その生物の脅威
我々が彼らと出会ったのは、いつからだろうか。
今もなお、我々を魅了してやまない彼ら。
彼らに魅了されしものは、彼らのその造形、鳴き声、あげく文字を見るだけでもその身に変化が訪れる事になる。
顔中の筋肉は緩み、口許はだらしなく開けられ、その眼はまるで線のように。
本人らが気づかぬうちに、その姿は理性的とは言い難いものとなる。
彼らは、そんな人間達の気にも止めず、今日も悠々自適に地を歩き、あるいは寝そべっていく。
柔らかな毛先を、灰色の道路に、屋根の上や、家の床に着けて。
ギリシャ文字のオメガを模したが如き口を、大きく開くとそこにあるのは鋭く伸びた牙。
その牙で、眷属と成り果てた我々から、与えられたものを噛み砕いていく。
何を据えたのか理解の追いつかぬ、爛々と闇夜に光る瞳のなんと美しく――愛らしいことか。
暗闇を友としているかのように、彼らは町中を徘徊し、もしくは家主の都合も考えず特徴的な鳴き声を漏らす。
ある者はその鳴き声に悩まされ、ある者は鳴き声さえ愛おしく思う。
鳴き声は、春には求愛を意味し、彼らの孤独感を癒してやる必要があるのだ。
それか、彼らはどう思うかともかくとして、去勢か避妊をするべき。
重力をものともせぬ足は、まるでぬいぐるみを思わせるほどに柔らかく、竹の様にしなやかに機能する。
それは、いかなる高所からの落下でも衝撃を和らげ、身を助けていく。
尤も、だからといってあえて十メートル以上の高所から落とす輩など信じられないのだが。
足先を見てみれば、艶やかな桃色か、黒いぶち模様を描いて。
揉んでみると爪が伸びていく。
この肉球と身に備わった体感、バランス感覚でもって高所での登り降り――そして先祖から見られる狩猟本能の働きを助けるのだ。
その生物の特徴、それは耳にある。
あらゆる哺乳類に見られる耳の形状、その生き物の耳は逆三角を描いていた。
美しく、血管に染められた薄い耳は、愛らしい装飾品等ではなく、人間の三倍以上とされる聴力を備えている。
この耳は、神経節細胞から伸びる繊維が発達しており、それが驚異的な聴力での音の捕獲を可能としていた。
素晴らしき、その生物。
驚異的で、美しき生物の名は――。
『猫』、である。
ホラーかと思いきやの、ギャグ小説です。
私の作風から騙された方がいらっしゃるとは思いますが、たまにはこういったものもいいとは思いませんか?
もし騙された方がいらっしゃったら、ありがたいです。
「いや、騙されんぞ」といいながら、これを手に取ってくださった方もまたありがたいです。