第1章第020話 タシニの街
第1章第020話 タシニの街
・Side:ツキシマ・レイコ
朝だ~。
明るくなってきたかな?という頃には皆さん起き出して、出発の準備に取りかかっているようだ。
まだもにゅもにゅしているアイリさんから抜け出して、馬車の戸を開ける。
皆さん、馬や馬鳥の餌と水やり。野営装備の片付け。朝食の準備と、忙しく動いている。
どうも私に気を使って、起こしに来なかったようです。レッドさん、アイリさん、エカテリンさん、そろそろ起きましょうよ。
ちなみに、タロウさんは私たちのために、馬車の前で寝ていたらしい。まぁこのキャラバンには不届き者はいないだろうとのことだけど。うん、紳士だね。
朝食は、パンと、干し肉や野菜にイモのスープで、簡単に済ませる。簡単でも、ちょっと肌寒い朝には、暖かい料理はありがたいですね。前日から仕込んであったスープは特に美味しかったです。
馬を馬車に繋げて、出発です。
天気は、少し雲が多いが良い感じに日も差すし、風も気持ちいい。街道は河沿いに延びています。
平野と森を挟んで、東西に山地が見え。さらに西の彼方には、雪を戴いた山脈も見える。赤井さんに送ってもらうときに越えてきた山脈だ。またあそこに行く日はいつになるのだろう?
ここまで自然しか無い風景ってのは、日本じゃ見れなかったですね。写真撮ってSNSに投稿したいくらいです。
今日は、馬車の中ではなく御者席に座らせてもらいました。レッドさんは、馬車の上に陣取って、馬車の揺れに合わせて「クック。クック」とご機嫌です。人より多くの感覚を持っている彼には、今見えている光景は私以上に興味津々のようです。
街道は、なるだけ凸凹を避け、河に近づいたり遠ざかったりして続く…
途中、キャラバンは昼休憩をとりますが。ここは宿営地ではないので休憩と保存食で済まします。あとは馬たちに水やりだけですね。
街道は少し西寄りに向きを変え、進んでいるとだんだん西の山地が近づいて来る。太陽が西に傾き始めたころ、低い丘を迂回したところで前方に街が見えてきました。
「あの山のくぼんだところあるだろ? あそこに街道が通っていたんだけど。んー、北斜面が崩れたって聞いたけど、その右にあるちょっと高い山な、多分あそこらへんだな、崩れたのは」
脇を馬に乗っていたエカテリンさんが、西の山地を指して説明してくれる。ちなみにアイリさんは馬車の中だ。
「ユルガルム領からは、あの山の向こう側を通った方が近道なんだけどな。崩れたところからちょっと離れたところに馬くらいら通れる道はあるんだけど、馬車はこちら側を遠回りさ。まぁそのおかげでレイコちゃんを拾えたわけだけどな。…偶然かな?これ。…赤竜神様、これ知っていたのかね?」
エカテリンさん鋭いね。…私も、たぶん赤井さんは知っていたと思います。
街道が少し高台にさしかかったところで、ここからはタシニの様子がよく分る。
河が中心を流れ、高くても三階建てくらいの建物が街の中心部に並んでいて、周囲に民家らしき家が囲んでいる。
街の周囲には畑が広がり、それを耕すだろう農家の集落が、ぽつぽつとかなりの範囲に散在している。件との山地と街の間には、傾斜しているだけに耕地には向かないのだろうが、牧場のようなものも見える。
街と言っても、人口は地球のそれとはだいぶ少ないのだろう、数千人いるかな?という感じではあるが。まさにヨーロッパの農村といった雰囲気だ。
河の支流に架かった橋が、検問所のようになっている。ジャックさんとダンテ隊長が、検問の兵と話すとすぐに通行許可が出たようです。
キャラバンの荷馬車は、待機所となっている町外れの広場に移動していくが。私たちが乗っている馬車の方はキャラバンから一旦別れて、街の中心に入ってく。馬に乗ったダンテ隊長とタルタス隊長、彼らの部下数人が周囲についている。
しばらく行くと、庭付き三階建て、周囲より立派な屋敷のある敷地に入っていきます。
建物の入り口に馬車が付けられ戸が開く。足場が持ってこられて、ダンテ隊長に手を出された。
まるでお姫様?と思いつつ、その手を取り降りると。屋敷の入り口のところに一人の紳士が立っていました。
歳は50台くらいだろうか。デザインの雰囲気は地球とは違うが、かなり品の良い服を着ている。生地は違うけど、ジャック会頭の服とデザインはそっくり。
右手で杖を持っている当たり、イギリス紳士の異世界版という感じだろうか。白髪交じりの髪の毛はバックに整えられていて。
容姿で目立つのは、右頬の傷。目の下から顎に至るまで、刃物によるような痕がある。
肩から胸元までを覆う、銀色のプレートを付けている。顎当とかゴルゲットとか呼ばれる鎧のパーツがでかくなった感じです。紋章とか、うーん多分だけど勲章の略章みたいなものが付けられていて。そう言えば、ダンテ隊長のは他の騎士より立派だった。どうもこれが、この国で身分を示すもののようですね。
「赤竜神の巫女様。脚を痛めておりまして、この場で傅くことが能わぬことをお許しください。私、ネイルコード王国にて、伯爵位を賜り、エイゼル領を治めておりますバッシュ・エイゼル・アイズンと申します」
杖で支えつつ、頭を深く下げて来る。
私も慌てて、頭の後ろにいるレッドさんを前に抱っこしなおして挨拶に応える。
「ツキシマ・レイコと申します。この子が赤井…赤竜神から預かったレッドさんです。ツキシマがファミリーネームですが、私は貴族とかではないので。えっと、無理をせずに楽な姿勢になってください」
流石に、脚が悪い人をそのかっこのまま待たせるのは忍びない。
そっと、顔を上げた紳士が意外そうな顔をする。身長差があるから、私の目をじっと見下ろしてくる。
「お気遣いありがとうございます。ツキシマ・レイコ様」
ニコッとする…本人はしたつもりなのだろうが。多分、頬の傷のせいだろう、作った笑顔がすごい悪人顔のニヤっとなる。うーん、怪我している人にそういう印象持ったらいけないんだろうけど。
「私なんかには、様も要らないです!」
「…では、レイコ殿では?」
「はい…それでいいです」
なんかこのやり取り、前にやったな。
なにかを見透かそうという感じで、じっと見てくる。ちょっと胡散臭い物を見る目になっている…ような気もする。
…嫌われたかな?
「…レイコちゃんでいいんじゃね?」
後ろで護衛についていたエカテリンさんがつぶやいた。ダンテ隊長に頭を軽く小突かれていた。




