デートでもしてくれば?(1/1)
賑やかで楽しい秋祭りの翌日。守り人を含むお祭りの運営に携わった人々は、中央広場の後片付けをしていた。
こんなに素敵に飾り付けられた会場を真っ新の状態に戻してしまうなんてもったいない気もするけど、ケジメは大切だ。それに、後三ヶ月したらここで冬祭りも開催されるんだもの。悪いことばかりじゃない。
「冬祭りのテーマは『夢幻』だよ」
私の隣で資材を運び出すのを手伝いながら、テオが教えてくれた。
「まるで夢を見ている時みたいな、幻想的な体験をしてもらうイベントが開催されるんだ。……お兄ちゃん、それは運べないよ!」
テオは街灯を引っこ抜こうとしている兄に注意を飛ばす。アイザックさんは我に返ったような顔になった。
「それもそうだな。ついぼっーとして……オフィリアさん!」
アイザックさんは、私がすぐ近くにいることに気付いてのけぞった。その拍子に街灯の支柱に嫌というほど頭をぶつける。
「……行こう」
テオは付き合いきれない、とでも言いたげな顔になる。私もアイザックさんに「お大事に」と声をかけて、その後に続いた。
「何か今日のお兄ちゃん変だよね。今朝も、オフィリアさんが朝食に降りてきた途端に椅子からひっくり返ってたし。何かあったの?」
「どうかしら」
私は軽く笑ってはぐらかしたけど、テオは何かを察したようだ。「へえ」と感心したような顔になった。
「お兄ちゃん、案外やるんだね。じゃあ、二人は恋人同士ってこと?」
「こ、恋人って! まだそこまではいってないわよ! ただ……前よりも親密な関係になったっていうだけ」
そう言いながらも、頬が熱くなっていくのを感じる。昨日、キャンドルウォークの最中に自分がした思い切った行為を回想して、体が火照ってきた。
「でも、いずれはそうなるんだよね?」
テオは答えが分かりきった質問をしているような口調だった。
「だったら早い方がいいと思うよ! このままどっちつかずの状態だと、お兄ちゃん、全然使い物にならないし」
振り返ると、アイザックさんは私の方をとろんとした顔で眺めながら箒をぼんやりと動かし、近くを通りかかった妖精たちを弾き飛ばしまくっていた。
確かにこれは重症だ。アイザックさんの奇行は今に始まった話じゃないけど、守り人の仕事にも影響が出てるんだもの。
「デートでもしてくれば?」
大人びた顔でテオが言う。
「それでブチュッとやっちゃえば、もう恋人みたいなものだよ」
「ブチュッと? でも、それはもうして……ごほ、ごほっ!」
私は慌てて咳払いをしたけど、テオの薄緑の目が妖しく光ったから、誤魔化せたのかは微妙なところだ。
でも……デートか。悪くない案かも。だって、それでもしいい雰囲気になって、テオの言うように本当に恋人同士になれたら……!
妄想が爆発し、私は恥ずかしくて顔を覆ってしまった。デート、絶対にやろう。それで恋人になれるかは置いておくとしても、アイザックさんとまた二人きりの時間を過ごせるというのは、心躍る考えには違いなかったから。
「デートするのにいい場所、知らない?」
私がはにかみながらテオに聞くと、彼は「もちろん知ってるよ!」と返した。
「岩窟島でワクワク鉱山探検! 花影島でドキドキ植物採集! 他には……ねえ、皆! 何かアイデアない? オフィリアさんがお兄ちゃんとデートするんだってさ!」
テオが大声で吹聴してくれたお陰で、明日には私とアイザックさんの関係が聖域中に広まることが決定してしまった。当の本人のアイザックさんも弟の声が聞こえたらしく、ちりとりでゴミを掃く姿勢のまま固まっている。
どうやら二人きりのお出かけにサプライズで誘う……っていう手段は取れないみたい。
話を聞きつけた住民がわらわらと集まってきて、次々に愉快なデートのプランを提案し出す。
ああ、もう! 嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑な気分だわ!
「皆、協力してくれてありがとう」
私は開き直ってお礼を言った。
「会場の片付けが終わったら、守り人の館へ来て。そこでお話を聞くから」
こうなったら、このチャンスを活かすのみだ。何としてでも最高のデートを計画してやろうじゃない!