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第21話、兄と妹⑦


「姫様?」

「……」


 突然動きを止めたアリスが視線を向けた先に、何か不可解なモノを感じたクロはシロの方に視線を向けると、シロは先ほどの喜びなど嘘のようになくなり、いつもの無表情の顔に戻っていた。

 彼はそのままアリスを体を抱き上げ、声をかける。


「ご主人様、何を感じた?」

「……何か、良くないモノ」

「だろうな。俺も感じた。おい、クロ」

「……ええ、二人の言う通り。あそこから『瘴気』のような存在を感じます」

「……何かを呼び起こしたか、それとも――」


 クロとシロの二人が何か会話をしている中で、アリスはそこから感じた何かをジッと見つめたまま、視線をそらず、動かない。

 まるで人形のように固まっているアリスは、ふと我に返った後、そのまま抱き上げてくれたシロに向けて発言する。


「シロ、クロ、あそこに行きたい」

「別に行っても構わないですか……どうしたのですか?」

「……あっち、あっちの方角は、確かゴブリン退治の依頼が来ていた洞窟がある方向……ミリーナさんが言ってた。ゴブリン退治、兄上とその仲間たちが行ってるって」

「え……」

「何?」


 ミリーナから聞いていた、兄であるリチャードがどこに行くのかを。


『ゴブリン退治に行くって言っていたわ。まぁ、彼らの実力ならゴブリン退治は大丈夫でしょう』


 どこにあるのか、一応場所も優しく、丁寧に教えてくれた。地図通りならば、あの方角は間違いなくゴブリンの巣の洞窟があるはずの場所だ。

 目を見開いて、微かに唇が震える。


「ご主人様、助けに行くか?」

「……あなたの命令ならば、私たちは動きます」

「……」


 鋭い視線を向けながら答えるクロとシロの姿を、アリスはただ見つめることしかできない。

 同時に、兄であるリチャードの事を思い出してしまった。


 ――彼女は既に、『家族』と言う存在を否定した目で見ていた。


 本来ならばアリス自身、助ける理由などない。

 助けたところで声をかけてもらうワケでもないし、仲良くなるわけでもない。アリスはあの『家族』から、『いらないモノ』と扱われているのだから。

 しかし、それでも――アリスは、『魔術』より、『剣術』を好むリチャードの姿は忘れられない。


 夢を語るリチャードの姿は、アリスも忘れる事は出来ない。


「……ケルベロス、シロ、クロ、はじめて、命令します」

「なんなりと」

「ああ、命じろ」

「「「ごめいれいをー」」」


「――リチャード達を、助けに行く」


 ぺらっと魔導書のページを一枚めくった後、アリスは二人と一匹に向かって答えた。


  ▽ ▽ ▽



 妹()()()少女が、何故あの時冒険者ギルドに居たのかわからない。ただ、大きな瞳で自分を――リチャードを見ていた時は本当に驚いてしまった。

 数年、家族ではなくなったアリス・リーフィアは屋敷の離れになる所に閉じ込められるような形で生活しており、家族だったはずの人たちからは『無視』されている状態で暮らしている。


 ただ、魔力がごくわずか、と言うだけで。


 リチャード・リーフィアも魔力は人並みにあった。だからこそ、将来有望されていたのだが、リチャードにとって『家族』、『家』と言う存在はきつい場所だった。学園に入ってすぐ寮に入って、家族と別れたのはそのためだ。

 一つはアリスを助けられなかったという事。

 一つは家族から離れたかったという事。

 リチャードは本当は『魔術師』と言う存在にはなりたくなかった。騎士団にも憧れたし、剣術を極めたいと言う事もあった。そんな夢を知っているのはアリスだけだ。

 もし、剣術を習いたい、騎士になりたいなんて言ったら、父親はどのような対応を取るのだろうか?


 リチャードは怖かった。

 アリスと同じようになるという事が。

 結局はアリスよりも、『家』を選んだのだ。


 夏休みに入り、家に帰ってきた所でリチャードがやる事は冒険者ギルドに行き、依頼をこなしながら剣術の修行に励むだけ。

 学園の友人たちとパーティーを組んで、今回はゴブリン退治に向かう時、リチャードは数年ぶりにアリスを見た。

 子供から少女になった彼女はボサボサした髪の毛に古着のような恰好をしながら、受付嬢であるミリーナや冒険者ギルドのギルドマスターと話をしている姿があった。すごく親しい姿に、思わず目を見開いた。


 あのような姿をいつぶりに見ただろう、と。


 アリスと視線が合った時、思わず視線をそらしてしまった。自分があの間に入る事が出来ないとわかっていたからである。

 持っていた剣を握りしめ、仲間たちと今日もいつものように依頼をこなすだけ。今回はゴブリン退治だ。

 巣穴の洞窟に行き、ゴブリンの巣穴で潜めていたゴブリンたちを全て退治して後片付けをしている時、仲間である少女が言った。


「ねぇ、リチャード。これ、何かな?」

「え?」


 突然何を言い出すのかわからなかったリチャードが視線を向けた先に、大きな扉がある。その扉から微かに何かを感じる。

 このような扉など先ほど戦闘していた時あっただろうかと思いながら、リチャード達は洞窟の奥に行き、その扉の前に立った。


「さっきまでなかったよな?」

「もしかして、魔術か何かでしょうか?」

「ええ、怖い……リチャード、どうする?」

「どうするって……とりあえず一度戻って冒険者ギルドに報告した方がいいかもしれないな。何か変な感じがする」


 リチャードがそのように答え、扉に触れた時だった。

 その扉がまるでリチャードに反応したかのように、ゆっくりと扉が開かれた。


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