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第08話、魔導書、『七つの大罪』①


 アリス・リーフィアは魔力がないと言うわけではない。ただ、初級魔術が使えるか使えないか、と言う感じだ。

 ゆえに、魔力がほぼないという事、らしい。


 魔力測定と言うものの判断はそうだった。

 アリス・リーフィアはリーフィア家では父親には『娘ではない』と言われてしまった事で、家族からいないモノと扱われるようになった。

 当然、学園に行くお金すら出してもらえないアリスは自分で稼ぐことしかできなかった。幸い、まだ魔力測定を行われる前には愛されていたので、小さなドレスやくすねた宝石も少しだけ残っている。

 アリスに協力してくれるメイドや庭師など何人か居たし、父親の専属である執事もアリスの事を気遣って、毎日ではないが様子を見に来てくれたこともあった。


 しかし、彼らは結局、『家族』ではなく、赤の他人であり、ただ可哀そうにと思って付き合ってくれる人たちだ。


 アリスは期待などする事はなかった。

 既に『家族』の愛情など、一年もすれば失せていたのだった。


 そんな彼女が、運命の出会いを果たす。

 それは、偶然だった。


「あ、アリス様……どちらに行かれるのですか!?」

「おはよう、メリッサ」

「お、おはようございます……ではなくてですね!」

「ねぇ、メリッサ。今日外に行きたいから一緒についてってくれる?確か今日は買い物係、メリッサだったよね?」

「……アリス様ァー」


 僅かな銀貨を見せながら答えるアリスに対し、メリッサと呼ばれたメイドは深いため息を吐いた。

 メリッサは元々はアリスの専属のメイドだったのだが、家族として認められなくなってしまってからはアリスの専属ではなくなってしまった。しかし、メリッサはアリスの事を気にかけてくれており、こうして声をかけてくれたり、時間があれば髪の毛も整えてくれたり、服装も貴族としての服装ではないが、弟や妹たちのお下がりを持ってきては着せてくれる。

 アリスにとって、メリッサは大切な友人みたいな存在だった。


 今日は父親と母親、そして弟と妹が屋敷に居る為、アリスは外からロープを使って降りてくる。外から出てきたアリスにメリッサは一瞬驚いてしまったが、それもすぐに慣れてしまった。

 ため息を吐きながらメリッサは話しかける。


「確かに今日は私、外に行く予定はありますが、アリス様はどうして?」

「この前本屋で今日読んでいた小説の続編のお話が出るって店主さんに教えてもらったの。だからどうしても買いに行きたくって」

「確か、以前行った本屋さんでしたよね?了解致しました。とりあえずアリス様、今から顔を少し洗いましょう。汚れておりますよ?」

「昨日水浴びしたんだけどね……ありがとう、メリッサ」

「水浴び!?どこで!!」

「抜け出した時に洗った」


 屋敷には浴槽もあるのだが、アリスにそれを使う権限はない。

 毎日ではないのだが水で体を洗い、凌いでいるのはメリッサも知っているのだが、昨日は確か気温が低かったはずだ。冷たい水で洗っていたと言うのだろうかと考えると、涙が出てくる。


「す、すみませんアリス様……お風呂問題、解決しないといけないですね……」


 メリッサはそのように言いながら、涙を流している。アリスはそんなメリッサに対し、優しく手を握りしめた。


「仕方ないよ、私はここの『家族』じゃない、存在しないのだから」

「……アリス様」

「それに、メリッサは声をかけてくれるし、執事のキースも庭師の人たちとか声をかけてくれるし、それだけで十分!」

「……ええ、私もアリス様の事、とても大事ですよ」


 ――いつか、アリスを連れてこの屋敷を抜け出したい。


 メリッサは叶う事のない願いを思いながら、笑っているアリスの身体を優しく抱きしめたのだった。




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