第2章第019話 回復
第2章第019話 回復
・Side:ツキシマ・レイコ
典型的なガンマ線フリーズですね。五日も眠っていたそうです。
表皮や髪の毛など、私の体でマナで出来ていない部分は、あの爆発の中で全部剥げ落ちてしまったようです。
縦穴が丁度大砲の筒のようになって、上手いこと上に打ち上げられたようで。すぐに見つけて貰えたのは幸いでした。
表皮や髪の毛などは、タンパク質などを摂取することで再生します。牛乳がお手軽ですね。
毎日、新鮮な牛乳を差し入れて貰っています。ウードゥル様の手配とか。…外で牛の鳴き声がするのは気のせいでしょうか?
髪の毛が無くなったことは、大ショックでした。…一応女の子ですからね。ハゲですよ?!
このことを知ったユルガルムの市民から、私の髪の毛でカツラを!という申し出が相次ぎましたが。さすがに丁重にお断りしました。
代わりに、おしゃれな帽子がいくつか送られてきましたので、それを使っています。
ただ、髪の毛の伸びる速度が早いので。冬までは肩までは伸びるんじゃ無いかな?
あの蟻については、まだよく分かっていません。全ての蟻にそこそこのマナが含まれていたことは分っていますが。
石炭層に元々いた。外から入り込んで中で増えた。どこかからは坑道に地下を通ってやってきた。色々説が出てますが。いまではもう検証のしようも無いでしょう。
石炭鉱山はほぼ崩壊ですが。近くのため池の水が流れ込んで浸水したことで、底の方で起きていた火災も鎮火してので。排水すれば露天掘りは十分可能だそうです。
爆発時に飛び散った岩やら石やらによって、クレーター内の鉱山や工場に被害が出でましたが、比較的軽微。既に操業再開しているところもあるようです。
人的被害も施設の損害も軽微で。大量の蟻がマナ原として素材になるとかで、今回の騒ぎは、むしろ全体としては黒字になりそうだとのことです。逞しいですね。
診療所を出て、領主館に向かいます。
道中、馬車に乗って街の中を走っていると、道ばたから蟻が出てきた!…と思ったのですが。
回収された蟻の頭を加工してお面にしている子供達が走り回ってました。…丁度良い大きさですね、びっくりしたけど。
蟻に含まれているマナは、内臓を集めて焼いて灰にしたところから取るそうで。殻などはそのまま素材としていろいろ流用されるそうです。兵隊蟻の頭はさらに二回りほど大きく、軽量で頑丈。盾や鎧の素材にぴったりだそうで。それこそ万の数が回収できそうですので、大量に出回りそうです。…顔の形はなんとかした方が良いと思いますが。
。
食料の備蓄など、領民の人達がそろそろ冬の心配をしないといけなくなった頃。エイゼル領から帰参の許可の連絡が来ました。
ナインケル辺境伯は、私を英雄だと言ってくれますが。あまり大げさにしないでくださいね。
髪の毛は、肩まで伸びました。結構早く伸びたことに、アイリさんは驚いています。…一定の長さになると伸びるのが止るってのも、面白いですが。
予定通り、ターナンシュ様の母親であるマーディア様以外は、エイゼル市に戻ります。ターナンシュ様は、年明けには出産の予定です。
ユルガルムの街を出るときには、通りに街の人が出てきて、大勢が手を振ってくれました。私の髪の毛も無駄では無かったということです。海産物も美味しかったので、また来たいですね。
フバーフの村で覇王様も合流。エイゼルへ帰ります。
・Side:ナインケル・ユルガムル・マッケンハイバー
一時は領の全滅をも覚悟をしたが。レイコ殿のおかげで、蟻の排除は叶った。
排水の進んだ石炭鉱山の調査は進んでいる。かなりがあの爆発で吹き飛んでいるが。すり鉢状になったことでむしろ今後の採掘は捗るだろうと言われた。
ただ。吹き飛んだ石炭層の下から、マナに富んだ鉱物の層が顔を出した。
サナンタジュは、それらと石炭やら他の鉱物を含めて、蟻が餌にしていたのでは?という推測を立てている。
石炭を食べる?
いまいち理解しがたいが。レイコ殿の講義を受けていた彼らが言うには、生き物もまた同じようなものから体が出来てるんだそうだ。
石炭、水、空気。鉄や硫黄など、他にもいくらか必要なそうだが。そもそも石炭が生き物の残骸なんだそうだ。
マナが関われば、ああいった所でも蟻が増えることが出来るのか?
そう言えば。レイコ殿も牛乳で皮膚や髪の毛が戻ったという報告も上がっている。…ほんとうに可能なのか?
まぁ、蟻が石炭から増えることが出来るとしよう。それでも、そもそもあの蟻がどこから来たのか?という疑問は残る。調査は引き続き必要だろう。どこか人知れずに巣でも作っていたら大事だ。
…。レイコ殿の大技"レイコ・バスター"については、王都に報告しないわけには行くまい。あの小竜様の斥候としての価値も、とんでもないものだ。
極端な話。小竜様が敵の本陣を見つけ、彼女がそこに突っ込んでその中枢を吹き飛ばしてくれれば。いや、いっそ敵の王都なり領都に行ってそこを吹き飛ばせば、戦争は即決で終わるのだ。彼女の戦略的価値は計り知れない。…本人がやりたがらないだろうという問題を除けばな。
今日は、彼女らの滞在の最終日だ。エイゼル市でのバッセンベルの小物の排除と国内の教会への根回しはほぼ済んだようで、彼女らは明日にはエイゼル市に向けて出立する。
レイコ殿の滞在中、共に新メニューの開発に勤しんでいた料理長は、送迎の晩餐で張り切ってもてなしている。…イカがあれほど奥深い味がするものだとは、この街で長く領主をしていてるが、初めて知った。カラカラになるまで干したイカも、焼くと美味いそうだ。早速試させよう。
牛乳から作ったクリームとやらを使った菓子も、食べたことが無い味だった。特に妻達が絶賛している。女性好みの味のようだな。
またここの海産物を食べに来たい、レイコ殿は言ってくれた。
そのときがまたくることを、私も願っているよ。赤竜神の巫女様。




