見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
魔法使いうさみと異世界を繋ぐ魔法の手紙
「ふんふんふふ〜ん」
ここは、アザレアの街中、見習い錬金術士ミミリの錬成工房内。
2階にある洗面所のドレッサーの前で、椅子の上に立ち上がったぬいぐるみのうさみは、灰色の両手で片耳を挟んでは整え、挟んでは整え……。顔の角度を変えては、鏡に映る自分の笑顔の入念なチェックを怠らない。
鼻唄まで歌って、気分は恋する乙女のよう。
そんなうさみを洗面所の入り口から顔を覗かせて見つめているのは、見習い錬金術士のミミリと、見習い冒険者のゼラ。
「ねえねえ、ゼラくん。うさみの様子、最近おかしくない?」
「やっぱりミミリもそう思うか? 俺もうさみの様子の異変には気づいてたんだ。だって最近、俺にめちゃくちゃ優しいからさ!」
「そっかぁ……」
ミミリは、ちょこっとコメントに困るなぁと思いながらも、嬉しい時や興奮している時に震えるうさみのふわっふわのしっぽに釘付け。
「あっ! そうだ!」
閃きとともに、ミミリの【白猫のセットアップワンピース】のしっぽもピーン! と伸びる!
思いついてしまったことがあるので、ゼラの耳元に口を近づけて、ヒソヒソ声で提案を始めた。
「ねえ、ゼラくん」
「……ん? (と言うのが精一杯だ! ミミリ! 近い近い(ありがとう))」
「思うんだけど、あんなにおめかしして出かけるのって、くまゴロー先生とのデートなんじゃ……」
ゼラは、ミミリの話どころではなく、ミミリとの距離感に心臓が持ち堪えられそうになかった。
――あぁぁ耐えるのがキツイ! ミミリが動くたびに香る【シャボン石鹸】の匂い……淡く甘い花が目の前に咲いたように俺の心はくすぐられる……俺はッ俺はッ……!
「だからね、名探偵みたいに尾行して……それで……」
「鎮まりたまえ邪念よ、煩悩よ〜! 去れ! 去るんだッ!」
堪えきれずに、ゼラは小声で言ってしまった。
……ミミリはもちろん――
「もう、ゼラくんお話聞いてるのっ⁉︎ もう、ゼラくんなんて、ゼラくんなんてええええ〜」
――顔をぷくーっと膨らませ始めた。
や、やばい。
この流れは……。
「食後のデザート、一個しかあげないからねっ!」
「……一個はくれるんだ……」
「もー! 怒ってるんだよ⁉︎」
「ごめんごめん……」
こんなミミリたちのやりとりなんて、耳のいいうさみはバッチリ聞こえているわけで。
「ふふふ。可愛いったらないわね」
と言ううさみは、小声でポソリ。
あまりに可愛いく思えてしまったため、聞こえているけど、聞こえないフリをしている。
こんな調子で、ミミリたちの作戦はうさみにバレバレなのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃっ、ミミりん、ゼラ、お散歩行ってくるわね〜」
「う、うううん。気をつけてね! うさみ」
「悪いやつに攫われそうになったら、容赦なく魔法使うんだぞ! いつも俺にしてるみたいに」
「はいはーい(まったくミミリは嘘が下手だし、ゼラは失礼だし)」
そんなことを思いつつも、うさみは麦わら帽子に水色のワンピース、それに新作のうさぎリュックを背負い、いつもの冒険スタイルに比べたら軽装でありつつもおめかしバッチリ、軽快に家を出て行った。
◇
「さぁ、後をつけるよゼラくん!」
「……よし! 行くか! くまゴロー先生と密会してるところを邪魔しちゃ悪いけどな。……だけど気になるし、心配だしな」
「うんっ! 行こう!」
ミミリたちは、こっそりこっそり名探偵の如く、後をつけ始めた。
……ちなみに、この時のミミリたちは大事なことを忘れている。
うさみは魔法使いであることを。
そして――うさみが探索魔法の使い手であるということを。
つまりは全て初めから、ミミリたちの話が聞こえようが聞こえまいが、うさみの後をつけるなんて不可能なこと。バレバレなのである。
◇ ◇ ◇ ◇
「……闘神の重責っ!」
「「キュエエエエエエ!」」
――瀕出モンスターのほろよいハニーが、うさみの容赦ない重力魔法によって、アザレアの森の土にバタリバタリと落ちてゆく。
「うっわ、さすがうさみって強いなぁ、な、ミミリ?」
と振り返ったゼラは再び舌を巻く。
「え〜いっ!」
ちょうどミミリが、錬成アイテムを使うことすらなく、雷のロッドでほろよいハニーをボコボコに叩いていたところだった。
「まったく……うちのお姫様たちときたら強いんだから。
………………!
ミミリ! うさみに動きがあったぞ!」
アザレアの森に入って30分くらいは経過しただろうか。うさみの目の前には、一本の大きな木がある。全長は数十メートルといったところだ。
しかもなんだか……。
「ねぇ、ゼラくん。何度かこの森で冒険してるけれど、あんな木あったっけ? それになんだか……」
「あぁ。あの木から何か異様な気配を感じる。木のウロに、霧のようなものが充満していそうだ。どうやら、くまゴロー先生じゃないな」
「うん」
「「行こう――!」」
探偵ごっこはここでおしまい。
ミミリとゼラは、うさみに危険を感じて飛び出――す前にうさみから声をかけられた。
「ミミリ〜! ゼラ〜! 隠れてないでこっちいらっしゃい!」
「「――へ?」」
なんと大らかに手招きまでする有様。
「うさみ、尾行してたの気がついてたの?」
「なぁに言ってんの。私に隠し事なんて無駄無駄ッ。そもそも、私が探索魔法使えるの忘れちゃったわけ?」
「「あ……」」
ミミリとゼラは顔を見合わせ、揃いも揃って吹き出した。
「で、ここでなにしてるの? うさみ」
「それはね。んふふ。お手紙送るのよぉん」
「もしかしてラブレター⁉︎ くまゴロー先生にか?」
うさみは手を左右に振って、チッチッチ〜と言って勿体ぶる。
「違うのよん。偶然ここで、ソフィーちゃんっていう可愛らしいうさぎの人形と出会ってね。私ってば、手紙、もらっちゃったのよ〜♡」
「うさみ、すごーい! それに、うさみの他にも動いて喋れるぬいぐるみがいるんだね! 錬金術が関係してるのかなぁ」
うーん、とうさみは腕を組む。
「どうかしら。不思議な縁を感じたけれど、錬金術の気配は感じなかった気がするわ。この世界には、私たちが知らないことがまだまだたくさんあるってことね」
「そうだねぇ」
「それで? うさみ、返事はどうやって出すんだ?」
うさみは、木のウロの霧を指し示す。
「ここよ。ここでソフィーちゃんと出会えたんだから、ここへ私からのお返事を入れたら、運良く届くような気がしてね。だから今日はお手紙を持ってきたのよん♡」
うさみは、背中のうさぎ型リュックからうさぎ型の封筒を取り出した。
ちなみにこのうさぎ型リュックは、うさみのファンである武器屋虎の威の店主、ガウルさんからのプレゼントらしい。
「うさみ、どんなことを書いたんだ?」
「教えるわけないでしょ? うさぎ同盟の秘密よ。ゼラのスケコマシのコシヌカシッ」
「口悪すぎだろ……」
「まっ、まぁまぁ、みんなでお祈りしよう。無事に、ソフィーちゃんにお手紙が届きますようにーって」
「そうね」 「そうだな」
ミミリたちは、木のウロの前に膝をついた。
そして両手を組んで、瞳を閉じる。
「「「どうか、手紙がソフィーちゃんに届きますようにっ」」」
――うさぎ同盟のソフィーちゃん、これからよろしくねん。
うさみは真摯に祈りを捧げた。
うさみの手紙は、きっとソフィーちゃんのもとに届くことだろう。
ミミリたちの分も、祈りを乗せて……。
「さぁっ、帰りましょう、ミミリ、ゼラ。そういえばミミりん、雷のロッドでほろよいハニーを殴り倒すとは強くなったわね!」
「ええええ〜見てたの〜? 恥ずかしい〜」
「それにしてもゼラ! 前線に立ってミミリを守りなさいよねッ! まったくぅ」
うさみのいつもどおりのお小言に、ゼラはクスリと笑って答える。
「ほんとだよな。俺が盾になんないとな。お詫びに、とびきり美味しいはちみつパンケーキを焼きますよ、お姫様方?」
「「楽しみ〜」」
「さぁ、帰ろ〜!」
名探偵ミミリと助手ゼラの探偵ごっこは不発に終わったが、うさみの新しいお友達、ソフィーちゃんのお話で今日の食卓も話に愛らしいうさぎの華が咲くことだろう。
◇
ソフィーちゃんへ
こんにちは。うさみよん。
この間はお手紙ありがとうね。
私、とってもとっても嬉しかったわ!
しばらくしっぽの震えが止まらなかったもの。
冒険は苦しいこともあるけれど、楽しいこともそれ以上にたくさんあるわ!
私もソフィーちゃんの学園のことはよくわからないから、またお手紙交換しましょうね! クッキーのお話の続きもまた聞きたいわ。
そして今度は恋バナしましょ!
実は私、憧れの人がいるのよねん。くまゴロー先生っていうの。
いつか、お互い行き来できたらいいわよね! その時は、メイちゃんや他の大切なお友達も紹介してね。
私もミミリやゼラ、他の家族や大切な人たちを是非紹介したいわ。
お返事待ってるわね。
これからも、よろしくね。
ミミリのぬいぐるみ うさみより
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
https://ncode.syosetu.com/n1094hm/
のシリーズ番外編ですっ!
なんとなんと、あの作家さんとのスペシャルコラボですっ!
作家さんはこちら
神崎ライさん(@rai1737)
コラボイベント第一弾ですっ!
☆神崎ライさんのご作品はこちら☆
https://ncode.syosetu.com/N3370HF/
他の作家さんとのコラボ小説も今後増えていくかも!?
応援よろしくお願いいたします。
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うさみち