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一人称彼女  作者: さみうち まつも
第二章 名前の代償
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その6(10)

 僕の言いたいことを代わりにテルテが答えた。

「帰る前に頼みたい。役人さんよ、その噂を消してはくれないかな。それともう私を捕まえに来ないでくれ」

「一応殺人の疑いがあるんだけどなあ。ニブイチ、お前に関しては証拠ありだ」

「あんたらはもし私がかの有名なてるてだったとして、同時に殺人犯だったらどうするのさ」

「どうもしないな。都合の悪い情報は揉み消すだけだ。それと」役人Cがテルテに近づき、肩を掴んで、「こいつは予定通り貰ってくぜ」

「嫌だ」テルテは即答し、役人Cの手を振り払った。「実力行使のつもりかな?もうあんたらの武器は全て処分したよ」

 そうは言ってもテーブルでぐったりしている僕とテルテで、役人三人を倒すのは無理がないかと思ったが、

「それなら諦めて穏便に済ませよう。お前ら二人一緒でいいからついてきてくれないか。なあに、ちょっとしたコミュニティ紹介をしたくてね。ニブイチ、お前行けるか?」

 こちらに合わせた返答をしてきた。今度は穏便に済ませる気らしかった。

「あまり人付き合いはしないことにしているんだ。それ以前に怪しさ満点だな……。今度は強引に僕もろとも連れて行こうとしているのか」

「強引?堂々と玄関から入ったのにか?暴力的だったのはそっちが先じゃないか」

「ルタを殺しただなんて脅したじゃないか。それは暴力的じゃないって言うのかい」テルテはキツく言い返した。「要は私を連れていければ何でもいいわけなんでしょ」

「まあな。それまでは帰れんな」

「じゃあ私があんたらについていったとして」テルテが提案した。「私に何をさせたいのかな」

「さあな、それは俺たちの管轄じゃない」

「あらそう、じゃあ聞いてきてよ。それまで逃げずに待っているから」

 役人の相手が面倒なのでいっそのこと、こちらから逃げ出して役人を撒いた方がいいのかもしれないと思った矢先、わざわざ逃げる気のないような発言に、僕はテーブルに顔を擦り付けずにはいられなかった。役人Cは呆れ顔になって、

「そんな骨折り仕事するわけないだろ。お前らが直接行って済む話だろうが」

「それならお金をやるから、おつかいだと思って行ってくれないか」

 テルテがまたしても困ったことを言い出した。僕の手持ちが心もとないから、渋々先述した魔術でその日を耐え凌いでしるのだ。盗むこと自体にはスリルと同時に罪悪感も持っているからこそ必要以上には使わないようにしていた。多用を強いることは避けたい。

 テルテからこれ以上余計なことを言い出さないか不安になった。苦言するのも億劫になり、僕はさらにテーブルに顔を擦り続けた。

「結構弾むなら考えてやってもいい」

「金貨五枚でどうかな」

「それで手打ちといこう」役人Cは役人二人を見て、「お前たちはここに残って見張ってろ。とんずらされたら嫌だからな」

「おい、それなら俺に行かせろよ。この様子じゃニブイチは逃げそうにないぜ」役人Aが言い出した。

「それならじゃんけんといこうか」役人Bが提案した。

「仲がいいのは結構だが、三人で聞きに言ったらどうかな。私はもしかしたらルタという少年を殺してしまうほどの極悪人で、家に残った人をうっかり殺してしまうかもしれないよ。武器の用意くらいした方がいいんじゃないかな」 

「と言っても金貨五枚を三人で分けるのはなァ」

「一人五枚でいこうじゃないか。ただし、取り出すのに半日以上かかるけど」

「聞きに行くのに時間がかかるから、それくらいのブランクは気にしない」

「往復でどれくらいかかるのかな」

「一日はかかる」

「じゃあ期限は今日の夕方だね」

「おいおい聞いてたか。一日かかるんだぞ」役人Bが嫌な顔つきをした。「でも待てよ、全速力で行けば無理でもないか。よし乗った」

 そう言って役人Bが急いで外へ飛び出していった。それにつられて残りの二人も飛び出していった。


「これでよしと」テルテが満足そうにして僕の方を向いた。「悪いけど金稼ぎ頑張ってね」

「畜生」と僕は呟いた。

 そのあとテルテが黒い影が家から出ていくのを見たと言った。僕は先程と変わらずテーブルに突っ伏していたので流してしまったが、それがネーテだったのかもしれない。


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