第3章第016話 戦の前口上
第3章第016話 戦の前口上
・Side:ツキシマ・レイコ
次の日の午前。
場所は、堰が作られたところから下流に五百メートルくらいというところでしょうか。ここで両軍が対峙することになりました。
堰で止められていると言っても、二割くらいは水は流れています。完全に止めては下流の街が干上がるので、そこまでしては即戦争になりかねないことくらいは分っているようですが。ただこれでは、農水路までは水は行き渡らないでしょう。嫌がらせの限度は既に超えてますね。
まずは互いの陣の中間のところで、軍使を出しての口上の述べ合いとなります。
まぁ言っていることは、お前らが悪いのだからさっさと謝罪と賠償をして帰れ…ということなのですが。
ダーコラ国の軍使曰く。歴史的にこの三角州は我らがダーコラ国の領土なので、水利をどう扱おうが我らの勝手であり。ネイルコード国は、我が領内に作った街に関しても返上して当然…という理屈らしい。今まで手を出していなかったのに、作った物を丸ごと寄越せとは欲張りですね。
さらに私について。ダーコラ国の方がネイルコード国より赤竜神様を主神と崇める正教国に"位置的に"近いのだから、我らの方が宗教的にも歴史的にも上位国である。私やレッドさんに関しても、我らがお迎えする方がふさわしい。だから引き渡せ…と。
にしても、ずいぶん上から目線です。イラッとします。
カステラード殿下が前に出ます。弓矢などを警戒して周囲を大きな盾を持った騎士達がいつでも庇えるように護衛してます。側には、私も護衛として参加してますよ。盾となる…にしては、背が足りないのが難点ですが。まぁいざとなれば素手でも落しますよ?
「ネイルコード国軍相、カステラード・バルト・ネイルコードだ。歴史的な領地と言うが、この氾濫の多い地域でダーコラ国がこの領地に民を住まわせた記録は皆無では無いか。今現在そちら側にある村落にしても、対岸に我が国が開拓を始めてから慌てて対抗したに過ぎまい。この三角州が全てネイルコード国とまでは言わないが、我らが開拓した土地は我らの物だ。中央の氾濫する川を国境として満足するが良い」
こちらから出たのが第二王子だと知ったのか。ダーコラ国側からも、軍使に代わって派手な鎧でガチガチに固めた偉い人っぽいのが出てきました。
「私は、栄光あるダーコラ国から派遣された東征軍軍監、カプチャ・ケンタワ・シムケント子爵である」
真っ赤に塗られた凝った意匠の鎧に、ヘルメットは竜の頭? …もしかしてその鎧、脱いで組み立てると竜の置物になったりしません?
敬虔な赤竜信徒…というか、神兵とでもアピールしたいんでしょうけど。正教国の匂いがプンプンしますね。
「ふんっ! この地域の領有に関しては、正教国からも承認を得ておる!。まぁ、赤竜神の巫女様と小竜様を引き渡せば、しばらく御身の面倒を見ていた褒美として、東の下流の街くらいは下賜してもよいと、偉大なる我が主君、アルマート・ダーコラ・セーメイ陛下は仰せである」
要は、私を巡って戦争するか。私を引き渡してそれで済ますかの選択をしろということですか。
…一応この赤い鎧の人、交渉を任されてきたようではありますが。その物言いで承諾する国があると思っているのかしら?決裂させようとしているようにしか見えないですけど。
「赤竜神様は、明確な意図を持って我が国土にレイコ殿をお連れしたことは、御本人から確認している。いいか?御本人が仰っているのだ。貴様らの言い分は、一切認めることは出来ないな」
「く…街を滅ぼされてもかまわないとでも?」
「千五百ずつの部隊をすでに向かわせていると言いたいのか? そんなものは小竜様からのお告げでとっくにお見通しだ。対抗部隊も派遣済み。策は成らぬぞ」
私が抱っこしているレッドさんに、やっと気がついたようだ。赤くて目立つと思うんだけど、子供が抱いているぬいぐるみとでも思ったのかな?
「まさか…それが小竜だと。その尻尾のでかい犬みたいのが?」
「はい、この子がレッドさん。で、私が話題のツキシマ・レイコです」
「…王子の趣味で少女を連れてきたのかと思ったわ。ただ、そんな粗末な格好のガキが巫女様であるわけないだろ!」
粗末とか言われた…
ちなみに今の格好ですが。半袖な麻の服の上下を着て。その上に、皮のジャケットと皮の短パンです。防御というよりは、ドッカデ引っかけて破れないようにするためですね。
私に寒さは関係ないですし。ともかく動きやすさ最優先でということで、袖と裾は短めに。例の市場のおばちゃんに、いろいろ詰めていただきました。
この皮の短パン、足を動かす邪魔にならないように股間のところが空いているのですが。この意匠が冒険者!って感じで、気に入っております。こうしておかないと、高速で足を動かしたときに、脚に引っ張られて破れるんですよね。動きすぎて破れるくらいなら、最初から開けときます。
うーん。色は全体的に皮のそれで、確かに地味ではありますね。確かにこれでは、女の子の普段着とはとても言えないですが。
…まぁ、ダーコラ国側がすぐに私を認められないだろうことは、カステラード殿下と予想していました。いきなり本人を連れてこずに、影武者なりを出すと考えますよね、普通。見た目はガキですし。
と言うことで。事前に打ち合わせていたとおり、デモンストレーションです。
瓦に落ちている石を一つ掴みます。赤い鎧の人の見せるように差し出して バキョ! …握り砕きました。赤い鎧の人、びっくりしていますね。
さて。軽くタップを踏みながら河に近づき、フンフンフンとレイコガンを低出力で連射します。パパパッと結構高い水しぶきが上がります。
対岸からは、ダーコラ国側の兵士達がおおっと驚く声がしますね。しかしこれでは、単なる水芸です。
段々威力を増しつつ、殿下達から上流方向に離れて行きます。水しぶきに土砂の色が混ざるようになってきましたね。
モードを最低出力のレイコ・バスターに切り替え、無人の中州を狙います。
ドカンッ! ドカンッ! ドカンッ! ドカンッ!
まるで地雷原が連続爆発しているような様相です。対岸の兵士達の一部が逃げ始めました。
私の頭の中では、ラベルのボレロが流れています。
ここからも見えている支流への流れを制限している堰。これの近くには、ダーコラ国側の警備の兵員がいたのですが、近くに撃ち込んだ低出力の爆発で、すでに逃げ出しています。
危険な範囲から人が居なくなったことは、レッドさんの索敵で確認。準備OKですね。
堰に向けて、中出力でレイコ・バスターです!
ドッコーンッ!
爆炎と共に堰が壊れて、支流に水が戻っていきます。本流への水は流れていて堰でダムになっていたわけでは無いので、濁流となって押し寄せるって事はありませんが。
軍まで出して結構な手間をかけて作った堰でしょうが。一瞬で役目をなくしましたね。
カステラード殿下のところに戻ります。ボーゼンとしている赤い鎧の人。
「これで粗末な格好のガキが本物だって分って貰えましたか?」
「え…いや…その…。本陣で検討してくる! 再交渉は二時間後だ! いいな!」
赤い鎧の人、他の人と一緒に増水した支流を渡って戻ろうとしてますが、膝下程度だからと水流を舐めてはいけません。
ほらみろ、ちょっと滑ったところを足を取られて流された。溺れるような深さじゃないのに、派手な鎧が重たいのか藻掻いていますね。慌てて対岸の兵達が助けに行っています。




