■58 衝撃波
前話の続き的なノリです。
7月6日月曜日。
いつも通り〈WOL〉にログインした私は、ギルドメンバーと一緒に冒険に出ていました。
そこで今回の場所はと言いますと……
「〈ガレット岩場〉には行ったんだな」
「うん。最初の方だけだけど」
「なら少し場所を変えるぞ。ここに行く」
「ここ?」
マップを指差すスノー。
彼女が示すのは青く表示されていて、何か湖のような場所だった。
「〈ササラレイク〉。この辺りじゃそこそこ大きい湖だ」
「湖?」
「ねえねえスノー?この辺って何かあるのー」
「さあな。私も行ったことはない。だが、この辺りにはそこそこいい素材がある」
「素材ですか?」
「ああ。ササラ水と言うアイテムだ」
「「「ササラ水?」」」
何それ?〈ササラレイク〉だからササラ水何ですかね?でも聞いただけじゃどんな効能なのかはさっぱりわからない。
「それに、他にも……」
「ん?」
スノーの何か含みのある感じだった。
しかしすぐにそれを飲み込んでしまう。
「いやなんでもない」
「いや絶対何かあるでしょ!」
「副産物でいいものだ」
「副産物?」
やっぱり気になる。
もう少し追求してみようかと思った矢先、ちなっちが身を乗り出した。
「ねえねえ、そんなことよりさ早く行こうぜ!」
「そうだな」
「あっ、ちょっと……(まあいっか)」
今度は私が押し黙ることにした。
と言うことでやって来ました〈ササラレイク〉。
そこは緑豊か。かつ一際大きな湖が位置する場所だった。
「ここなら何かいそうだね」
「いないと困るがな」
スノーの的確なツッコミが入る。
「よし、とりあえず水を汲むぞ」
「水?」
「ああこの水自体がササラ水だ。とりあえず集められるだけ集めて後で調合にでも使う」
「OK!じゃあ早速集めちゃいますか」
ちなっちはすかさず空瓶をインベントリから取り出すと、湖の中に突っ込んだ。
トボトボトボと水が飲み込まれていく。
「こんなのでいいのかな?」
不安に思いながらもコルクで蓋をした。
とりあえずこの作業を繰り返すことになるのだが、これが目的なのかな?そんな疑問に駆られていると、急にポチャン!と音がした。
「ん?」
「どうしたマナ」
私は顔を上げた。
しかしそこには何もない。
「いや今さっき何か音がしたような?」
「音?まさか!」
スノーは何か気づいたのか急に立ち上がった。
その様子に慌てる私達。周囲一面を確認し、何かないかと遠くを見る。
するとまたポチャンと音がした。
そちらの方向を見ると、そこで何かが跳ねたのだ。水面を跳ねて姿を現すもの。その姿は普通に鯉だった。
(なんだ、ただの鯉か)
私は内心そう思った。
多分ちなっちもKatanaも同じはずだ。しかしスノーだけは違った。
目を見開いて私達に叫ぶ。その姿を見て私達はびっくりした。
「ササラ鯉!マナ、Katana。アイツを斬れ!」
「えっ、なんで?」
「ササラ鯉はかなり珍しいモンスターだ。あのモンスターの体液を混ぜ合わせれば、ササラ上命水が作れる」
「ササラ上命水?なにそれ」
「飲めばたちまちHPが全回復するアイテムだ。だが、ササラ鯉自体が珍しい故になかなか市場にも出回らない。貴重なアイテムだ!」
「そ、そっか。よーし!」
私が腰の〈波状の白星〉に手をかけた時、先に前に出たのはKatanaだった。
「Katana?」
「ここからではタイミングがズレます。少し挙動を変えさせてみましょうか」
「えっ!?」
「見ていてください」
そう言ってKatanaは構えた。
左腰に携えた日本刀の柄に手を添え、鍔の部分に指をかける。そうして目を閉じ深呼吸をすると共に、鑑みるように目を見開いた。
「な、なんか凄いね」
「少し黙れ」
「う、うん」
口出ししようとした途端、スノーがピリついた。
次の瞬間、
「陸ノ型辻風」
抜刀された瞬間、もの凄い衝撃波が巻き起こった。
衝撃波は水面をすり抜け、そのまま小さな波を起こしササラ鯉を水の中から弾き出すと同時に、飲み込み切り裂いた。
ササラ鯉は一瞬にして捕獲されてしまった。
「ふぅ。今の感覚でやれば上手くできますよ」
「凄いよKatana!刀抜いただけなのに衝撃なんて起こしちゃうなんて!」
「ああ。流石の剣捌きだな」
「恐縮です」
だからと言ってKatanaに変化が現れるわけではなかった。
水の流れのようにさらさらしていて凪を維持している。はしゃいでテンションがガンガンになるわけではなく、スノーのように自分で自分をセーブ出来る精神力を持っている。アグレッシブタイプじゃないと言うわけだ。
「って、今のを私もやるの!」
「当然だ。特訓の成果を見せろ」
「そんなこと言われても……」
「大丈夫大丈夫!マナならなんとかなる!」
「他人事みたいに言わないでよ!」
「いや、他人事だし」
冷たいなーちなっち。
でもあの特訓を無駄にはしたくなかった。あんなに頑張ったんだし、それに何よりちなっちにも面目が立たない。だから私は次のササラ鯉が浮上してくるのを待った。だけど珍しいって話だからそう簡単に出てくるわけないだろうと高を括る。が、まさかのすぐに現れてしまった。
パシャン!!
波紋を立て、音を立てて宙を舞うササラ鯉。
それにしてもさっきのとは色が違う。さっきのが白と赤の錦鯉タイプだったのに、今回のはめちゃくちゃ金ピカピカピカだった。
「ねえ見てあれ!金ピカだよ!」
「ササラ鯉の希少種か。なんパーセントの確率だ」
「よーし、ちなっちとの特訓の成果!今こそ見せるよ、〈波状の白星〉!」
私は今度こそ抜刀した。
短い刀身が日の光を浴びて煌めき、金色のササラ鯉を捉える。
後はここから衝撃波を飛ばすだけ。大丈夫。あんなに頑張ったんだもん!絶対出来るよね。
私は〈波状の白星〉の柄を強く握り込み、そのまま高く腕を上げてササラ鯉が姿を現すのを待った。
じっとだ。じーっと、じーっと待ち、私は振るった。
「いっけー!」
叫びと共に放たれた衝撃波は空気を揺らした。
周囲の木々に傷を付け、さらには水面を振幅させる。
その勢いは風そのものと言っても過言ではない。Katanaの辻風を彷彿とさせるが、それとは比べ物にならなかった。どちらが上か、それは目に見えてわかった。
「辻風には敵わないなー」
「年季が違う。諦めろ」
スノーはそう言った。
しかし私の放った〈波状〉は的確に水面を平行線に過ぎ去り、金色の鯉を叩き落とした。
「やったじゃんマナ!」
「うん。ちなっちのおかげだよ」
私は笑顔で答えた。
今回は全然腕が痺れてない。ブンブン振っても全然動く。全く痛みもなければ痺れもない。これがリアルでの特訓の成果なのだろうか?本当にこのゲームって難しいし、奥が深いや。
「ねえねえスノー」
「なんだ」
「副産物ってササラ鯉のことだったんだね。私全然知らなかったよ」
「あくまで副産物だ。それにここに来たのはお前とKatanaの動きを見て戦略に取り込めないかと思っただけだからな」
スノーはああ言ってるけど、私はともかくとしてKatanaの実力は最初から解っていたはずだ。
それを踏まえての今回。まあ私としても成果はあったし、よかった。よかったんだよねー。




