■78 タイガベアー
やっぱり熊系の敵が多いんだよね。
私達一行はタイガーを新たに迎え入れ、今日も今日とて近くの森にやって来ていた。
この森にはそこそこレベルの高いモンスターがいるらしいとの情報があったからだ。
「それでどうするのスノー?」
「どうするもなにも、モンスターを探すしかない。今回狙うのは、丁度依頼も上がっていたコイツだ」
そう言ってスノーがポップアップしたのは変なモンスターだっと。
頭は虎みたいなのに、体は熊。まさにそんな例えがわかりやすかった。
「なにこのモンスター。タイガベアー?あれ、また熊なの?」
「そうだ。ちょうどこの辺りに生息しているらしい。このモンスターの肉を食べたがっているNPCがいたからな。いい金稼ぎにはなる」
スノーはかなーり、世知辛い話をした。
まあ確かに備えはあって十二分にいい。
丁度次はボス戦に挑むことになっているので、打って付けのタイミングだった。
「よーし、皆んな頑張るよ!」
「OK!じゃあいつも通り、私が仕掛けるって方向でいいのー?」
「私は後ろから援護と指示を出す。Katanaは注意を引くことと、迎撃を頼む」
「心得ておりです」
「タイガーはなにができる?」
スノーは的確な指示を出しつつ、タイガーに委ねた。
タイガーはリアルであった時とは想像も付かないほどはきはきとした言い回しを取った。
「そうだな。まっ、状況見て適当にやるわ」
「わかった」
「それよりもよ、マナには指示ねえのかよ?」
タイガーは私を見ながら不機嫌そうに呟く。
「そうだよ。なんでいっつも私には指示をくれないの?」
私もそのことを前々から気には留めていたので、この際だ。丁度いいから聞いておこう。
するとスノーはさも当然みたいに真顔で答えた。めちゃめちゃあっさりしていた。
「ん?マナは指示出しても聞かないだろ」
「えっ?」
「そうなのか?」
タイガーは不安そうに尋ねる。
私としてはそんなことをしているつもりなかったんだけど。
「私そんなかな?」
「そうだ。マナはいつも指示を出したはいいが、結局状況を自分で判断して勝手な行動を取る。その確率はほぼ100%に近い。そんな奴相手にまともな指示の一つや二つ出す方が手間な上に条件を絞りかねないからな。適当にしたいようにさせておく方がいい」
「えーっとそれはつまり」
「役立たずってことな。まあ、よくわかった」
タイガーは私が気にしていることをはっきりと言ってくる。正直凹んだ。
しかし落ち込む私にタイガーはこうも続ける。
「まああれだ。その自由性を俺達でサポートすればいいんだろ?」
「そうだ」
「イレギュラー分子にはイレギュラーにしてもらうってことな」
「そう言うことになる」
何で話纏まってるんだろ。
不思議でしょうがない。
「えっと、皆んなはそれでいいの?」
私は尋ねた。
すると皆んなゆっくりと首を縦に振る。なるほどこれは総意なんだ。なら仕方ないよね。今更違うことをして場をぐちゃぐちゃにするぐらいなら、敵も味方も巻き込んで私なりの最適解を取る。そっちの方が私らしい。
私は自分から開き直ることにするのだった。
「よし。そろそろ行くか」
「うん。でもタイガベアーなんてそんなすぐに出会えるかな?」
「だから探す。手分けしてな」
スノーはそう答えた。
虎の頭に熊の胴体。そんな目立つモンスター……ん?アレなんですかね。
「ねえスノー」
「なんだ」
「アレなにかな?」
「ん?」
私は指を差した。
そこに現れたのは黒く分厚い毛に覆われたなにか。
それから怖い猛獣みたいな顔。なんとなく今の条件に合致していた気がするが……
「まさかアレじゃないよね?」
「いやアレだな」
「えっ!?アレなの?あのモンスターなの!」
なんて言うご都合主義。
探す手間が省けたと言っていい。ここで私のチートスキル【幸運】が発揮されたのだろう。
「よーし、じゃあまずは私がちょっかいかけてくるよー」
「気をつけてね」
「大丈夫大丈夫。問題ないってー」
そう言いながらちなっちはその場から居なくなった。
【加速】を使って超高速で移動したのだ。
それ故に既にちなっちはタイガベアーの背後を取っていた。
「じゃあ先制攻撃。行くよー!」
ちなっちは〈赫灼相翼〉を抜刀し、背後から斬り掛かった。
タイガベアーの体が前方に崩れる。
しかしそのまま熊の強靭な足腰で体を支え直すと、体を捻るようにして振り向き鋭い爪で引っ掻いてくる。
「おっと!」
しかしそれを最小の動きでちなっちは躱す。
後ろに飛ぶようにしてバックステップを繰り出すと、森野と言う地形を利用して木の幹に体を預ける。
だがタイガベアーもそんなちなっちを引き裂くべく一方的に攻めに転じているが、木の幹が攻撃される瞬間に滑り込むようにして下からタイガベアーの背後へと潜り込み、追加の一撃を放った。
一撃と言っても双剣なので二回。
二回に渡る双剣の斬り上げがタイガベアーのHPを削った。もしかしてこれ、ちなっち一人でいいのでは?そう思ったのも束の間。
「うわぁ!」
ちなっちは攻撃を受けた。
なんとか体制を立て直して木の上に避難するが、その場にいるちなっちならその出来事に驚愕したはずだ。
ちなっちは目の前にタイガベアーを睨んでいた。
しかしそんな彼女は背中から攻撃を受けた。それは何故か。
否。既に答えは出きっている。
「おいおいなんだよアレ。聞いてねぇぞ!」
「スノー、アレって」
「ああ。敵は二匹いたってことだ」
その通り。
何の前触れもなく唐突に現れたそれは二匹目のタイガベアー。
さっきのよりも少しだけ大きい。もしかしたら親子か夫婦なのかもしれない。
木の上に取り残されたちなっち。今にもちなっちを噛み殺そうとしている。しかしそんなちなっちは私達にアイコンタクトを送る。
それは多分「今だよ」と言いたいんだ。
つまり自分に意識が集中している間に一気に決着をつけろと言う合図なのかもしれない。
「スノー!」
「ああわかっている。さっさと片付けるぞ!」
「言われなくてもやってやらぁ!」
タイガーは吠える。
ついにタイガーの出番がやって来たのだった。




