■86 新しい街へ行こう!
いわゆる第三章。
スプリガンを倒した私達。
夏休みに入り、〈WOL〉でやる事に関してなのだけど近々またアプデが入るそうで、そろそろ本格的に次の街に行くことを想定する運びになっていた。
そのため今私達はーー
「次の街に行くんだよね」
「ああ。そのためにわざわざ馬車を借りて来たからな」
スノーは早速準備していた。
やっぱりスノーは頼りになる。一足先にやることをやっておいたスノーの後に続いて、私達はいよいよ次の街に向かうことにした。
「そう言えばスノー、これから行く街ってどんなところなの?」
「ん?聞きたいか」
「うん。でも、そんな言い方だと聞かない方がいいよね」
「まあな」
スノーははぐらかしてきた。
多分行ってからビックリして欲しいんだと思う。
そんなユーモアがスノーの無口な表情から溢れていた。
「じゃあ聞かない。でもでも、〈リムルト〉以外の街って私知らないなー」
「それは私達が行かなかっただけだ。本当は自由に行くことだってできた」
「そうなの?」
「ああ」
私はスノーに話を聞いた。
スノーの話によれば〈リムルト〉はあくまで最初の街というだけで、他にも街は幾つもあるらしい。
そのどれにもアクセスするには自力で行かないといけないらしい。そうしたらその街までワープ出来るそうだ。
つまりこれから私達は馬車を使ってそこに行くのだけど、街以外にも小さな町とか村とかもあるそうで色々行ってみたい。
そもそもやることがなくなったと言っても、それは私達がそう思っているだけで本当はもっとたくさんある。
「今のところ、五大都市と総称を受けているらしい。これから私達が向かうのもそこだ」
「そっか。じゃあちょっとわくわくするね!」
私は拳を突き上げた。
そんな様子を軽くチラ見するスノー。スノーも楽しんでいるみたいだ。なんでわからなかって?ほんのちょっぴり頬が染まったからだ。
「おーい!二人共、そろそろ行こうよ!」
「うん。ちょっと待って!」
ちなっち達が馬車に乗って待っていた。
流石に徒歩では遠すぎる。馬車を使っても車とかではないので時間が相当かかるそうだ。
「そう言えばまだどのくらいかかるのか聞いてなかったけど、ちなみにどのくらいかかるの?」
「六時間だ」
「ん?なんて」
「六時間だ。その間馬車に揺られる続ける」
「えっと、えーっと、えー!」
私は驚きあぐねてしまった。
口をポカーンと開けて固まってしまう。しかしそんな私をスノーは溜息混じりに連れて行き馬車に搭乗するのだった。
そうこれからしばらく私達は馬車の中で揺られることになる。
私達はそれから馬車に揺られ続けた。
最初はトランプとかしてたけど、段々と馬車のリズムが心地よく感じて来てしまい自然と寝入ってしまっていた。
「すーはーすーはー」
誰かの寝息。
ふと隣を見てみればちなっちが寝ていた。
見ればタイガーも眠りについていてKatanaも馬車の縁に肘を置き、頬杖をつく。
つまり今起きているのは私とスノーだけだ。ちな、私は今さっき起きたのだ。
「おはようスノー」
「ん?起きたか」
「うん。今どのくらいかな?」
「あと一時間もすれば着く。それにしても随分と寝ていたな」
「うん。実は昨日は徹夜で課題をやってて」
「そうか」
私はそんなに頭がいい方じゃない。
だけど悪くもない。つまり普通だ。そんな私の成績は何事もなく普通で、順位も普通だった。
そんな私は最近〈WOL〉にハマっているので成績が落ちてないかと心配していたけど、生活リズムも相変わらずだし成績もそんなに変わっていなかった。むしろ良かった。
だけどまめに勉強はする習慣がついているので、そのせいもあって私は今日も寝不足気味だった。
「スノーは寝てなかったの?」
「まあな。本を読んでいれば自然と集中できる」
そう言ってスノーがインベントリから取り出してのは分厚くて赤いカバーの本だった。
難しそう。
「それなんの本?」
「期待されても困るが、コレはただのファンタジーものの小説だ」
「小説なんだ」
「当たり前だ。わざわざこんなところでまで、哲学に興じる気はない。そもそも私はそんな本はあまり好きではないからな」
スノーは真っ向から否定した。
そう言えばスノーの印象って難しそうな本ばっかり読んでそうなイメージだけど、実際そんかことはないんだね。うん。改めて納得。それでも頭がいいのって凄いよね。まあ頭がいいってなんなんだろうって考えると、頭が痛くなるけど。これぞ哲学って感じだよね!
「あーあ早くつかないかなー」
「安心しろ。待っていれば時期着く」
「そうだけど」
スノーは退屈してるのかも。
そんな印象が雰囲気から伝わって来た。
「ねえスノー」
「なんど」
「楽しい?私達といて」
私は変なことを聞いてしまった。
凄く答え難いことだと思う。それはわかっている。だけどちょっぴり気になったのだ。
「なぜそんなことを聞く」
「なんとなくかな。もちろん私は楽しいよ。皆んなと友達になって、毎日がエンジョイって感じ!」
「ふん。ならばいいだろ」
「よくないよ。皆んなが楽しくないのに一人楽しんでるなんて、独りよがりもいいところだって」
「わざわざ難しい言葉を使わなくてもいい。だがそうだな、しいて上げれば」
スノーの口が止まった。
私はスノーの言葉をひたすらに待つ。そして出て来たのは一言だけ。
「悪くはないな」
「スノー!」
なんだろ。
リオナさんとシズさんのやり取りを思い出す。
スノーは顔を背けるけど、その寸前に私は口角が緩むスノーの横顔を見逃さなかったことはスノーには内緒だ。
あーあ早く着かないかなー、次の街。
私は楽しみで仕方なかった。そして一時間後、私達は街に辿り着いていた。




