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■9 お昼休み

どこで区切ろうかな。

 ゴールデンウィークも明け、今日は学校だった。

 長いようで短い休みを満足に過ごした私。

 それに伴って、ちょっと憂鬱(ゆううつ)に感じる人もいるかもだけど、私はそうは思わなかった。

 今日も私は千夏ちゃんとお昼を食べている。


「で、調子はどうよ」

「調子って?」

「そんなの決まってるって。〈WOL〉のこと」

「なに?ダブルオーエル?」

「ダブルオーエルじゃなくて、〈WOL〉。〈WORLD OF LIFE〉のことだって」

「そうだよね」

「からかうなって!」


 千夏ちゃんらしい。

 私は談笑した。


「それでどうなの?」

「どうって言われても……」

「ほら!何かこうでっかいモンスター倒したとかさ」

「うーん。おっきな熊さんは倒したよ?」

「熊?」

「うん。ブラックベアーっていうモンスター。私のレベルが2で、熊さんのレベルは8だったんだけど、何とかね」

「へえー。レベル差が覆るゲームってことか……それは面白そうだ!」

「うん。面白いよ!」


 私は千夏ちゃんの前でそう大きく頷いた。

 彼女は部活の練習で今は出来ない状況にある。来週の大会が終われば本格的に始まるそうだが、それまでは私一人になりそうだった。

 いやちょっと違うかな。


「千夏ちゃん、私昨日フレンドができたよ!」

「フレンド?」

「うん。スノーって言う可愛い子なんだけど」

「スノー……ん?まさかあの、スノー!」

「えっ!?あのスノーって?」

「知らないの!?スノーって超有名なゲーマーだよ。バトルロイヤル形式のFPSの中でも、〈マルトラ〉何て有名なんだよ!」

「ま、マルトラ?」


 話についていけなくなった。


「〈MULTI(マルチ) TRIBE(トライブ)〉。通称〈マルトラ〉って言うPCゲームだよ。そこで昨シーズンまでずっとソロランキング一位を保ってたのが、スノーって人。On(オン )YourTube(ユアチューブ)ってあるだろ。そこで偶然イベントでチームを組んだ実況者さんが上げた動画があるんだけど、『スノー すげぇ!』で検索してみ。すぐ出るから」

「そうなんだ。でも違う人かもしれないよ?」

「かもね。でも一度観てみ」

「うん。じゃあ帰ったら観てみるよ」


 私はそう答えた。

 もしそれが本当ならきっと凄いことだ。それに昨日のあの視線の圧も理解出来る。私は『スノー すげえ!』と言う言葉を憶えておくことにした。


 キーンコーンカーンコーン!!

 キーンコーンカーンコーン!!


「休憩も終わりだな」

「うん。午後からは確か古文だっけ?」

「うえっ。苦手ー」

「千夏ちゃんはそうだよね」

「数学ならなー」


 千夏ちゃんはそうぼやいた。

 いつものことなので笑って返す。

 さてさて、家に帰ったら動画を見てみよう。もしかしたら本当にスノーかもしれない。そんな淡い期待を込めていた。


◇◇◇


 さてさて家に帰って来た。

 私はやることを済ませると、早速『スノー すげえ!』で検索してみることにした。


「えっと、『スノー すげえ!』あっ、ホントに出て来た」


 私はすぐ上がった動画を見つけた。

 かなりの再生回数だ。時間はそんなに長くない。私はコメントを見ながら例のシーンが出てくるまで飛ばしてみた。

 するとそこに現れたのは黒くて長い髪の女の子。

 銃を構えている。


「どうするんだろ?」


 目の前には何人もの敵。

 しかし少女は一切怯むことなく向かっていく。一見すると無鉄砲な自殺行為にしか思えないかもしれないが、肝心なのはここから。


「嘘っ!」


 スノーと思しき少女は、弾が当たる直前でサイドステップを繰り出す。

 しかしそのサイドステップのやり方が少し変だった。

 一回右に避けたと思ったら、次の瞬間には左、それから右に戻ってバックステップ。何が凄いって、とにかく早すぎるのだ。多分0.の世界だ。

 早すぎてバグっているのかと思ってしまう。それから的確にステップにかませる形で、銃を撃ち次々にヘッドショットで潰していく。


「凄い……」


 放心状態で食い入るように観る。

 何が起きているのかはわかる。

 この子が強いのだ。チートじゃない。けど、チートみたいに上手い。上手すぎる。

 そして何でコレがスノーなのか、それは私が観れば見た目でわかった。

 最後の敵。その喉元に突きつけたのはナイフだった。

 その動き、早さ、堂々とした佇まい。どれを取ってもスノーのやって見せたそれと同じだった。


 もしかしたらこの人に憧れたスノーがやってみせたのかもしれない。

 しかしそれにしても動きが完璧すぎる。シンクロしている。そんなことありえない。

 私は確信した。

 

(間違いない。やっぱりスノーがスノーなんだ……)


 私はゴクリと唾を飲む。

 如何やら本当に私は凄い子と友達になってしまったのかもしれない。それからあの視線は敵意じゃなくて憧れで、スノーもこんなに上手いから自分に負けない相手が欲しかったのではないかと軽い推測を立てる。

 だけどそんなのは如何でもいい。

 私は笑みを浮かべていた。


「私も頑張らなくちゃ」


 こんなに熱くなれることがあるなんて思わなかった。

 楽しい。それに負けたくないと思った。

 千夏ちゃんにも負けたくない。けど、スノーにだって遅れは取らない。まさに熱く沸騰した。

 

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