■75 刀香の誘い
今回も刀香ちゃんのお話。
それとシリーズ設定をつけました。
〈WOL〉の番外編エピソードを不定期で書いていこうと思います。めちゃくちゃ短いショートストーリーですが、評価とかブクマしてくれるとすっごく嬉しいです!
「えっ!?」
西さんは小さく驚いています。
無理もありません。
〈WOL〉の世界で、しかもほんの短い時間でしか交流もしていなかった相手が今目の前にいるのです。そして何よりも彼女が考えいるであろうことは、おそらくこうして“自分の本性を知ってしまわれた”ことにあるのでしょう。
ですからここまで驚き、そして今焦っているのです。
「西さん」
「は、はい!」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。今こうして話している相手は、“リアルの私”なんですから」
だからこそ、私は優しく説き伏せます。
彼女は人と距離を置こうとしている。それは何故か。おそらくそこにこそ彼女の抱える心の枷があるのでしょうね。
「西さん。私は貴女と友達になりたいんです」
「えっ!?」
私は直接的なことを伝えた。
「なにもギルドに入って欲しいからその交換条件と言うわけではありませんよ。私はこう見えて人を見る目はあると思っているんです」
「えっと……」
「マナさん。彼女を覚えていますよね。貴女を勧誘した方です」
「!」
西さんが黙りました。
やはり何かあるのでしょう。
「物事をあらゆる方面から見る目は自己評価を高く設定している訳ではありませんが、私やスノーさんは劣っていないと思います。ですが、人間や生物等の“心”や“意思”を持っているものならば、私にはマナさんはズバ抜けているように思えるんです」
「あの子が……」
「はい。あの方は、人を見る目があります。誰から構わず手を差し伸べてしまうような心優しい方ですが、その中でも自分から積極的に直観的に働きかけることはそうないでしょうね。私と貴女は似た境遇なんですよ」
「えっ!?」
あの時も私はマナさんに誘われた。
本当は誰でもいいはずなんです。それがマナさんの持つ包容力によるポテンシャル。そう捉えていくと、誰でも適当に誘えばいい。それをしないのは何故か。自分の中で直感を信じているからでしょう。
そしてその包容力に私達はマッチした。
だからこそマナさんに引き入れられたんです。
あの人は無茶をします。イレギュラー因子だからこそ、それを放っておけない私達がいる。これを世間では“過保護”と言うのかもしれませんが、私達はそう思ってはいませんでしたが。
「私もマナさんに誘われて『星の集い』に加入したんです」
「そ、そうなの?」
「はい」
私ははっきりと答えます。
「つ、辛くはないの?」
「辛いんですか?」
「えっと、その、そうじゃなくて。私なんかが一緒にいてもいいのかな?」
「構いませんよ。誰も貴女を拒んだりはしませんから」
「で、でも!」
「いいですか西さん。貴女は悲観的です。自分がその場に相応しくない。そこに居たらいけないんだと思い込むのは些か早計ですよ」
「そ、そんなこと……」
「わからないとは言わせませんよ」
私ははっきりと物申した。
「うっ」
「手詰まりです。貴女のその早計かつ悲嘆的な態度の影にかつてのなんらかの因縁が含まれているとも思いません。言わば勝手な妄想。早とちりですよ」
「そうなの、かな?」
「ちょっとした事で相手の思考を動きを見切る。そこから転じて自分を罵る。それ故の二面性ならとっくに誰も貴女には近づいていないでしょうね」
「ううっ!」
これでは埒が明きませんね。
「西さん。いえ、大河さん!」
「は、はい!」
「貴女はどうしたいんですか?選択は迫られています。あまり猶予はありません。一つはこのまま以前と変わらない臆病で他人の機嫌を考えながら過ごし続ける道。もう一つは誰かの手を取り、自分から自分を奮い立たせ変わる道。二つに一つです。もちろん第三の先手串を見つけていただいても構いません。貴女ならどうしますか?なにをしたいですか?」
「私は……わからないよ。でも!」
少し風が変わりましたね。
顔付きがいいようです。
「その、マナさんは悪くない気がする」
「それでは」
「でも、私もマナさんと約束したから。だから、まだギルドには入れない!。それだけは譲れないです!」
「そうですか。わかりました」
私は軽く呟きます。
スッと立ち上がり、私は屋上を離れようとする。
「あっ、そうでした。大河さん」
「は、はい!」
「そう固くならないで構いませんよ。私のことは刀香と呼んでくれて構いませんから。それでは」
「あっ、待ってよ龍蒼……刀香さん!」
「はい?」
私は立ち止まりました。
大河さんの顔色は依然として固いですが、少し落ち着いているみたいですね。
「マナさん達のこと、刀香さんはどう思っているんですか?」
「どうと言われましてもね。少なくとも私には良い友人としか思いませんよ。とても大切な」
そう。
私はあの方達がたまらなく見ていて面白いのです。
まるで太古の昔より繋がれたような感じ。そう思っているのでした。




