暴力的とは、お前もとんだ贋物だな。いや、私以上に質の低い贋物と言うわけだ」

 贋てるてがそう言って弱々しく笑ったかと思うと、彼女の体は溶けていき、最後には砂の山だけが残った。テルテはその砂の山に向かって、

「どちらかといえば私は二次創作だ。聞く限り、あんたはオリジナルのてるてを目指して造られたようだが、私はニブイチさんの理想を目指して造られた。彼の理想はてるてそのものではない。だから一緒にされても困る」

 その後、僕は自分の足で歩き、一行は村のすぐ側まで来た。この頃になって朝日が水平線から姿を覗かせ、その光の雨が注いであらゆるものを照らしていった。

 テルテも例外ではなく、光の雨を浴びて輝いていた。これまでになく神々しい姿だった。

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