第1章第022話 アイズン伯爵と会食です
第1章第022話 アイズン伯爵と会食です
・Side:ツキシマ・レイコ
夕食の時間と言うことで呼ばれて、食堂に来ました。この建物は市役所みたいなものなので、絢爛豪華!といった装飾はないけど。清潔で落ち着いた感じの良い食堂です。
ここで、どの席に着くかで一悶着。上座という概念はどこにでもあるようで、私とレッドさんが並んで上座へと案内されたが。さすがにアイズン伯爵を差し置いては無理ということで固辞しました。
「アイズン伯爵は、年上で領主様でしょ。私の方が偉いところなんて皆無なんですから! 私にそういうメンタル無いんですから」
「レイコちゃん。正教国とは関わらないようにするにしても、向こうから付け込まれるような隙は無いに越したことは無いのよ。伯爵がレイコちゃんたちより上座に付いたなんて知られたら、あとで何を言われるか。ここはアイズン伯爵を助けると思って」
とアイリさんに説得されて、しかたなく席に着くことにした。
「ジャック殿。このアイリという娘はなかなかの逸材じゃな。これからも期待しておるぞ」
ジャック会頭とアイリさんが、伯爵に礼をした。伯爵に誉められたアイリさんは、顔真っ赤。
ちなみに、レッドさんは子供用の椅子にさらにクッションでかさ上げされている。
出された料理は、御膳か定食のようになっていた。肉や魚のソテー、サラダにシチュー。さらにパンやフルーツは別途取れるようになっている。
レッドさんのところには、同じような材料でサンドイッチになっていた。
給仕さん曰く、
「キャラバンの料理担当の方に話を聞いて参りまして。この方が召し上がりやすいかと」
とのこと。お気遣いありがとうございます。
食前のお祈りは簡単に済ませ、食事が始まった。
どうもこの国のカトラリーは、フォークとスプーンだけだが、料理の方もこれだけで食べられれるよう、適度な大きさに切られている。
アイズン伯爵も食事をしながら、私とレッドさんが食べるのを観察しているようだ。
「レイコ殿。ジャックからだいたいの話は聞きました。今後のことも含めていくつか確認したいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「はい。どうぞ」
一旦食べるのを中断して、背筋を伸ばす。
「赤竜神様のことについてもいろいろお話は伺いところですが。とりあえず端的にお伺いしたいことは三つ。今後何をされたいのか。どう扱われたいのか。この国をどうしたいのか。何か心積もりはおありなのでしょうか?」
「…ジャック会頭には話したのですが。私、25歳で一度死んでるんです」
ジャック会頭に、目線で「話した?」と聞くと求めると、「話した」とうなずいた。
「赤竜神は、生きていたころの私の仕事場の同僚でして。まぁその辺の縁で復活させたから、人生の続きを楽しんでおいで…と言われたわけでして、特段使命とかは聞いていないんです。信仰を広めるとか、どこかを征服とか、そういうのは一切無しで」
「楽しんでおいでとは…なんというか、赤竜神様とはずいぶん気さくなのですな」
「赤井さん…てのが赤竜神の人だったころの名前ですが。職業は研究者で、まぁ普通にいい人でしたよ」
「…ますます正教国には話せないような話ですな…」
「どう扱われたいと言っても。まぁ普通に住むところと働けるところがあって、平穏で自由に過ごせれば十分なんですけどね。国をどうしたいなんて野心は皆無ですが、住むからには一住人として社会に貢献したい…くらいは思いますけど」
「望まれるのなら、赤竜神様の巫女として王族と変わらないような生活も出来ると思いますが?」
「生前は一庶民だった物で、そういう窮屈なのはちょっと… 赤竜神の巫女なんて崇められて国に囲われる、まして件の正教国に連れて行かれるなんてのは、勘弁ですね」
「はっはっは。勘弁か。なるほど了解しました」
アイズン伯爵がニヤッと笑う。頬の傷もあってなかなかに迫力のある悪人面だ。本人は普通にニコっとしただけかもしれないけど。
「レイコ殿が何ができるのか、どう扱うべきか、この国としてどう対応すべきか。まだ懸案事項は多々あるが。恐れ多くも赤竜神の巫女様が願われたのだ。エイゼル領主としては、巫女としてではなくレイコ殿個人として保護したことを、ここに宣言しておこう。既に財産は結構あるようだし生活にも問題はあるまい。今後の身の振り方についてはエイゼル市に着いてから、いろいろ考えると言うことで、それでよろしいかな?レイコ殿」
将来はともかく。とりあえず好きに暮らしていいよという、領主自らのお墨付きと言うことですね。
「はい。よろしくお願いしますっ」
「本当は国賓として扱うべきなのだろうが、赤竜神様絡みでは、その辺は王宮の判断を仰がねばならん。ただ、レイコ殿ご自身から出された自由をご所望というお言葉は軽くはない。無体なことにはならないだろう」
うーん。何か言ったことがいちいち重く受け取られるのか。ちょっと注意しよう。
「もう一つの問題は、小竜様かな。失礼な話ではあるのだが、財産所有権の登録管理には動物もあったはずだが」
「はい。馬とか珍しい動物を貴族の財産として登録しておくことが可能です」
宝石や絵画が盗難に遭ったとき、あとで発見されたときに所有権を主張できるように、登録するシステムがあるそうな。隠し財産でも無ければ、大抵登録しているそうで。盗品を"自分で手に入れた物ですが何か?"としらばっくれることができなくなる。
「本来、小竜様を動物扱いは不敬ではあるのだが。それこそ攫われでもしたらレイコ殿以上に囲われる…というか、檻にでも入れられるのは明白じゃからな。用心に越したことは無い」
「こんな可愛い子、檻に入れてなんてひどいです」
エカテリンさんが憤慨している。
「この子も私と同じくマナの体ですから、けっこう強いですよ。捕まえとくのは無理なんじゃないかと」
多分、鉄で出来た檻でも、秒で破壊して脱出すると思う。
「まぁ、余計なトラブルを避けるのも処世術じゃ。登録しておきなさい。私がするのならともかく、レイコ様直々に登録するのなら角も立たんじゃろ」
これで会食はお開きで。
お風呂はないので、できるだけでかい桶にお湯を張って、三人でキャッキャウフフと体洗いました。
タロウさんも呼ばれたけど。小屋の前で見張りです。紳士と言うより苦労人だね。




