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■52 Blue Wave《ブルー・ウェイブ》

ある程度の目安とかは設定してるけど、間の間話が難しい……

 私がやって来たお店。

 そこは前にクエストで鉄鉱石を納品した私と同じでプレイヤーが営む武器屋〈麗人の内輪〉だった。

 武器屋と言うのは名ばかりで本当は主人のリオナが営むアイテムショップなのだが、今日はそこに先客がいた。

 私と同じで〈ヒューマン〉の女性。しかもプレイヤーだ。背は高く青白いボブカットの髪と眠たげな目が特徴的だった。


「あら?貴女はこの間の……確かマナちゃんでしたっけ?」

「はい。お久しぶりです、リオナさん」


 〈エルフ〉のプレイヤー、リオナさん。

 金髪をたなびかせひょっこり現れた私に顔を向ける。


「最近ウチには来てくれていなかったわね。最後に来てくれたのってイベント前だったかしら?」

「はい」

「それでどうだった?アイテムの方は役に立ってくれたかしら?」

「はい。おかげさまで五位ですけど、入賞できました」


 私は照れながらそう答えた。

 すると手を合わせて喜んでくれた。


「まあ。それは良かったわ。これでウチのお店もまた繁盛すること間違いなし!」

「ちゃっかりしてますね。で、そちらの方は?」


 私は視線を動かした。

 さっきから気になっていたボブカットの〈ヒューマン〉のプレイヤーだ。

 眠たげな(まなこ)を私へと移動させる。


「この子はシズ。リアルでの私の友達と言うか幼馴染で、ウチの店に武具を下ろしてくれているんです」

「そうだったんですか。こんにちは、私マナって言います」

「シズ。よろしく」


 思っていた以上に単調だ。

 簡略的かつ単調。何かそれっぽい。キャラ付けってやつかな?それっぽい文言を並べてみた。


「ごめんね。シズって昔からこうで」

「昔から!ってことはリアルでもこんな感じなんですか」

「変?」

「そんなことないですよ。何だか知的な感じがしてカッコいいです!」


 私は素直に答えた。

 すると顔を背けるシズさん。何か気に触ること言っちゃったかな私?不安になる私にリオナさんはお店のカウンターから出て来て耳打ちしてくれた。


「大丈夫。照れてるだけだから」

「えっ?」


 エプロン姿で出て来たリオナさんはそう教えてくれた。

 少しホッとする。それにしてもホントに仲良いんだな。と内心思いながら、一つ聞いておきたいことがあった。


「あのシズさん」

「なに?」

「シズさんって武器とか作りますか?」


 私は率直に尋ねた。

 すると少し間を置いてから短く答えた。


「作る」


 分かりやすい。

 はっきりとした単語が耳に届き、私はすかさず尋ねた。


「オーダーメイドとかってできますか?」

「できる。けどやらない」


 今度は返が早い。

 けど伝えられたのは次な一言を否定し折ってしまうような強い文言だった。

 圧力にも似た強い口調だったが、私は全く動じずに聞き返す。


「えっと……なんでですか?」

「私は気に入った物しか作らない。作りたくない」

「職人気質なんですね。じゃあ何でこのお店には下ろしてるんですか?」

「それは……幼馴染、だから……」

「シズ!」


 何でかリオナさんがテンション上がっている。

 如何言うことですかこれ?幼馴染保証的なノリですか!

 グダグダ考えていた私だったが結局何にも出てこなかったので、リオナさんの方に目を向ける。するとリオナさんは教えてくれた。


「シズがウチのお店にだけ武具を下ろしてくれるのはね、私とシズが幼馴染だからだけじゃなくて同じギルドに所属してるメンバーだからなの」

「ギルドですか?」

「ええ。メンバーは私とシズだけの(・・・)生産職系のギルド。その名も『Blue Wave(ブルー・ウェイブ)』よ」

「“だけの”ってとこ強調するんですね」


 何でそこを強調するのか正直わからなかったけど、へぇーギルド作ってたんだ。


「そうなの。シズって昔から頑固で」

「ああ察しました」

「リオナ!」


 なるほど。だから二人だけのギルドなんだ。

 瞬時に納得出来た。いや出来て良いのかな?


「でも生産職系のギルドって何するんですか?」

「そうねー。ウチはシズの打った剣とか槍とかをメインに私のお店で売っているわね。後はギルドを作る前からの知り合いに声をかけて置いてるって感じかしら」

「武器を作るのって材料とかいりませんか?」

「そうね、金属の物価が高まっちゃったら少し困るるかしら。シズってちょっと頑固だから」

「そうなんですか?」

「そんなことない」


 私はチラッとシズさんの方に視線を動かす。

 するとシズさんはプイッとソッポを向いてしまった。改めて確認しても頑固なんだとわかる。と言うか職人気質っていうのかな。


「とにかく私はオーダーメイドはしない」

「シズ、打ってあげたら?この子、ウチをご贔屓にしてくれてる常連さんなのよ」


 リオナさんがそれとなくアシストしてくれるが頑なにシズさんは拒否する。


「私は自分の気に入ったものしか打たない。興味ない」

「もう、頑固なんだから!」

「構わない」


 ちょっとコミュニケーションに問題があるなと傍目から不安になる。けど、自分の意見を曲げないところはちょっと見習わないといけない気がした。


「大丈夫です。それに今回は私のじゃなくて、私のギルドメンバーの武器ですから」

「あらそうだったの?」

「はい。双剣使いなんですけど……」

「双剣!」


 あれ?


「双剣は使ったことがない」

「そ、そうですか(あれ、何だか様子おかしいような……)」


 眠たげな眼がぱっちりしている。

 何か食いついたみたい。


「ん?」

「えっと、なんですか?」


 シズさんは私をジッと見つめる。

 否。私ではなく、私の腰に携えた剣を見ているようだった。


「それはなに?」

「こ、コレですか?コレは〈麒麟の星雫〉って言って、レジェンドレアの剣ですけど」

「レジェンドレア!」


 シズさんの目つきが変わる。

 ふむふむと小言を吐いていた。


「それ、譲って欲しい」

「えっ?嫌ですけど」

「如何しても?」

「如何してもです。メンテナンスだったら良いですけど、いじったり壊されたりすると嫌なので」

「メンテナンスだと良いの?」

「ま、まあ一応は(どうせメンテナンスしなくかも自動でしてくれるからね)」


 私は内心不適に思った。

 しかしその言葉を聞いたシズさんの様子が妙だ。

 ぶつぶつと念仏のように唱えてから、私に言ったこう告げた。


「わかった。打とう」

「えっとー……はい?」


 よく聞き取れなかった。


「少し見せてくれるだけでいい。そうしたら、オーダーメイドだろうがなんだろうが作る」

「えっと、いいんですか?」

「うん。マナのギルドの専属になってもいい。それだけの価値がある」

「そ、そうですか?じゃ、じゃあお願いします」


 何だろ。

 あんなに苦労したのにやけにあっさりだ。

 この子ってそれだけ凄い力が秘めてるのかな?流石はレジェンドレア。伝説は伊達じゃないって事ですか。

 まあこの子ってちょっと不思議で、説明欄には書かれてなかったけど壊れないし、盗まれても自然と手元に戻ってくる不思議な武器なんだよね。

 前にギルドの机の上に置いてたら、いつの間にかインベントリに入ってたし。怖いよ。


「よかったわねマナちゃん」

「はい。釈然としないんですけど」

「まあシズはそうだから。で、シズ。構想は?」

「ある。でも使いたい素材がある。それが手に入らないと作れない」


 またしても壁が出現した。

 職人気質な性格が仇となる。


「じゃあ私達が取って来ます」

「いいの?シズの提案する素材って大変よ?」

「頑張ります!」


 私は威勢よく答えた。

 するとますます乗り気になったシズさんは素材を提案した。


「わかった。じゃあ私が注文するのはドラグラ鉱山に眠るドラグノ石。高い高度が自慢のエピック鉱石だから」

「ドラグノ石?よくわからないですけど、頑張ります」

「ドラグノ石って、シズ貴方また無理言って」

「それぐらいしないと良いものは作れない。良いものを作るには時間と労力。それから技術の品質の良いものが必要不可欠」

「もう!」


 シズさんとリオナさんが口論を始めそうになっていた。

 邪魔者の私は退散することにする。口論に巻き込まれると大変だ。

 それにしても面白い人だったなー。

 私はしばらくの間〈麒麟の星雫〉を預けることにして、お店を出た。


(職人さんって大変だなー)


 武器を失い身軽になった私は空を見上げてそうふけた。

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