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隠れ攻略対象(女)はヒロインに攻略されたい。  作者: 如月あや。
第一部 幼年期編
2/2

1. 隠れ攻略対象(女)は現状が不安

 舞踏会。

 それは西洋の文化におけるダンスパーティーのこと。皆それぞれ多種多様なドレスや礼装軍服、ダブルブレストなどに身を包み、きらびやかな装飾のなか優雅に時間を費やす貴族特有のイベントだ。


 だが、それも主催者側となれば話しは変わる。早朝からバタバタと屋敷全体が忙しい雰囲気に包まれ、どこかピリピリとした雰囲気も感じる。

 いつもより数時間早く起き、やっと朝の入浴が済んだと思えば次々に男装用の器具が身体に装着されていった。日々鍛練を積んだおかげか、器具は重くは感じないが大分動きづらい。


「終わりましたよ、ルージュ様。」


 使用人の声に鏡に顔を向ければ、そこにはとんでもねえ美少年が立っていた。さすが、乙女ゲームの攻略対象ともなれば幼い頃から美形と相場が決まっている。

 昨日まで綺麗に整えられえていた亜麻色の髪は、面影もなく後ろが刈り上げられ前髪の毛先まで動きが計算されたかのようにセットされていた。

 昨晩父が持ってきたウェルザー家の礼装軍服は、金縁に白とあまりにも正気を疑う目を引くデザインにおいおいまじかと思ったが、意外とすんなり着こなしている。さすが美形、とんでもねえな。


 …うん。これなら将来も楽しみというもの。自分がどんな美形になるのか、今後が楽しみである。


「ありがとうセシリア。これなら人前に出ても恥ずかしくないよ」


 教えられた言葉遣いに、教えられた所作。教えられた表情をつくり、生まれた時から自分の世話係を努めるセシリアに微笑めば、セシリアはぽっと頬を赤らめもごもごと口を動かした。

おっと。効果は抜群だ。


 またチラリと鏡に視線を向ければ、確かにこんな美形に微笑まれれば顔赤くなっちゃうかもなと納得してしまう。めっちゃイケメンだもん。


「ルージュ様、すごい自分の顔みてるわね…」

「無理もないわよ…、昨日までとは別人だもの」

「満更でもないように見えますがね…」


 なんか悪口を言われた気がするが、気にしないに越したことはない。だが居心地が悪いことには変わりないので、人払いをして中庭を彷徨うために窓から飛び降りた。


 中庭の手入れは庭師のデュークさんと母がやっているらしいが、季節の花が満開で咲いていて非常に心地いい。よく鍛練の授業と地理の授業の息抜きで抜け出してここにくるため、デュークさんが最近内緒でベンチとアフターヌーンティーセットを用意してくれている。優しみがすごい。


 今日も今日とて中庭に息抜きをしに行けば、なぜかそこには先客がいた。デュークさんが用意してくれた私専用ベンチに腰掛け、ぼうっと虚空を見つめる少年が一人。

 とりあえず来た道を戻るのもしのびないので、その少年に話しかけることにする。披露宴で友人がいないというのも寂しいし、本当に男として見えているか不安な面もあるし。


「初めまして。隣いいですか」


 取り敢えずマナー講師に教わったような言葉遣い、所作を意識しつつ件の少年に話しかけてみる。少年は濃い緑色の瞳を大きく見開くと、慌てて立ち上がり深くお辞儀をした。瞳が濃い緑色ということは、彼は草魔法使いか。


「あ、勝手にすいません!…会場の空気にのまれてしまったもので…、あの、貴方は今日の主催者の、ルージュ・ウェルザー様、ですよね?」


 なんでわかったんだろうと思わず身体を硬直させれば、彼は緊張が和らいできたのか元から垂れた瞳をさらに垂れされ人懐っこい笑みを浮かべた。顔がいいな。


「その瞳は特徴的ですから。僕のような草魔法使いは結構な人数おりますが、貴方のような光魔法使いとなれば、ウェルザー家しかこの世界にはおりませんし…。本や教材でしか見たことありませんでしたが、実際は本当に美しい色ですね…。密とも言えるような、いやそれ以上の…」


 ペラペラとテンポよく話す少年に、思わず相槌しか打てずに感嘆の声をもらしてしまう。私と同い年くらいなのに、随分と難しい単語を話すしなにより知的好奇心が強いことがすごく伝わってくる。

 勉強から逃げ回り身体を動かすことに特化した人間の自分からしてみれば、この知識量には感嘆の声をもらすことしか出来なかった。もっと勉強して講師の話しに好奇心を持てば、彼の話について相槌だけじゃなく賛同まで出来るのだろうか。


 パチリと今まで合わずにいた目が合えば、彼はかあっと顔を真っ赤とも真っ青とも言える色に染めて、ガバッと効果音が付きそうなほどに頭を下げた。え、どうしたんだろ。


「す、すいません…!あの、お、僕すぐ周り見えなくなる癖があって、よく兄様たちからも怒られていたのに、それを、ウェルザー様にまでやってしまうなんて…!つい文献でしか見たことのない光魔法使いの方に会えて、興奮してしまって、つまらない話を、長々と」


「…いや、とんでもない。むしろ俺が知らない情報ばかりで、大変勉強になることばかりでした。それに、お恥ずかしながら自分は勉強から逃げてばかりいて、知識というものがあまり身についてはいないのです。

貴方のお話がつまらないなんてとんでもない。むしろ、俺からしたらためになることばかりでした。」


 そこで言葉を区切って隣に座る少年に目を向ければ、少年は顔を真っ青から赤に染め上げて瞳に涙の膜を作った。…え、泣く!?

 思わず今度はこっちが顔を真っ青に染め上げれば、少年はふにゃりと微笑んだ。彼は泣いてはおらず、どこか嬉しそうに綻んでいるようにも見える。


「…光栄です、とても。貴方と話が出来て良かった。申し遅れました、僕はマシェリー。マシェリー・オーガニー。オーガニー伯爵家の三男です。…どうぞ、僕なぞに敬語などは使わず、マシェリーとお呼びください」


 先程までのふにゃりとした表情から一変、キリッとした表情で右手を差し出した彼に、少し戸惑いながらも右手を差し出し柔く握る。


「ありがとう、マシェリー。俺のことはルージュと呼んでくれ」


「!ありがとう、ルージュ様」







 部屋に戻ってしこたまメイド長に怒られた後、舞踏会が始まり何事もなく私の披露宴は終了した。途中マシェリーと話も出来たし、女の子たちから黄色い歓声もいただいたし。無事何事もなく終われて良かった良かった。


 ……ん?マシェリー・オーガニー…。オーガニー家三男、茶髪、天パ、濃い緑瞳、童顔、垂れ目、知的、勤勉、草魔法使い…。

 …いた。いたな、いた気がする。攻略対象のページにいた、……あ!生徒会長マシェリー・オーガニー!


 7年後、マシェリーは入学早々生徒会に就任しその一年後生徒会長に抜擢される。見た目が今の幼さとは欠け離れた、クール丸眼鏡インテリキャラだったから、思い出すまでに時間がかかってしまった…。

 魔力はそこまででもないが、学年トップを誇る学力から信頼を得て生徒会長の座に収まった努力家。近付きがたい雰囲気を出しているが、喋ればおしゃべりで所作は紳士的で、でもどこか抜けている雰囲気にギャップ勢が悶え苦しんだ新規殺し。

 つまり彼と私はライバル。攻略対象のなかでも人気高めの彼は、わりと強敵に値するだろう。


 …でも、そもそもなんで私は隠れ攻略対象なんだっけ。男装女子だからってのもあるだろうけど、キャラとしてはどんな立ち位置で、どんな役回りをしていたかな。

 今の私は、剣術や体術を得意とする頭脳というよりは運動派で、家系から伝わる光魔法使い。見た目も攻略キャラだからか悪くないし、身長もマシェリーより高い168まで伸びた。7年後にはわりと高身長になっているんじゃないだろうか。


 …私は、原作通りのルージュ・ウェルザーになれているだろうか。

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