■54 赫の双剣
今回は新しい双剣を手に入れる回です。
ドラグラ鉱山から帰ってきた私達はそのままリオナさんの経営する〈麗人の内輪〉にやって来ていた。
「ここが〈麗人の内輪〉ですか」
「うん。さあ入ろ」
私は一足先に店の中に入った。
そこには店を切り盛りするリオナさんと頬杖をついたシズさんの姿があった。
「あら、昨日ぶりですね」
「待ってた」
リオナさんは笑顔でシズさんは表情をピクリとも変えない。
なんかちなっちとスノーを見ているみたいだ。
「あら、お二人は前に一度来てくださった」
「ちわっち、ちなっちでーす!」
「あの時は助かった」
ちなっちとスノーは私の後ろからひょっこり顔を出した。
今更だけど、ちわっちの方が私は好きだなー。そんな究極に如何でもいいことを思いながら立ち尽くしていると、シズさんが急に立ち上がり私に詰め寄った。
「どう、採れた?」
「は、はい。これぐらいで足りますか?」
私は詰め寄ってきたシズさんに袋いっぱいのドラグノ石を手渡した。
それを見たシズさんは目の色を変え、一つ一つ選別していく。その様子はとても真剣で、小言を唱えながら見定めていく。
「コレはいい。コレもソレもアレも。全部高品質……最高」
「よかったー。じゃあこれで作れますか?」
「うん。大丈夫。約束は守るから、すぐにでもできる」
何とも頼もしい。
シズさんの表情は生き生きしていた。早く石ころをいじりたくてうずうずしているみたいに見える。子供っぽい。このゲームやる人って、本能的に子供っぽく純粋になる傾向があるのかな?そう思うぐらい、似たようなタイプの人によく出会う。
「ん?コレはなに」
「あっそれは……」
シズさんは手渡した袋の中に混入していたドラグノ石とは違う石を拾い上げる。
それを見た私はついつい声を上げてしまった。
正体はさっき手に入れたばかりの白星晶。私がわざと入れておいたのだ。
「白星晶……珍しい……それに状態もいい。こんなの頼んでない」
「偶然手に入ったんです。シズさんなら興味出るかなーって」
「餌にしては高級」
別にそんな気で入れたわけじゃないんだけど。
ただ単にシズさんなら何かに使ってくれるんじゃないのかと思っただけ。
しかしそれを皮切りにさらにノリに乗ったシズさんはすかさず声をあげる。
「今すぐ作る。それで、誰の武器?」
「はいはーい!私、私!」
「貴女?なにがいい」
ちなっちは勢いよく手を上げた。
“何がいい”と言う注文に対して、ちなっちは少し悩んでから答えた。
「うーんと、やっぱり使い慣れた双剣がいいなー。できれば刃こぼれしないような頑丈で、軽くて、カッコいいやつ!」
「ちなっち、それは注文しすぎたよ!」
私は間に入って止めようとした。
流石にそんなにポンポコ言ったらシズさんだって困っちゃうよ。そう踏んだ私の反応とは裏腹に、シズさんは妙にやる気だった。
「軽くて頑丈。それからカッコいいやつ。余裕だ」
「余裕なんですか!」
「もちろんだ。手を貸して欲しい、型を取る」
そう言ってちなっちの手をシズさんは触りじっくり観察する。
専用を作るんだものこれぐらいしないといけないんだ。面倒だとか思っちゃういけない。良いものを永く使おうと思ったらこれぐらいでしないといけないんだ。大事なことなので二回思いました。言いましたじゃありません、思いましたです。はい。
まあそんなわけで、しばらく私達はリオナさんのお店で待つことになるのでした。
それからおよそ三十分後。構想が固まり、完成した剣を持ってシズさんが戻って来ました。
「待たせた」
「全然待ってないですよ!それよりできたんですか?」
「バッチリ」
シズさんは寝ぼけ眼ではあるものの口角を上げて完成を教えてくれた。
とっても楽しそうだ。可愛い。リオナさんも手を合わせて顔を朗らかにさせている。
(リオナさんも可愛いって思ってるんだ)
本人に知られて不快な顔をされても困るのでこれ以上は考えないことにする。なんか後が怖そうだから。
「その前にマナにはコレを返しておく。参考になった。ありがと」
「〈麒麟の星雫〉!」
私はシズさんに返してもらった愛剣を見てつい叫んでしまった。だって最初から私を支えてくれていた大切なものだもん。この子がなかった時のことを思えば、自分の無力さが否応なくひしひしと伝わってくるのだ。
鉱山での自分の役立たず具合と、スノーやKatanaの凄さに目を見張る以前にもっと頑張りたいと思っていた。
「それとコレが頼まれていた双剣」
「あっ、来た来たー!」
ちなっちが「待ってました!」とばかりに飛び跳ねた。
すぐさまシズさんに駆け寄ると、シズさんのインベントリから取り出された剣を受け取る。鞘に納められているのでまだ本体は窺えないが、何かカッコ良さそうだった。
「抜いてみていいですかー?」
「戦闘じゃなければ問題ないはずだ。自分の目で確認して」
「はーい!」
ちなっちは双剣を鞘から抜いた。
抜刀された双剣は両方とも全く同じ形で、色合いも変わらなかった。その色味は赤黒い。刀身が少し湾曲していて、だけど先端は細く鋭い。そして注目すべき点はそこではない。
「あれ?柄頭のとこ、変な紐で繋がっている。コレってワイヤー?」
「そうだ。その剣の名前は〈赫灼相翼〉。二つで一つの剣。特徴は翼を模した風を切るような湾曲した形と確実に獲物を貫くように尖った先端。握りもわざと湾曲させていて、それらを繋ぎ止めるのは一般のワイヤー。鋼鉄故に頑丈。だけどしなやか。だからこそいい」
「か、カッコいい!これならマナ達を守れるよ、ありがとシズさん!」
「まだ終わっていない。その剣には特殊な機構が備わっている」
「えっ!?」
困惑するちなっち。私にもわけわかんなかった。
「鍔の下のスイッチを押してほしい」
「スイッチ?あっ、確かちょっと出っ張ってる。押すよー」
ちなっちは出っ張りを押し込んだ。
するとワイヤーが外れ、勢いよく繋ぎ止めのワイヤーを失った方の剣が無造作に飛んでいく。
真っ直ぐに床に突き刺さると、その勢いは殺された。
ワイヤーを失った部分には輪っかのようなものがあり、ワイヤーの先にも金属製の引っ掛けがあった。
「凄っ、飛んだ!」
「それがその剣のギミック」
さも当然みたいに言うシズさん。
だけど私にはわかんなかった。如何やったらあんな芸当が可能なのだろうかと。困惑している私にリオナさんが教えてくれた。
「驚いた?シズはね、【機構】って言うスキルを持っているのよ」
「【機構】?」
首を傾げる私。
自然とスノーの方に視線がいった。
「【機構】は武具に特別な仕組みを施すことができるスキルだ。色んなからくりを仕掛けて面白いものを作ることに特化している。おそらくはそれを武器に組み込んだんだろうな」
「正解。流石スノーちゃんね」
「ちゃん?」
「あらごめんなさい。でもごめんねついつい言っちゃったの」
リオナさんは平謝りする。
スノーが怪訝な顔色になるが、今は放っておく。それにしても本当に凄い。こんなことも出来るなんてとわくわくしてくる。そんな興奮気味な私にシズさんは声をかけてきた。
「それともう一つ、マナ少し来て欲しい」
「は、はい?」
呼ばれた私はシズさんに近づく。
するとシズさんは今度は別のものをインベントリから取り出して来た。それは一本の剣。いや、剣にしてはかなり短い気がする。
「あの、コレは?」
「マナにあげる。もらって欲しい」
シズさんは唐突にそんなことを言ったのだった。
動揺した私は固まってしまう。
だけど何故私にくれるのかはわからなかったけど、シズさんはとても生き生きしていたのだった。




