第1章第030話 ギルドについたよ
第1章第030話 ギルドについたよ
・Side:ツキシマ・レイコ
しばらく進むと、馬車留の広場に着きました。
今回は、アイズン伯爵の移動がメインなので、運んできた商材は少ないそうですが。件の肉はすぐに市場の方に持っていき、明日の朝には市場に並ぶんだって。
馬車留の広場に並列して、二階建ての建物がある。通りに面した壁には"エイゼル運輸協会"と書かれた看板に、馬車を模した絵が掲げられている。通称は"ギルド"で通じるそうな。
ジャック会頭と共に中に入っていく。入って左側に受付と待合のスペース、右側は食堂? 冒険者ギルドなら、こんな感じかな?という構成です。
「ランドゥーク理事、お帰りなさい。崖崩れ大変でしたね」
「おう、ほぼ無事に帰ったぞ」
「ほぼってなんですか?ほぼって」
「タシニから出た後、ボアに襲われてな。騎士が一人吹っ飛んだ。まぁ軽傷だったけどな。ははは」
働いていた事務員が声をかける。ジャックさんのフルネームがジャック・ランドゥークで、ランドゥーク商会の会頭だったよね。
「理事?」
「ああ、わしは国内の輸送を管理しているこの運輸協会の理事も拝命しておる」
輸送は国の動脈。キャラバンもその護衛も必須な存在だが。そもそも季節によって運びたい荷物や地域も頻度も代わってくる。小さいキャラバンだから護衛が少なくて良いわけでもなく、できるためまとめて動きたい。よって、個人や商会単位で輸送リソースをもつのは効率が悪いため、まとめて管理する団体が国主導で作られたのだそうな。
「わしだけではなく、いろんな商会の会頭が理事をしておる。理事長はアイズン伯爵だ」
そう言えばキャラバンでは、ジャック会頭は護衛騎士隊長より立場が上っぽく見えた。国の作った組織の役員ならば納得。
ふと疑問に思う。
「商会のトップが輸送まで牛耳っちゃっていいの?」
「公平性ってことかね?」
「お前は商売敵だから、お前のところの荷物運ばねぇ!とかならない?」
「そんなことしたら、他の理事や伯爵によって、あっという間に罷免されるわ。こっそりやろうにも、伯爵は数字で読むからなぁ。すぐバレるだろうな」
やっぱアイズン伯爵は凄い人のようだ。
「まぁ実際、無関係な人から理事を選べって話は出たことがあるんじゃがな。ただ、全く経験が無い人間が理事になる方が害が大きいということで、信用のある商会から領主が任命するって話になっている」
「…もし、領主がその任命を恣意的に行なったら?」
「恐いこと言うね。そういう問題が出るとしても今代ではまぁ心配要らない。心配するにしても、伯爵の跡継ぎの時代だろうが。嫡男のブライン様も、そのまた嫡男のクラウド様も優秀だからな。その辺の心配をしている人はいないな」
と、顎に手を当ててふむふむと説明してくれた。
「…二十年ほど前、それと似たようなことがあってな。アイズン伯爵によってこの街の発展が軌道に乗り始めたころ、当時の宰相とその派閥の貴族どもが、交易の利権目当てでアイズン伯爵を領主から更迭したことがあってな。まぁ、行政はろくにしないのに、縁故人事に無茶苦茶な税金やら賄賂要求とかで、あっというまにエイゼルから商人がいなくなって。王が激怒して、当時の宰相から領主まで横領収賄で処刑、その周辺のやつらもことごとく爵位剥奪やら犯罪者鉱山行き。…あの二年はこの街の暗黒時代だったな…」
うーん。この街も簡単に出来たわけじゃ無いんだね。その辺の歴史とかも興味あるな。そのうち勉強したい。
「ではまず、口座開設ともろもろの清算をしてしまうか。レイコ殿、こちらに」
おお、羊皮紙なんて初めて見た。
ギルトでは、初歩的な銀行業務もしているそうな。為替を使えばは遠方にまで現金を持っていく必要がなく、支払いは口座から口座への資金移動だけで済む。また、小さい商家でも一般の平民でも口座は作れるそうです。
その代わり。借金には利子は付いても預金には利子はつかないし。金額のやり取りは千ダカム単位。アイリさんに前に聞いた話からだと、十万円単位くらい? さらに、振り込み引き落とし為替などにも手数料がかかる。まぁあくまで現金決済より便利でコストがかからないというレベルですね。
自宅預金が不安な人には、使える手段かもしれないけど。まだ誰もが簡単に使えるシステムじゃ無いで。 ただ。銀行は、市場でも見せかけの通貨流通量を何倍にも増やす効果があります。ここが回るだけでも経済に大きな影響があるでしょう。
この国の文字で「ツキシマ・レイコ」と記入して。その羊皮紙の裏面に手形を押す。手にインク塗って捺す本物の手形ね?
住所の記載と、未成年の場合は保護者が必要なんだそうだけど。その辺はジャック会頭が貸してくれることになりました。
ギルドで保管する用紙と、私が保管する用紙の二部を作って、手数料はジャック会頭から借りてあとで清算、これで口座開設完了。この辺は地球の銀行と似たような感じかな?
タロウさんが、振り込む金額の明細を読む。
「ボアの代金が十七万ダカム。件の金貨が二十五枚が暫定で二十五万ダカム。合計四十二万ダカム。以上をランドゥーク商会からレイコ殿の口座に振り込みますが。すぐに使えるお金、まぁ一万ダカムくらいを細かくして持っておきましょうか」
うーん。結構な金額です。
通貨は、銅貨、銀貨、小金貨、中金貨、大金貨とあるそうだげど。中金貨までで一万ダカム分をもらい、金貨とそれ以外で別の皮袋に入れてもらった。
馬車から降りたときにリュックは背負っているので。そこに締まっておきます。
「流石に革袋じゃ使いにくいから。財布は明日、買いに行きましょう。楽しみね」
とアイリさん。
レッドさんの財産所有権登録は、ジャック会頭が手続きを進めておいてくれるそうです。
「じゃあわしは、到着の事務処理とかしてくるから、今日はここでお別れだ。タロウとアイリに寝床探しを頼んでおくから」
「はい。お世話になりました」
ぺこりと挨拶すると、ジャック会頭はニコニコ手を振りつつ、事務所に入って行った。
アイリさんとタロウさんは、ちょっと事務的な話があるので。ギルドの待合場所で待っていて欲しいとのこと。
ギルドの掲示物には、キャラバンの予定、同行する商人や護衛の募集の他にも。魔獣討伐隊の臨時メンバー募集、貴族や商会の護衛から、街道整備や農作業手伝いなんてものまでいろいろあります。
うーん、職安も兼ねている?




