■82 雷歩
今日はマジでしんどかったー。来週からもだけど……
今回の話もまた続き。マナの新チートスキルが解放されるよ。
スプリガンの攻撃が迫る。
両腕の斧が私を捉えて離さなかった。
私も体勢を崩し、さらには〈雷光の長靴〉もインターバル中なので使えない。まさに絶対絶命と言えた。
「ヤバ」
「マナ!」
ちなっちが叫ぶがもはや手遅れだった。
だけだ何とかしないと。こんなところでやられてたまるか!
私はそう強く思った。すると一瞬だ。
ほんの一瞬のうちに、私の体は斧が振り落ちるはずだった場所の隣にいた。
「あ、あれ?」
えっと、何が起きたんだろ。
急に体が軽くなった。
テレポートとかそんな感じでもない。ちゃんと私の足が地面を蹴った感触があった。確かに私はスプリガンの斧が迫るなか〈麒麟の星雫〉を片手について、そのまま地面を蹴った。だけど私はそんなにAGIは高くないし、ちなっちやタイガーでもないのでそんな瞬時な方向転換とか瞬発力とかはないのだ。
だからこんなのおかしい。皆んなが助けてくれたのかと思ったが、皆んな唖然としている。だけどスノーが何か叫んだ。
「マナ上だ!」
「上?えっ!?」
私が頭上を見るとスプリガンの斧がまたしても迫っていた。
如何やら私が敵対心を稼いでしまっているらしい。流石に次はない。未だにインターバルを開けないブーツを睨み、もう一度さっきみたいに移動出来たらと願った。
すると私の体がほんの一瞬光だし、利き足で地面を蹴った。
すると私はまたしてもスプリガンの攻撃をギリギリのところで回避していた。これは一体何なのだろうか?さっぱりわけがわからない。ただのゲームのバグ?私自身何が起きているのかさっぱりなので、説明もさっぱりだ。
「よくわかんないけど、助かってる?」
「マナ!」
「ちなっち!」
私の下に駆け寄るのは親友のちなっちだった。
ちなっちは渡しとハイタッチをして「選手交代」と呟く。私も「頼んだよ」と軽くそれっぽくした。
ちなっちが【加速】を使って翻弄する。
その間に一旦後ろに下がった私はポーチからすぐさま回復ポーションを飲み干した。
ゴクゴクゴク。
苦い液体が喉に注がれるが、そんなこと構いやしない。とにかくHPがもうミリ残りだった。
「ふはぁー、いやー思ってたよりもキツイね」
「そうだな。しばらくはちなっちとタイガーに任せるしかないか」
スノーは私の隣でそう告げる。
今はちなっちとタイガーがスプリガンの動きを撹乱してくれている。そのおかげも相まって、さっきまでのダメージを合わせて半分以下には入った。
多分ここからパターンが変わる。スノーはそう見ているようだ。
「そんなことよりマナ、今のは」
「そうだよ!急に体が軽くなって逃げようとしたらもの凄い速さで。全然コントロール効かないし、体もボロボロだよ」
「やっぱりか」
「やっぱり?」
スノーは何か知っているみたいだ。
ぶつぶつ念仏みたいに唱えている。
スノーに尋ねた私はどんな力なのか聞いてみた。
「ねえスノー、なにかわかったの?」
「ああ。マナ、お前は……」
スノーが話し出そうとした途端、私の目の前で「スキル獲得」のメッセージがポップアウトする。
私は目を丸くしてスノーも「やはりか」と短いながら同意した。やっぱりスノーは気づいているんだ。それにしてもスノーの顔色が悪い。
何かまずいスキルなのかな?
「スノー?」
「見てみろ。私の予測ではおそらく……」
「う、うん。えっと、【雷歩】?なにコレ」
「やっぱりか」
「やっぱりなんだ!」
「スノーさん、コレはどのようなスキルなのでしょうか」
警護として戻ってきたKatanaが話を掻い摘む。
私はスノーの話と合わせてスキルの説明を見た。
「マナが得たスキル、【雷歩】はかなり特殊なレアスキルだ」
「そうなの?」
「ああ。その効果は踏み出した一歩目のみをトリガーに全身を加速させ瞬時に移動できると言うもの。その効力は称号判定されないものの、【加速】や上位互換【超加速】の上【神速】と同等とされている」
「えっと知らないスキルばっかり並べられてもピンとこないよ」
「要するに最初の一歩目を踏み出したタイミングで、その歩幅で到達するエリアまで使用者の意思を汲み取って自動的に異動することができると言うものだ」
とスノーはペラペラと話してくれるがよくわからない。
でもきっと凄く便利なスキルなんだと思う。レアスキルだしね。でも話をちょっぴり理解してみるとコレってかなり難しすぎじゃないですか?
「ねえスノー、コレってかなり難しいんじゃ、ない、の」
「どうしたマナ」
「うん。ちょっと疲れてて」
私は朝までは出ていないけど、顔色が少し熱っていた。
スノーはそれを見て確信したらしい。
「やはりな。【雷歩】はかなりピーキーなスキルのようだ」
「そうなの?」
「【雷歩】持ちは私の知る限りではいない。だが、公式情報によるとかなり扱いが難しい【攻防一体】と同じピーキースキルに分類される」
「ピーキースキル?」
「強力だが誰から構わず使えるようなスキルじゃないスキルだ。人を選ぶ上に、扱い方によってはゲームをかなり難しくしてしまう」
「そうなんだ」
「その【雷歩】は確かにスピードはあるが、小回りの効く代物じゃない。大きく分けて二つの欠点がある。一つは一歩目にしか効果が発揮されず、止まるたびにラグが生まれる点だ。そしてもう一つ、数値上には表されないがスタミナや精神力を削ることにある。人によって使用回数に異なりはあるが、マナはかなり使いこなせていたな。だが一度のインターバルなしでの使用はせいぜい三回。それ以上はスキルの方が勝手に作動しなくなる。油断と慢心が勝機の目を潰して冷静な判断力を鈍らせかねない。が、マナお前はどう思った」
「どうって言われても……便利だけど、かなりしんどい。正直連発はしたくないかな。でも、上手く使えれば」
「強力な武器になる」
「うん。私もそう思う」
スノーの説明で何となく理解出来た。
だけど二つ程間違いがある。精神力と言うよりかは集中力が途切れそうになること。ちなみに体への負荷は不思議と一切ないので、リアルの私の体も意識も大丈夫そうだ。
そしてもう一つ。こっちは使っている本人にしか絶対にわからないこと。私はその性質をこの短期間で何故か理解出来たので、再びスプリガンに挑むのだった。ちょっと試してみたいしね。




