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第56話、クロード・クライシス侯爵⑥


 一つだけわかった事は、アーノルドもアリスの周辺と、アリスの家の事を調べていたと言う事が理解できる。

 確かにクロードの言う通り、アリスは家がどのようになっているのか知りたかった。

 家を出て寮に入ってしまったアリスにとっては、知るすべなどないのだ。

 優しくしてくれた使用人たちはどのような生活を送っているのか、それが一番気になってしまったのも事実。


 既にアリスも、そして魔術師ではなく、騎士となって勘当されてしまった兄のリチャードですら、家の事は知らないのだ。


「……アリス嬢、アーノルドは本当に君の事を大切に思っているみたいだね」

「……え?」


 紅茶を飲む動きを止めていたのに気づいたのか、クロードがアリスに声をかける。

 一瞬驚いた顔をしながら、アリスはクロードに視線を向けるが、クロードは笑った顔でアリスを見つめている。


「あ、の……大事、と言うのは、どういう事で……」

「うちの息子のアーノルドは、簡単に動かないんだ。と言うより、兄弟以外は全く興味がなく、相手にも全く持って容赦ない男でね」

「……あー……聞いた話では、学園でもそのような対応だったので……『悪魔』と言われていた、みたいです」

「家ではお兄ちゃんをしているんだけどね」


 フフっと笑うように答えるクロードの言葉にアリスは今朝の事を思い出した。

 アーノルドとアルド、そしてスフィアの三人と一緒に食事を共にしたのだが、確かいアーノルドはお兄ちゃんと言う感じで弟、妹に優しくしている姿を思い出す。

 確かに、家では『兄』をしているのだな、とクロードの言葉を理解した。


 アーノルドが学園でどのように送っているのか、友人である第三王子、リアムから簡単に聞いた事がある。

 彼は、『悪魔』の名前にふさわしい存在だと。


『邪魔だと思ったものは容赦なく切り捨てるタイプだから気をつけろ』


 忠告されたことを思いだしたアリスは、軽く身体を身震いさせた。


 しかし、アリスに対してのアーノルドは優しい瞳をしていた。

 最初は怖い、と思ってしまったが、今朝の事を考えてみると、アーノルドの瞳は穏やかで、優しい。

 全てを話した時も、彼は最後まで聞いてくれ、手を伸ばしてくれた。


 ――甘えてはいけない、と言う気持ちになりながらも。


「アリス嬢」


 クロードがアリスに声をかけたのだが、アリスは反応しない。

 何かを考えているかのような、そんな素振りを見せながら、アリスはその場で座って固まったまま、動かない姿を見ながら、再度クロードが声をかけようとした時、メイドであるアスモデウスがアリスの肩を叩く。


「ご主人様」

「ッ……あ」

「侯爵様が呼んでおります」

「え、あ……す、すみません!考え事をしていたので……」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 考え事をしていたので、クロードの声が聞こえずに反応出来なかった事を謝罪するように、アリスは慌てている。

 そんなアリスに笑いながら、謝罪を受け取ったクロードだが、ふとクロードはアリスの後ろに居る女性、アスモデウスに視線を向ける。

 アスモデウスもクロードが目を向けた事に気づいたのか、フフっと笑いながらクロードに目を向けて――その笑いは明らかに、殺意のある笑みだった。


「……なるほど」


 クロードは静かに、自分自身に納得するかのように一言、口にした後、シファが用意してくれた紅茶をすべて飲み干した。


「さて、アリス嬢……今日はどのように過ごす予定なのかな?」

「え、あ……そ、そうですね……部屋にこも――」

「部屋に籠って調べ物をするのでありましたらご遠慮下さいね、ご主人様?」

「……」


 部屋に籠って調べ物をしたり、研究をしたい、と言おうとしたのだが、笑顔で後ろに居るアスモデウスに断れてしまったので、アリスはそれ以上口にする事は出来なかった。



読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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