第二章 ”殻”
ルーシーとの生活はとてつもなく苦しく、悲惨なものだった。
あれから僕はバイトを辞めて、ルーシーの『住処』に住むことになった。一言で表すならここが本当の『地獄』だ。朝から昼まで永遠とルーシーにボコボコにされ、昼からは部屋の中で『変な玉』を見つめる修行。夜には走り込み。夜中に帰り、やっと眠りについたと思ったら、朝からまたボコボコ。そんな日常を3ヶ月過ごしていた。
「あー、やっぱり亜生は弱いわね。ほんっとイライラするわ。」
人のことを散々ボコボコにしたあげく、弱い僕にいらつくと言われても、「すいません」としか言い様がない。僕は仕方なく、ルーシーの機嫌を取りにいった。
「ルーシー、今日は僕が悪かった。お詫びに何か--。」
僕が言い終わる前にルーシーは目を輝かせて言った。
「マナ!!あのマナが食べたい!!」
ルーシーが言う『マナ』とは、イチゴ大福のことだった。ルーシーの地元の食べ物に味が似ているらしい。
「マナでいいんだね?僕が買って来るよ!」
お金はルーシーとの修行の中でミッションをクリアーすると貰えている。値段は割に合ってはいないが、無償よりはいい。だが、今の僕には、大福一つでも痛い出費だ。しかし、機嫌をとるにはこれが一番なのだ。
「亜生~、あなたいい子ね!」
ルーシーは笑顔で僕を見送った。
「ま、まあ行って来るね」
僕にとっても、いい気分転換になるし、足早に買い物に向かった。
ふと、空を見上げた。夕焼けがどんどん広がって行く。
「きれいな空だね」
突然、誰かが囁いた。"ドクン”と自分の鼓動が大きく鳴った。『あの日』の記憶が蘇り、体の震えが止まらなくなった。怖い。怖くて振り返りもできない。殺されるのか?そう思っていると、目の前に女の子がひょこっと出てきた。
「なにビビってるですか?悪魔もビビることあるんですね~」
僕のこと悪魔と呼び、そして、『悪魔でも』と言うとなると、この子はきっと『天使』だ。その割には、ジロジロ見るだけで、攻撃もしてこなければ、まず殺意が感じられない。僕は聞いてみることにした。
「君は天使か?なぜ僕に何も攻撃してこない?」
僕は恐る恐る訪ねた。
「だって~、あなたに攻撃したってつまらないじゃないですかぁ~。」
たしかに、今の僕は何も抵抗できないまま、殺される。だが、そんなにはっきり言われては、実力は無いが、ムカつく。
「僕には、何もできないと思っていると言うことかな?」
「何が出来るってんですか?」
沈黙が流れる。空気も、時間も、重くなっていく。
『バチンッッ!』突然稲妻のような、鋭く速い閃光が僕と天使の間に走った。
「あなた今、何したですか?」
そう言いながら、天使はギロッと睨みつけてきた。これは、確実に殺意のある目だ。
「待って、僕は何もしていない!突然稲妻みたいなものが」
僕が説明しようと、両手を前に出したとき、手の周りからどす黒い『モヤ』のようなものがでてきた。
「やはりあなたをここで仕留めることにしたです。」
天使は光の弓矢を僕に向けて構えてきた。
「死んでたまるか!まだ大福買ってないんだよー!」
僕は必死に叫びながら、思うままに『モヤ』を天使に向けた。
「そんなの効かないです。」
しかし、僕の攻撃は見事に光の矢に当たった。弓矢はドロドロに溶け出し、天使は突然熱がりだした。
「熱い!腕が焼ける!あなた何者ですか?」
そう言った瞬間、強い光が目の前に現れ、天使は消えた。
「何だったんだ?」
僕は命拾いしたことに一安心した。足がガクガク震えて、全く立てなくなった。これはヤバい。一刻も早くルーシーに大福を買わなければ・・・




