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第07話、アリス・リーフィア④

「……あの、ごめんなさいクライシス様……私、結構とてつもない隠し事しています。けど、正直、まだあなたの事を信用出来ないでいます」

「正直だな……まぁ、確かに数日前にあった男を、そんでもって突然妻になってほしいと言う男を簡単に信用しないだろう」

「……でも、クライシス様は優しい人だと思っております」

「……何故?」


「――あのお店でお話した時にクライシス様との短い時間、優しい顔をしてくださいましたから」


 まだ、アーノルド・クライシスと言う人物がどのような存在で、どのような人なのかと言うのを知らなかった時。たまたまお店に入ってきたあの時、色々と話を聞いてくれた時の顔を、アリスは忘れていない。

 この人は、優しい人なのだと、昔から家族に存在を否定され続けていたアリスにとって、楽しい時間の一つだ。

 学園でも、居場所がない彼女にとって、あの時の短い時間は、貴重な事だった。色々と自分の話をしても、魔力がないと言っても、アーノルドはちゃんと、最後まで聞いてくれた。


『――お前は、この世界が好きか?』


 一瞬あの時の言葉と共に、アーノルドは何処か悲しげな表情を見せながら、しっかりとアリスを見ていた時、その言葉の意味は未だに理解出来ていない。

 もし、嫌いだと言っていたら、どのような結末を迎えていたのだろうか?


 アリスにとって、世界と言うものは別に興味がない。

 これからも、彼女は普通に、平凡たる日常を送る予定だった。

 学園を卒業したら、何処か遠い地に行き、田舎生活をしながらスローライフを送っていこうと思っていたのに、まさか目の前の男に求婚されるなんて、誰が想像しただろう。

 因みに彼女はまだ返事も何もしていない。追い詰められている状態で現在に至るのだから。


 そして、その言葉をはっきりと口にした瞬間、アーノルドは突如、ククっと声を少しだけ漏らすように笑いだし、手で口を抑えながら、肩を震わせる。

 変な事でも言ってしまっただろうかと青ざめた顔をしながらアリスは声をかける。


「あ、あの、クライシス様……わ、わたし、変な事言いました……?」

「いや、ハハッ!本当、お前は……いや、俺が優しい顔をしているように見えるか?」

「……少なくとも、あの時はそう思いました」

「そうか」


 ――『悪魔』と呼ばれている|アーノルド・クライシス《おれ》が、そんな顔をしていたと言うのだろうか?


 アーノルドはその言葉を聞き、それ以上答える事が出来ないまま、静かに沈黙が流れていく。

 これ以上ここに居てはいけないような気がしてならないアリスはリアムに視線を向けると、リアムは静かに頷き、出口の方に合図を向ける。

 アリスはそれを受け取り、視界から外れている事を願って、ゆっくりと体を動かし、その場から逃走しようとし――腕をがっしりと掴まれた。


「ひぃッ!?」


 突然大きな手が伸びてきて、アリスの腕に鷲掴みにする。

 思わず恐怖の声が出てしまったアリスは大きな反応を見せてしまい、その先に視線を向けると、紛れもない、アーノルド・クライシスの姿があった。

 これは、逃げられないと悟ったアリスは青ざめる。


「……だからこそ、俺から逃げるか、アリス・リーフィア」

「ひぇぇぇ!!ご、ごめんなさい!すみません!!だから無理なんですぅ!!」


 鋭い瞳が、アリスを捕えて放さない。

 どうしてここまで、面白くない女に固執するのか全く意味が分からないアリスは、とにかくどうにかその場から逃げたかった。

 しかし、アーノルドは逃がすつもりはないらしい。

 掴んでいた腕をそのまま強く引っ張り、身体がアーノルドの方に引っ張られ、そのまま彼の身体に収まるように引き寄せられる。


「むぐっ!?」


 胸に収まってしまったアリスは真っ赤な顔をしながら顔を向けると、そこには楽しそうに笑っているアーノルド・クライシスの姿がある。間違いなく遊ばれていると理解したアリスは顔面真っ赤に染まりながら、慌てる。

 振り払おうとしている手など、アリスが振り払えるはずがない。彼女は一応、女性であり、目の前にいるのは『悪魔』と呼ばれている男なのだ。


「アーノルド、流石に――」


 リアムがアリスが既に限界だと理解したので、急いで間に入り彼女たちを放そうとしたのだが、それをやる前にアリスは既に限界だった。

 もはやバレても良いと理解した彼女は奥の手を使う。


「……ス」

「アリス?」


「け、ケルベロスぅぅううううッ!!」


 もはや全てに限界を迎えた彼女が使った奥の手は『強制召喚』である。

 アリスが獣の名を呼んだと同時に、彼女の周りに魔法陣が浮かび、そこから『魔導書』が召喚される。

 突然の事に驚いたアーノルドは急いでアリスから手を放し、距離を取ると同時に、『魔導書』は勝手に開き、ある一ページに止まる。

 そして、そこから出てきた存在に、アーノルドは目を見開いた。


「がうッ!!!」


 次の瞬間、その『魔導書』から出てきたのは小さな黒い三つの頭がついた犬だった。

 頭が三つもある犬なんてこの世に存在しない――つまり、『魔獣』と言う存在なのである。

 涙目になっているアリスに目を向けた三つの頭を持つ犬はそのまま目の前で彼女の匂いに近しい存在を睨みつけ、容赦なく三つの頭の一つがアーノルドに噛みついた。


「なっ……」


 何が起きたのか理解できないアーノルドはその噛まれた犬を凝視し、微かな痛みを感じたと同時に、その犬を振り払う。

 振り払われた事で三つの頭の犬は地面に付き、そしてそのまま後ろで涙目になって崩れ落ちるように座っているアリス()に目を向けた。


「アルジ、ダイジョウブ?」

「ご主人様、あの男に何かされたの?」

「なんでも命令して、ボク、ひめさまの為なら噛み殺しちゃうから!」


「……うう、ごめんね……ありがとう……」


 それぞれ一つずつ、意志があるらしく、そのまま一匹、頭が三つの魔獣はアリスをご主人様と言い、慰めようとしている。

 そんな光景を、噛まれたアーノルドは呆然と見て、そしてリアムを見る。


「……どういう事だ、リアム」

「……いじめすぎなんだアーノルド……お前、『彼ら』全員に嫌われたら、きっとアリスを妻になんて出来ないぞ……まだケルベロスの方がかわいい」


 リアムはそのように言いながら深くため息を吐き、頭を抱えた。


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