■73 ゴールドフィンフィッシュ
一旦の閑話休題。
次の日。
私はタイガーから提示された例の条件を皆んなに話した。
「なるほどな。つまりリアルでタイガーを見つければギルドに入ってもいいと」
「うん」
「そうか。お前もいい加減しつこいな。なぜそこまでしてタイガーにこだわる」
「えっ?うーん、だってタイガー自分から一人になろうとしてるのに私達といる時、楽しそうだったでしょ?昨日だって、そうだったもん。煩わしそうにしてるのに、どこかわくわくしてるのが見え見えだったから」
「なるほどな。それでほっとけなくなったのか」
「うん!」
スノーの問いに対して私はそんな反応をします。
甘いとかお節介だとか言われても仕方ないかもだけど、スノーがあえて何も言わないのは、自分にも似たところがあるからだろう。
それもそのはずで今回のケース、スノーの時と似ている。と言うか、全く同じだった。
条件も全部同じだから、ここでとやかく言えばそこを突かれるとわかっているのだろう。まあ、その通りなんだけどね。
「それでどうするんだ」
「どうって?」
「タイガーの件。できるのか?」
スノーはそんなことを言い張る。
出来るのか?そんなの知らない。けど……
「不可能じゃないと思うよ。それに私、なんとなくタイガーも近くにいる気がするんだ!スノーの時みたいに、すんなり出会えたりしてね」
「そうか。またそのことはお前に任せるとして、ちょうど人手は集まっているんだ。これから出るぞ」
「出るってどこにー?」
ちなっちが尋ねる。
するとスノーは一枚の紙をインベントリから取り出すと、机の上に置いた。
そこには依頼主の名前として、シズさんの名が記されていた。
「シズさんから?」
「ああ。この間、私達宛に直接届いた」
「なんの依頼なの?」
「ゴールドフィンフィッシュの捕獲だ」
「「ゴールドフィンフィッシュ?」」
私とちなっちは首を傾げた。
そんな私達にスノーは説明してくれた。
「ゴールドフィンフィッシュはその名の通り、鰭が金色に光る魚のことだ」
「うん。それはわかるけど」
「何でシズは欲しいのさー」
「ゴールドフィンフィッシュの鰭は剣などの刃物を研ぐことができる。またそうすることでより強度が増す性質があるんだ」
「そうなの?」
「そうだ」
スノーは短めに話してくれた。
なるほど。最後の一言だけで、何でシズさんが欲しいのかがわかった。
しかし何で私達に頼んだんだろ?
「ねぇねぇスノー。何でシズさんは私達にお願いしたんだろうね?」
「ん?知り合いだからじゃないか」
「それだけ?」
「おそらくな」
スノーはそう言うと私達を連れてそそくさと何処かに連れて行こうとする。
もしかしてこれから行くのかな?でもまだKatanaが来てないけどーー
「すみません、ただいま参りました」
「あっ、Katana。今日は来ないと思ってたよ」
「申し訳ございませんでした。少々、個人的な用が入ってしまい」
「別にいいよ。私達は、強要してるわけじゃないから」
「タイガーをしつこく誘っているお前が言うな」
「ごめんごめん」
私は頭の後ろに手を回しながら謝る。
そんな私達にKatanaは何か言いたそうだ。
「あのそのことなのですが……」
何か言おうとしたKatana。
しかしちなっちは私たちの腕を引っ張った。
「じゃあ皆んな揃ったことだし、早く行こうー!」
「あっ、ちょっと待ってちなっち!」
「ほらほらKatanaも早く!」
「はい」
そんなこんなでKatanaの話は流れてしまった。
私達は川にやって来ました。
如何やらこの川にゴールドフィンフィッシュ入るらしいのです。
それで、一体何で取るのかと言いますと……
「それでスノー、何を使うの?」
「コレだ」
「コレって、釣竿?」
「そうだ」
そう言ってインベントリから全員分の釣竿を取り出すスノー。
私達はそれぞれ一人一本ずつ手渡された。
「コレ使うの?」
「そうだ」
「私、釣りとかしたことないんだけど」
「私もあまりしたことはないな」
あれ?
「二人は釣りとかしたことある?」
「ないよー」
「ございません」
あっ、これはあれだ。
誰もわからない的なやつだ。
如何しよう。もしここまでリアルに忠実だとしたら……と言うか多分そうなんだろうけど、不安だ。
「まあ大丈夫だって!」
「ちなっち?」
「釣りとか経験ないけど、最初は誰もやったことないものでしょ!」
「そ、そうだよね」
「はい。私も精一杯力を尽くす所存です」
「うん。そこまでしなくてもいいよ、Katana」
二人ともかなり乗り気だ。
その様子を見ていると、なんとなくだけど出来る気がしてきた。
と、そんなことを言っている側からスノーはいち早く釣竿を放り投げた。
ポチャ!
水面を弾いて、水底に漂う。
先端に付けた釣り針と餌となる小さな虫。
それらをまるで生きているかのように巧妙な手捌きで水中に漂わせている。凄い。
「こんな感じだ」
「凄いよ、スノー!」
「安心するのはまだ早い。ゴールドフィンフィッシュは警戒心がとても強い。今の波紋で少し遠くに逃げたかもしれない。そんなに大きな種類でもないから、掛かればすぐにでも釣れるだろうが」
「待つのが大変ってこと?」
「そうなるな。釣りは我慢と根気だ」
「あっ、それは何となく聞いたことあるかも!」
「よし。じゃあ三人も岩陰を狙え」
「OK!よっと!」
いち早く投げ入れたのはちなっちだった。
さすがはちなっち。持ち前の身体能力で綺麗に岩の後ろに釣り針が落ちる。
さらには別の場所でKatanaも投げ入れており、同じく音もなく波紋も最小で済んだ。
それを見ていた私も俄然やる気が出てきて、思いっきり釣り針を投下した。
ポチャン!
少し音が大きかったらしい。
波紋も二人とは比べもにならない程大きかった。
「あっ、ごめんね皆んな」
「いいっていいって。それが普通だよー」
「そうだマナ。だからかにすることはない」
「そ、そっかなー?」
少し落ち込んだ。
だけどそこからしばらくして、いち早く掛かったのは……
「あっ、なにか引っかかった!」
「早っ!」
ちなっちが叫ぶ。
如何やら私の針に何か引っかかったので、それを聞いて驚いたようだ。
それもそのはず、あれから十分。
たったの十分で私の釣り針に何か掛かったのだ。
「ど、どうしようこれ!」
「ゆっくりだ。ゆっくり釣り上げろ!」
「そう言われても……うわぁ!」
結構力が強い。
今使っているこの竹製の釣竿にはリールが付いていない。だから後はタイミングに合わせて後ろに下がりつつ釣り上げるしかないのだ。
だけどタイミング何てサラサラわからないので、私は困っていた。
「マナさん、呼吸のリズムに合わせてください」
「こ、呼吸?」
「はい。ゆっくりタイミングを合わせるんですよ。ゆっくりでいいんです。釣竿がピクリとした動きに合わせて、引き上げてください」
「う、うん」
私はKatanaのアドバイスをそのまま使うことにした。
集中する。心を落ち着かせ、釣竿の動きと私の呼吸とを合わせる。
一、二、三。
一、二の、三!
タイミングを的確に掴んだ私は目を見開き、そのまま大きくのけぞるようにして釣り上げた。
その先端についていたのは金色の魚。
「わっ!」と驚く。
「おっと」
のけ反った私をちなっちが支えた。
「ありがとちなっち」
「いいっていいって。それよりもコレ」
「間違いないな。ゴールドフィンフィッシュだ。流石はマナだな。運がいい」
「ありがと。でもそれって運以外良くないってことだよね?」
「……」
「黙らないでよ、もおー!」
私は黙り込むスノーを怒った。
しかしそんないつも通りの風景と、明らかまったーりムードの雰囲気が嫌いじゃなかった。




