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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第三章 村の外を目指して
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その5(16)

 僕は贋てるて担がれてどこかに連れて行かれていた。贋てるての前を役人A、Bが、贋てるての後ろを役人Cが歩いていた。今どこかは分からない。役人どもは答えてくれないし、贋てるてにも無視されていた。彼らの目的がテルテである以上、僕だけを連れ去るわけではないはずだ。そして、テルテを捕獲しようとするタイミングこそ僕が脱出できる唯一のチャンスとなると思われる。


 僕の家は贋てるてに役人に扉を、贋てるてに壁を破壊された挙句、カツに譲渡することにされてしまった。壁が破壊されたことで僕の家とカツの家が繋がり、その言い訳を村人にどうするか困ったところ、そう処分して誤魔化すことになったのだった。全てカツという変人の仕業にすれば納得するだろうという強引な方法である。発案者は贋てるて。これに対し、喋り足りずイライラを募らせていたカツは上機嫌になり、僕をあっさり手放して役人らに渡してしまった。

「やっぱりワイの家の改装やないか。最初からそう言ってくれればよかったんや」

 ちなみに、ディー夫人は僕の家の破壊から拘束の一部始終を見ていたはずなのだが、いつの間にかいなくなっていた。家に帰って夫に報告したのだと思われる。


 僕は脚をつったことにより、自分自身で逃げることが困難だと再三にわたって説明したものの、贋てるては頑なに信じようとせず、僕を縄で縛った。僕が役人にしてやった縛り方よりも頑丈で苦しい縛り方だった。手が痺れ始めていた。腹を押さえつけられ、呼吸も満足にできなくなっていた。このまま僕は死んでしまってもいいと考えているのだろうか。 そうしていると、

「どうだ苦しいだろう。楽になりたければ大人しくお前のてるてについて打ち明けるんだな」

 贋てるてが仕掛けてきた。テルテが果たして危険を冒してまで助けに来るかな。

「あ、助けに来るんだ。分かりやすいなあ」

「……何で分かったんだ」

「そりゃ、鎌をかけたからさ」

 やってしまった。交渉か少なくとも時間稼ぎにはなる貴重なカード一枚をいとも易々と手放すことになった。

「さっさと吐きなよ、その縄を緩めるくらいはしてやるからさ」

 テルテからは別にバラしても構わないとは言われている。理由は簡単で、もし僕が殺されてしまえばテルテ自身の存在意義を失うからである。僕が死んでまで守ってほしくないのだ。人造人間を造るのはテルテが初めてで、二体目の作製は現時点で予定していない。人造人間がどうすれば活動を停止するのかも心当たりがひとつあるだけで、僕の生死に関するかはまだはっきりしていなかった。僕の死後もテルテは生き続けるかもしれないし、何もしなければもうじき止まるかもしれない。もし前者なら僕個人としては幸せになってほしいと伝えたのだが、

「それでは意味がない。君がいての私なんだ。これ以上その話をしないでくれ」

 と強く拒絶されてしまった。

 今の僕にできることと言えば、ただ落ち着いて待つことだけだった。一人で逃げられないのだから頼みはテルテだった。


 覗きが失敗するという万が一のことを考えていなかったわけではない。覗きを行う直前にはテルテとそのことについても話していた。

「どうだろう上手くいくかな」と聞いたら、

「正直言って失敗するんじゃない」

 僕はムキになって、「絶対成功させるよ」と宣言したのだが今はこの様である。いや、仕方ないんだ。テルテ以上に凶暴な贋てるてが来て、突然の思いつきで向かいの家ごと壁を破壊するなんてことを想定できるわけがない。そんなことができるとしたら、カンニングペーパーに目を通した場合くらいだろう。テルテとの話はまだあり、

「リスク管理だと思って考えようか。ニブイチさんが捕まったら私が奇襲を仕掛けるでいいね。村にいるうちにやるよ」

「構わないが、僕と役人がいる場所は分かるのかい?何だか分かりそうな気はするけど」

「分かるよ。君が私を完成させた日、私は行く場所を告げずに飛び出したけど、君は簡単に見つけられたよね。あれは偶然じゃなくて、必然だったんだ。だから今度だってできる。君が生きてさえいればね」

 だから僕は命を絶やさず待つだけだった。どれほどキツく縛られようともテルテが不意打ちを伴って救出してくれることを待つだけなのだが……それにしても苦しい。うっかり白状してしまわないか不安になった。


 ……いつまでも頭でこんなことを考えているばかりで黙っていたために、贋てるては痺れを切らし、

「早くしろ。こっちは気が短いんだ」

 と言いながら縄を縛り上げた。腹が絞られて吐き気がした。よし、断片的に言おうと思いようやく口にしたのは、

「役人たちが見たのは本物のてるてだ。間違いない」

 なぜか嘘だった。僕は生来の嘘つきなのかもしれない。

「じゃあ、家にあった砂の袋はなんなんだ」

「あれは錘だ。軽い物を押さえるのに丁度いいんだ」

「そうかそうか。ほら、辺りを見てみろ」

 急に縄を緩められ、息を整えて外に目を向けると草原が広がっていた。満月が出て少しは遠くまで見渡せた。逆に建物がなかった。

「村の外なのか?」

「その通り」贋てるては再び僕を縛り上げた。「ここまで来たら不意打ちはできないだろ。大人しくお前のてるての場所を言え」

 テルテは確か村にいるうちに奇襲すると言った。しかし村の外に僕はいた。それで奇襲は未だにない。……縄による物理的な要因とは別の苦しみが僕を蝕み始めていた。


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