■83 雷歩絡ませ。ステップ踏んで。
次で二章最後だと思う。
今度はちょっと違うやり方で攻めてみよう。
私は深呼吸しながら再びスプリガンに対峙する。
今のところ敵対心はちなっちとタイガーとで交互に分担しながら対応してくれているみたいだ。
見れば二人のHPも半分近い。だけどスプリガンも半分を切っていたので、内心「これ私要ります?足手纏いすぎませんか?」と深く傷ついたがまあそんなことは二の次で、とりあえずこの新スキルを試すのには絶好の相手すぎだ。危険だけどね。
「スノー、Katana。私がアレを相手取るから二人はちなっち達をお願い」
「おい。まさか一人でやる気か?」
「危険すぎます。流石にお一人では少々手厳しいかと」
二人の意見はもっともだ。
だけどそんな長い間引き受けるわけじゃない。
「二人を交互にやってたらその間誰かが代わりをやらないといけないでしょ?スノーはペラペラだし、Katanaも受け流し系だから」
「確かにそうだが」
「マナさん一人では」
本当に二人はよく見てる。
そうだよ。確かに普通に相手したら私は一瞬で負けて死んじゃう。
即死は〈麒麟の星雫〉で回避できても、次の攻撃までポーションの回復が間に合うとも思えない。だからこそ私の今回やろうとしていることは一種の賭けに当たる。でももしそれが成功したら……
「大丈夫だよ!私が隙を作れるのはせいぜい十秒程度だから。その間に皆んなでたたみかけて」
「その目、勝算があるんだな」
「うーんどうかな?」
「まあ確かにその考えなら少しは時間を稼げるかもしれないが……賭けだぞ」
「あれ?スノー言ってないのにわかるんだ」
「まあな」
如何やらスノーには私が何をしようとしているのかわかっているらしい。
となると、さっきは使った本人でしか気づけないと言ったことにも潜在的に気付いているのかも。情報だけじゃない。スノーの潜在的な推測と処理速度は尋常じゃないのだ。
大抵のことぐらい、口に出さないだけで全部予想を超えて確定している。つまりスノーには今……
「勝ち確?」
「ふん。これが上手くいけばな」
「よーし、じゃあ張り切ってやらないとだ。頑張るぞー!」
私とスノーはアイコンタクトだけで通じ合った。
まあ何考えてるのかとか正直わかんないだけどねー。そう言うポイことしないとつまんないでしょ。それに、何となくスノーとなら一方的なこっちの考えが流れ込んでもすんなり理解してくれそうだっだ。
まあいいや。とにかく時間もない。さっさとやっちゃおう。
私はスプリガンの前に出た。そして〈波状の白星〉を構え、〈波状〉を放つ。
ギューン!
風が靡いてスプリガンの顔面に炸裂した。
スプリガンのHPはほんのちょっと減る。
如何やら少しだけ効いたらしい。
しかしその攻撃でまたしてもこっちに敵対心が向いたらしく、ちなっち達への興味は失せ、こちらを睨みつける。予定通りだ。
「マナ?」
「おいおいアイツなにやってんだよ!」
ちなっち達が困惑する。
しかし時間はこれで稼げる。後は私が如何にかするだけだ。
(まずは少し離さないと)
私は振り下ろされるスプリガンの斧を【ジャスト回避】二連発で躱した。
バックステップで後ろに飛び、スプリガンを少しでも皆んなから切り離す。
スプリガンはまんまとその策略にはまってくれたみたいで、私を狙い続けていた。
どんどん地面がボコボコに砕け、突き刺さった斧によりどんどん亀裂が入る。流石にこのまま続けるとこの場所自体が崩壊しかけない程にだ。
(よし、かなり距離は取れた。後は……)
私は距離が取れたことを確認すると向こう側で回復ポーションを思いっきり飲み干すちなっち達の姿が見えた。
後は皆んなの怒涛の攻めに任せるとして、残り数秒はコレで稼ぐ!
「頼むよ、上手くいってね。【雷歩】!」
私にスプリガンの二連斧攻撃が迫る中、今し方発現したばかりの新スキル【雷歩】を発動させた。
【雷歩】は私の集中が残っていてくれたのですんなり発動し、私の一歩目を高速……いや光速の域へと到達した。まあ雷だから元々そうなんですけどね。
「うわぁ!」
一歩目が止まるタイミングで真横を斧の一部が掠める。
少しHPが削れたがもうそんなの関係ない。
次の一歩をすぐさま踏み込んだ。
二歩目は右向きに流すように踏み込み、二本目の斧も回避する。
さて問題の三歩目。これが限界だ。
(頼むよ、もしこれがそうなら……)
使っている人にのみ見られる境地。
それが何なのかは正直な話ここまでの流れで察していない。
だからさっきの感覚を頼りにしてみる。ぶっつけ本番だけど、チラ見したところ皆んな体力回復してた。
「せーのっ!」
雷の速度。
〈麒麟の星雫〉が今度こそスプリガンのアキレス腱を斬った。
悲痛な叫びを上げるスプリガン。その声はゆっくり聞こえていた。やっぱりだ。私の想像は正しかった。
(皆んな後は頼んだよ!)
私はインターバル明けの【コットンガード】で偽物を作り、〈雷光の長靴〉でその場を退避する。
正直もう体はボロボロだ。
ダメージはないにしろ、連続発動で体が圧力に屈していた。痛い。と言うか辛いのが正確だ。
後は皆んなに任せる。私の頼りになる友達に。
◇◇◇
「マナの奴、無理したな」
「はい。すぐにでも助けなくては……」
「いや、このまま攻めるぞ。マナの功績を無駄にするな」
私はKatanaを制した。
Katana自身、話の流れを聞いていたので何となく察してのだろう。今が好機であることを。
「敵は機動力を失った。体勢も悪い。今しかないぞ」
「OK!マナの分まで私がやっちゃうよ!《ブレイジング・ロード》!」
ちなっちは〈赫灼相翼〉を重ね合わせ、炎の道を生み出す。
その中を【加速】を使って一方通行になった軌道を駆け巡り突撃する。
「そりゃあ!」
ちなっちの剣技が炸裂する。
大雑把な大振りでもちなっちの機動力なら申し分ない。さらに私も援護する。
大鎌に持ち替え、動きを封じる。
「《シャドウバインド》」
鎌を地面に叩きつけ、相手自身の影でその肉を縛る。
両腕の動きを封じられ、さらにマナにより足を斬られているのでそうそう動くことはできない。さらに私は予断を許さない。
「もう片方の目も貰う」
私は弓に切り替え、矢を射る。
そして今度は防ぐことは叶わず、スプリガンの瞳は奪われた。
これで勝ちは揺るがない。
後は全身全霊で叩き潰すだけだ。
「行くぞタイガー、Katana」
「おう。とっとと落ちろ、牛やろう!」
「牛ではないがな」
タイガーは膝を伝い顔面を殴りつけた。
痛々しくズキズキとスプリガンのHPを削る。
さらにはちなっちも攻撃をたたみかけた。
「マナさんの頑張りを無駄にはさせません。伍ノ型白波」
Katanaは【忍び足】で音もなく近づく。
【体現】と【昇華】をこれでもかと使い持てる技を繰り出した。
それはまるで鯨により白波がたてられるかのような豪快さの繊細さが垣間見えた。
繰り出された技はスプリガンの左腕を斬り落とすには十分すぎる程に。
スプリガンは悲鳴をあげる。
もはやHPは一割を当に切っている。残りは待っていれば決着がついてしまうほどに。
だけど最後の一撃は私が加える。
「終わりだ。《ナイト・デスサイザー》
大鎌を振るった。
刃はスプリガンの首を掠め取り、雁首を残す。
残酷すぎる結末に皆震えるどころではない。クタクタで床に座り込む姿だ。
だからこそこの結末を凝視したのは私。それからKatanaの二人だけで済んだ。
最後はえらくあっさりで、この結末もマナの覚悟が光った時には私の中に既に存在していた光景であった。




