■76 ある日の喫茶店で
再投稿しました。
その日、私は駅近くの道を歩いていました。
と言うのも買い物に来たついでにプラプラ歩いているのですが、その過程でふと脇道に逸れてみたくなっただけだけどね。
「うーん、こっちはちょっと静か」
住宅街に近いからか、そんなに人通りは激しくなかった。
閑散としてはいないけど、ちょっともの寂しい。
そんな感じで歩いていると、ふと視線に入ってきたのは煉瓦造りのお店だった。
あれ?こんなところにお店があったんだ。
そこにあったのは如何やら喫茶店らしい。
凄い。まだこんなレトロなお店がこの辺りにも残ってたんだ。
私はちょっと感動した。
その理由は少し世知辛いもので、ノースに聞いた話なんだけど今日本で少しずつ建物が移動したりするなどで、少しずつだけど整備されている。
防災に備えてだったり、ネット環境の普及やなんやらで街並みが変化しているらしいのだ。
特に都市部ではそれが目立っていて、関東圏でも東京を周辺や、関西方面では積極的に進んでいるらしい。だから数年前とは少し街並みが変化しているので、数年前の地図や土地勘はそれ故に当てにはならないのだ。
まあそんなことはさておき、私はお店の中に入ることにした。
ちょうどお昼時みたいだし、お腹も減ってきたからだ。
チリチリーン!
昔ながらのレトロチックなベルが鳴る。
お店の中に入ると、そこは何処となく見覚えがあった。
店の構造が如何とかではない。こう雰囲気が〈WOL〉でタイガーと話をしたお店と似ていたのだ。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると深みのある渋い声の人が出迎えてくれた。
男の人だ。背丈もそこそこある。黒いベストを白のカッターシャツの上から着ているのもそれっぽい。
「お一人ですか?」
「はい」
「ではお好きな先はどうぞ」
接客も丁寧だった。
私は適当に窓際の席に座ることにする。
店内には私以外のお客さんはおらず、ゆったり出来た。
そこでだ。さっきの人の声がした。その声に耳を傾けると、如何やら接客を別の人に任せるらしい。なるほど。つまりさっきの人がこのお店の店主ということになる。
「じゃあ西君頼むよ」
「は、はい!」
あれ?
私は既視感を感じた。
(今の声って……しかも西君って。まさかね)
まあそんな偶然そう簡単に起きやしない。
きっと似ているだけだ。私はそう思い込むことにして注文を取りに来るのを待った。
とは言ってもまだお水もメニュー表も出さられておらず、テーブルの端に立てられた小さなメニュー表しかない。如何やらコーヒーが主流のようだ。ますますそれっぽい!
「えっと、お待たせしました。こちらメニューになります」
「あ、ありがとう」
ボケーッとしていたところにウエイトレスの人が来たみたいだ。
私はメニュー表を受け取り軽く眺める。
うーん何にしよう。
「ご注文がお決まりになりましたそちらのベルを鳴らしてお呼びください」
「あっ、はい……ってえっ!?」
「はい?」
私はそこにいた人の顔を見て何かを悟った。
と言うか雰囲気とか表情とかそれだけでわかった。
向こうは気づいてないみたいだけど、この子は……
「あの、私の顔になにか付いているでしょうか?」
「そうじゃないけどね。えっと、もしかしてだけど勘違いだったらごめんなさい。あの、失礼ですがお名前を伺っても」
「は、はい。私は西……」
「大河?」
「えっ!?ど、どうして私の名前をご存知で!」
この慌てよう。やっぱりだ。
私は確信した。いやもう大分前から確信していたのかもしれない。
この子はそうだ。
やっぱりだ。
「見つけたよ、大河ちゃん。いいやタイガー!」
「はうっ!」
彼女はもの凄く驚いている。
今にも後ろに倒れてしまいそうなほどによろけていた。そんな彼女の手をすぐさま取ったのは私だ。
「大丈夫大河ちゃん」
「ど、どうして私の名前」
「えっ!?私だよ。マナ」
「マナさん……神藤愛佳さん!」
「うん。その通りだよ」
私は大きく頷いてみせた。
大河ちゃんは目を丸くしていた。
私のゲーム内での姿は髪の色が全然違う。顔付きとかはそんなに違わないけど、やっぱり髪の毛の印象は大きいのかもしれない。
「約束通り見つけたよ大河ちゃん」
「ほ、本当に見つけるなんて。私、絶対できないと思ってたのに」
「大河ちゃん。私が言うのもなんだけど、絶対はないんだよ?それに、私は見つけるって言ったでしょ?」
「それでも」
「友達を見つけるって決めたのに、見つけられないなんて私は嫌だな。だから、私はこうして大河ちゃんを見つけられたんだよ」
「マナさん」
「今は愛佳だけどね。それより注文いいかな?」
「えっ!?」
私はスッと通常運転に戻る。
これ以上ウエイトレスを引き止めておくのも悪い。
私はパラパラとメニュー表を捲った。
(ナポリタンとオムライスどっちにしよう)
私はお昼ご飯で悩んでいると大河ちゃんは何か聞きたそうに尋ねる。
「あの、愛佳さん」
「なーに?」
「どうして私のこと誘ってくれたの?どうして私のこと……」
「友達って言うのか?そんなの決まってるよ。大河ちゃんと単純に仲良くなりたかったから。それじゃあ駄目かな?」
「えっ!?」
大河ちゃんは驚いていた。
もしかしてそんな単純すぎる答えじゃ駄目だったのかな?でも他には放って置けないってだけだから答えには不十分だろう。
悩みに悩んた末に私が辿り着いた答えはこれだった。
「よし、オムライスにしよ!じゃあオムライス一つで」
「えっ、は、はい!少々お待ちください」
伝票にサラサラとボールペンで書き連ね、そそくさとする大河ちゃん。
そんな彼女に私は一言だけ告げる。
「大河ちゃん」
「はい!」
「友達として仲間としてよろしくね!」
それだけは言いたかったのだ。




