第2章第007話 マナ術の練習
第2章第007話 マナ術の練習
・Side:ツキシマ・レイコ
最近、レッドさんの真似を練習しています。あれです、マナの雰囲気を検知するやつです。
何というか、実際やってみると"額で見る"という感じですね。気分はチャクラです。
目を瞑って集中すると、音でも色でもないけど、熱?それが一番近い感じかな? 前面のそれが分ります。
今周囲から感じる一番大きい反応はレッドさんが別格。次に多分、護衛騎士のダンテ隊長。あとはタルタスさんと…意外と言ってはなんですが覇王様。ん?エカテリンさんもなかなかですね。
そう言えば、マナ術は体力を上げられるとか言ってましたね。どういう原理なんだろう?と思ってましたけど。細胞内エネルギー物質であるATPを呼吸によらずに大量生産して、それで筋力増加? 理屈はそんなところかな。
問題は、それが自分の意思で制御できるところですが。エカテリンさんによると、電撃が使える人もいるみたいだし。いろいろ奥が深そうです。…念○力ほどの汎用性はなさそうですけど。
さて、お昼休憩です。
キャラバン止めるには丁度良いけど。谷と谷の間という感じで、見晴らしはあまりよくないですね。
ここは、覇王様に手伝って貰いましょう。馬車の御者席で覇王様に立って貰って。その手に私が乗って、頭上に掲げていただきます。もちろん履き物は脱いでいますよ。
馬車プラス覇王様で、五メートルくらいの高さが得られます。
「流石アニキ力持ち」
「ふっふっふ。家でもやらされているからな。知ってるか?一ヶ月もやらないでいると、子供は凄く重くなるんだぞ」
忍者の修行ですか?木を植えて、伸び続けるそれを毎日飛び越える奴ですね。
これくらいの高さでも、一気に数倍の探知距離が稼げます。
斥候が得意な人も居て、気配とかには敏感な方なのですが。この季節、蝉のような鳴く虫が結構いまして、平原も森も無音ではありません。こっちの世界でも、蝉は蝉でしたね。鳴き声はちょっと違うように思いますが。
夜に鳴く虫はまだ少ないようですが。マナ探知は音に頼らずに周囲を警戒できるのは、けっこう重宝されています。
うん、小動物らしき気配はありますが、特に警戒するような異常はないようです。
本日の野営地に着きました。
ここに来るのは何日ぶりでしょう?、あのお風呂に入った野営場所です。
野営の準備に馬の世話と、歩哨以外は皆忙しくしています。
なんと!今回はお風呂セットも持ってきてます。
お風呂セットと行っても、目隠しのついたてとか簀の子とか。湯船に竹で編んだ簀の子を沈めて、そこに入ります。このへんは私のアイデアですね、お風呂当番ですし。
伯爵夫人マーディア様と、ブラインさんの奥さんのメディナール様も、露天風呂に入る気満々のようです。どうも、馬車の中でエカテリンさんに前回の野営の話を聞かされたようですね。いまから楽しみにされています。
クラウヤート様も野営は初めて? キャンプに初めて来た子のように、準備の様子を興味深げに見て回っていますね。
今回も、前より多めでお魚を捕ってきました。料理騎士さん張り切っています。
うーん、なんだろ。なんかみんなテンション高いな。まるでキャンプに遊びに来たって感じですか。
この時期の気候は少し暑くなっていたので、伯爵家の方々は先にお風呂に入ることになりました。
風呂を掘って、手を突っ込んで加熱初めて二分ほど。侍女さんたちが湯加減を確認します。
え?私も一緒に?
「はひーっ」
やっぱ声が出ちゃいますね。いい湯加減です。
奥様方も、声が出そうになってる感じですが。はふーと大きく息を吐き出してます。お風呂はこうなるよね。
「貴族の方でもお風呂は使っていないんですか?」
「王都で一度、経験したことがあります。伯爵邸では、体を洗うために浅い湯に漬かることはありますが。浸かることを目的にお湯に入るってのはあまりないですね」
「あくまで洗うのが優先で。浸かるために大量のお湯を用意する人はあまりいないんじゃないかしら。重たいから部屋の強度からして必要だし。にしても、最初は熱いと思ったけど。このなんか体に熱が滲みてくる感じ、これは気持ちいいですね」
確かに。考えてみれば、一人が入る分だけでもトン近いの水が必要です。それだけの水を汲むのも、それに耐えられる湯船と部屋を用意するのも、結構な手間ですね。
天頂にでかい半月が見えています。要塞砲もくっきり。東の空には、神の玉座も上り始めています。
側には明かり取りのカンテラと、虫除けのお香も持ってきています。
気持ちいいですね、のぼせないように気をつけましょうか。
アイリさんとエカテリンさんは、侍女さんたちと一緒に私たちの後に入ります。女性陣は一緒にという話も出ましたが。流石に貴族と一緒にと言うのは固辞されました。
…クラウヤート様も入りたがったようですが。
「え?ご一緒したいんですか?」
と私が言ったら、真っ赤になっていた。
「レイコ殿、からかわないで上げてください」
と母親のメディナールさん。
もう十歳。流石に女性陣と一緒は恥ずかしいか。それでも一人では寂しいとかで、後でタロウさんや騎士達と一緒に入るそうです。
レッドさんは貸して上げますからね。
夕食です。
料理騎士さんが頑張ってました。新鮮な川魚のソテーに、これはマヨネーズを混ぜたソース? コクがありつつも酸味のあるソースが、さっぱりした川魚に合っています。根菜とお肉のポトフ、タシニで仕入れた野菜のサラダも美味しいです。
「野営でここまでの料理が食べられるとは思っていませんでした。さんざん、堅いパンに干し肉、塩味のスープが出れば上等だと脅されていましたからね」
伯爵夫人のお褒めの言葉に、料理騎士さんもうれしそうです。
焚木の下に、誰かが芋を葉っぱに包んで仕込んでいたようです。これには奥様方も興味津々。こんな料理は、屋敷の中では食べられないですからね。あちちと皮を剥いて、ちょっと塩を振ってホクホクなところを戴きました。サツマイモほど甘くは無いですけど、良いデザートです。
と。ここでレッドさんから警報です。
接近する反応が四つ、まだ遠いですが、街道の通ってきた方向からやってきます。
ただ、私には殆ど分りません。方向と距離を言われないと気づきもしなかったでしょう。
タルタス隊長に知らせると、焚木を中心にまったりしていた護衛と騎士の皆さん、それでも手の届くところに武器を置いていました。さっと臨戦態勢です。
「覇王様、お願いできますか?」
「うむ。承知した」
覇王様にお願いして、御者席でやってもらった感じで私を掲げて貰います。
うーん、反応が1つ、辛うじて分ります。
「レイコ殿、なにか見つかったのか?」
「うーん、南から何か来るようです。距離はまだ三百ベメルくらいなのですが」
タルタス隊長が、周囲に指示する。キャラバンに緊張が走る。
「人か?魔獣か?」
「まだちょっとそこまでは…」
集中するが、レッドさんの言うような四つもの反応は見えない。目をこらす?額をこらしていると、私の肩に乗っていたレッドさんが、私の後頭部に掴まって、翼を広げました。
「わぁ…」
クラウヤート様が感嘆してます。翼を広げたレッドさんは初めてですか。両翼で三メートル近くありますからね、レッドさんの翼は。
おお。さきほどレッドさんから送られてきたイメージより、精細な光景が頭の中で広がる。翼はアンテナですか?
一気に解像度が上がり、一つに重なって見えていた反応が、四つに分解する。
薄目を開けて、実際の光景と重ねてみます。
「タルタス隊長。あと少しであの茂みから出てきます」
街道脇にある茂みを指さす。と、丁度そこから一匹の白い物が飛び出してきた。
白い狼…いやサモエド犬?
狼と言ったらグレーのイメージがあるけのだけど、出てきたのは真っ白ですね。この季節この場所で?という感じもしますが。
ライオンみたいなたてがみが首周りでモフモフとしていて、正面から見るとモサエド犬に見えます。顔はもちっと精悍だけど。
サイズもちょっと大きなモサエドって感じです。
出てきた狼は、茂みを出たところでいきなりキャラバンのみんなに注視されている事に気がついたのか、急停止します。
後続でさらに三匹出てきます。こちらもモフモフですが、うち二匹がさらにでかいです!本当に牛くらいある!。
…うーん、某映画をどうしても思い出しちゃいます。黙れ小娘!とか喋らないよね?
先方は、特に威嚇もして来ずに並んでじっとこちらを見てます。
しばらく睨み合った後、狼たちは茂みの向こうに去って行った。
「多分あれが、タシニで聞いた狼だよな。…あれで狼なのか? 本当に牛くらいあったな」
横モヒカンさんが驚いてます。
覇王様にお願いして、再度レイコ・レーダー展開です。とりあえずレッドさん無しで練習です。
「タルタス隊長…茂みの向こう二百ベメルのところで止ってじっとしている感じですね。」
やっぱ一カ所に固まられると一つに見えます。
「すぐに襲ってくる気は無いようだな」
「狼だって馬鹿じゃないですからね。この人数を襲撃なんてしませんって。ただ、一人になると分りませんから、その辺は皆で注意を」
タルタス隊長が注意を促す。
「…綺麗な狼でしたね」
クラウヤート様がつぶやきます。
「どっから迷い込んだのやら。ユルガルムのさらに北か、西の北方山脈あたりの出だと思うんだけどな。ここであの毛皮では暑いだろうに」
覇王様がこういう獣には一番詳しい感じかな。
ここで討伐しておくか?という話も出ましたけど。キャラバンを攻撃しない分別があるのなら、魔獣や害獣を間引いてくれる益獣だから無闇に狩るべきではないという覇王様の意見が採用されました。
クラウヤート様がちょっとホッとしてました。




