■69 虎、参る
予約投稿。
ここに来ての新キャラ。
私の前に現れたのは少女だった。
力強い一言と一緒に目を引くのはやっぱりその頭とお尻から伸びる耳と尻尾だろう。
「虎?」
そこに現れた少女の耳と尻尾はそれぞれ虎柄だった。
しかしただの虎ではない。
そのモデルは私でも知っている。
「ホワイトタイガーか」
スノーが答えを速攻で呟く。
そうそこにいたのは、ホワイトタイガー柄の毛並みを持つ〈セリアンスロゥプ〉の少女。もちろんNPCではない。間違いない。私達と同じでプレイヤーだった。
「えっと、助けてくれてありがと」
「なに言ってんだよ。まだ終わってねえだろうが」
「えっ!?」
ホワイトタイガー柄の少女は、両拳に付けたガントレットをかち合わせた。
「見てたぜ!お前ら、アイツを倒そうってんだろ。いいぜ、協力してやる」
「えっ、でもなんで」
「なんでもじゃねえ。さっさと行くぞ!」
「う、うん!」
彼女はより強い口調で捲し立てる。
しかし私は全く動じなかった。
一瞬、引き攣ったのはただその威勢が凄まじかっただけである。
「よっしゃー、行くぜ!」
ホワイトタイガー柄の少女は勢いよく飛び出した。
そのスピードは【加速】持ちのちなっちのスピードには遥かに劣るけど、普通の状態なら良い勝負するぐらいある。
だけどちなっちと圧倒的に異なる部分があった。
それはスノーが発するのと同時に、私にも理解出来るほど簡単なものだった。
「あの体幹はなんだ。それに、あのステップは」
「うん。速さじゃなくて、相手を翻弄する動きみたいだよね」
そうなのだ。
ホワイトタイガー柄の少女は軽快な足取りと独自のステップでのたうち回るジャイアントアースワームの動きを躱しながら近づいていた。
どっちかと言うとKatanaの動きに近い。
しかし何か基礎があるわけでもなく、ただただジャイアントアースワームが動くのに合わせて、掠めるように動きをずらしていた。スノーみたい。だけどそのどちらもが二人の力量には及んでいないように思う。
だけど一つだけ決定的なのは、そのセンスだった。
「おらっ!」
ホワイトタイガー柄の少女は勢いよく蹴りを入れる。
回し蹴りだ。
ダメージは見た目よりも大きいようで、派手な動きにはない巧みな技巧が詰まっていた。
「すっごーい!」
「スノーさん、今の見えましたか?」
「ああ見えた。あの蹴り、一発じゃないな」
「はい。同時に二発。しかも少しのズレもなく叩き込んでいますね。なにかのスキルでしょうか?」
二人の会話はそんなだった。
一度に二度の攻撃?しかも全くおんなじところに。
そんな芸当普通じゃない。
「おい何やってんだよ、お前ら!さっさとたたみかけるぞ!」
「う、うん。いっけー!」
私は急かされながら今度はちゃんと〈波状〉を放った。
衝撃波がジャイアントアースワームを襲う。
そこにちなっちとスノーの斬撃がクリーンヒット。追い討ちをかけるように飛び込んだのはKatanaで日本刀を抜刀し、真下に斬り下ろした。
「壱ノ型飛沫雨!」
水飛沫を上げるように一直線に斬り下ろした一撃はジャイアントアースワームの体を引き裂いた。
それが決定打になり、ジャイアントアースワームのHPはまるまるうちになくなっていくのだが、追い討ちをかけたのはホワイトタイガー柄の少女だった。
「しぶてぇな!これでも食らっとけ!」
そう言ってストレートで打ち込んだ拳はジャイアントアースワームにとどめの一撃となった。
こうしてジャイアントアースワームは倒された。
あれだけな巨体を一人で撹乱し、要所要所で的確な一撃を何度も加えていた。
「鉄砲玉のような奴だな」
「鉄砲玉?」
「例えだ。行ったっきりで戻ってこないこと。転じてそう言われ、まあこの場合は無鉄砲に突撃する特攻隊長の方が正しいだろうな」
「特攻……って言うよりもやっぱり無鉄砲だよ」
「いいじゃねえか。無鉄砲でよ!」
ホワイトタイガー柄の少女は生き絶えたジャイアントアースワームの背から飛び降り私達に近づいてきた。
瞳の色は琥珀のように黄色い。
そんな彼女はまるで疲れた様子はなく、汗一つかいた様子がない。
「どうよ、見たか俺のスタイル。かっけえだろ!」
「うん!すっごくかっこよかったよ」
「お、おう!マジか、素直に褒められるとは思わなかったぜ」
ホワイトタイガー柄の少女は頬を掻きながら呟く。
「どうやったんだ、今のは」
「はあ?教えると思うか?」
「だろうな。まあいい。今回は助かった」
「おう!それでいい」
少女は笑った。
それにしてもホントに強い。
でもその本性は少し荒っぽい気がしたけど、それは偽りで本当はすっごく……
「優しいね。貴女って」
「はあっ?なに言ってんの」
「荒っぽく見せるの大変でしょ」
「う、うるせぇ!俺はな……」
ちょっと怒らせちゃったかな?
でもそんな怒っている姿も何処か鈍い。
「ねえ、名前は?」
「名前?俺のか?」
「うん。私はマナ、よろしく」
私は手を差し出した。
彼女はそんな手を一瞬見ると、同じように手を差し出そうとしたがすぐに引っ込めてしまう。
「ふん。まあいいか。俺はタイガーだ」
「うん。よろしくねタイガー!」
これがタイガーとの出会いだった。




