■50 武器を新調したい!
物語の進行が早いのは少なくとも三年生編まで続くからです。
あくまでも予定ですけどね。
7月2日木曜日。
私達はギルドホームに集まっています。
イベントも終わりまったりムード。つまりは何にもやることがない状態なのですが、私達はそんなに暇じゃありませんでした。
「ねえ皆んな、そろそろちなっちの武器を新しくしたいんだけどどうかな?」
私はそんな会話の種を投げかけた。
するといち早く反応したのはちなっちではなくスノーだった。スノーはコーヒーを飲みながら何やら本を読んでいる。その傍らで答えた。
「別にいいんじゃないか。ちなっちの機動力と対応力の高さを加味しても相性の良い武器は必要だろう」
ごもっともな回答だ。
確かにちなっちの瞬時に背後に回り込む機動力と絶対に捕まらない囮り戦法には斬れ味の良い武器が必要不可欠。
この間のノーザンレオパルドとの苦い思い出も、ちなっちだったら一瞬で移動して背後を取り斬りつけていたかもと思うと頼りになるし逆にひんやりと恐怖を覚えた。
「どうしましたかマナさん。身震いなどして」
「いやその、ね。ちょっと怖くなっちゃって」
「?」
Katanaは一瞬考え込んでから察したようだ。
スノーもパチリと眉が動いたので同じく理解したのだろう。しかし当の本人であるちなっちは自分が如何に凄いことをやっているのかまるでわかっていないようでキョロキョロと見回していた。珍しい。
「ちなみにちなっちはあれから武器は新しくしたの?」
「ううん。してないけど」
「そっか……じゃあどんなのが良いとかってある?」
「うーん、特にこだわりはないけど。やっぱり双剣がいいなー!使い慣れてるし、扱いやすいし」
ちなっちは目をキラキラさせながらそう言った。
双剣か。私には複雑で難しそうな気がするけど。正直どうなんだろ。
「双剣が扱いやすいんですか。それは凄いですね。感服します」
「そうなの?」
Katanaはそう言った。
「そうなの?」
「はい。私も少しですが剣術の指南を受けたことがあるのですが双剣は扱い難いんです」
「そっか。えっ!?Katanaって剣やってたの!?」
「はい。熱中してはいませんが、我が家系では独自の剣術を一族の間のみで継承しているんです」
「なにその設定!」
Katanaの家の事情はよくわからないけど、如何やら凄いっぽい。そんなKatanaが言うんだ。ホントに難しいんだ。
「じゃあこの前の“辻風”って言うのが?」
「はい。アレは我が一族に伝わる剣術の型の一つですね」
何か凄く大事なことをサラッと言ってる気がするけど大丈夫なのかな?そう言うのって、普通門外不出にするんじゃないのかと心配になる。
「いいの人前で使ったりして?真似されたりしたら……」
「ご心配なく。我が一族に伝わる剣術は早々習得できるような代物ではありません。まあ私とてあまり甲斐甲斐しく修練したわけではないですが」
「じゃあどうやって覚えたの?」
「動きを読み染み込ませたと言う形ですね。一番大事なのはイメージとその型の真価に気がつけるかどうかですが」
「なんだか難しいね」
「ええ」
Katanaの凄みがちょびっとだけ分かった気がする。
要は気合とかどうかではなく、気付きなのだ。つまりそれに気づける実力が既に備わっていることになる。もしかしたら私達よりも歳上だったりして……
「ち、ちなみに幾つ?」
「えっ?」
「あっ、ごめんね。私空気読めてなかったよ。ネットのお約束完全に無視してた」
個人に踏み込んではいけない。
そんな当たり前のことをすっかり忘れていた。
和やかムードのせいも相まって空気感に囚われていた。自分でもなんでこんなこと言っちゃったんだろと言ってから後悔する。気になることを聞いちゃう癖が出ちゃったよ。
「私は歳は15。高校一年生です」
「えっ、同い年!」
「そうでしたか。そんな風な空気はありましたが、やはり」
如何やら同い年らしい。
そっか同級生なんだ。
ってそうなるとウチのギルドって私以外凄いよね!
運動神経抜群のちなっちに何でもそうなくこなす天才なスノー。それからそこに状況把握能力がずば抜けたKatana。あれ?私だけ浮いてない?浮いてますよね。
そんなことを一人気にする私。
しかしそんな静寂を崩したのはちなっちで、私の肩を叩いた。
「よかったじゃん。皆んな同い年で。これで気兼ねなく話せるねー!」
「うん。ってそんなことよりちなっちの武器!」
「そうだ。忘れてなくてよかったぞ」
スノーが本を閉じて話に入る。
「今日の本題はちなっちの壊れた武器をどうするかだ。手っ取り早く適当な店で買い込んでもいいが」
「うーん、手に馴染まないよー」
「そうだな。私達のレベルはそこそこ高い。簡素な武器を使ってもすぐに耐久値を超えて壊してしまいかねないからな」
耐久値。
武器や防具には耐久値と言うパラメータがあるらしく、ある一定の強度を超えると粉々に壊れてしまうらしい。
一応直せる物は生産職系の専門スキルを持っている人に頼めば直してもらえるらしいが、それでも素材とか色々かかるっぽい。
ちなみに私の愛剣〈麒麟の星雫〉は壊れないらしい。壊れても自動的に修復される隠れた性能があるらしくまさにチート武器だった。
「とりあえず街にでも出るか。できれば腕のいい鍛治士と知り合っておくと今後楽になるが」
「どうして?」
私の率直な質問にスノーは答えてくれた。
「脆い武具、安い武具よりも人の手の入ったものの方が断然信頼できる。腕のいい相手なら特にな」
「そうなんだ」
私の軽い返答に対しKatanaは「わかります」と深々と返した。
剣士……いや侍みたいな感じだからだろうか?katanaが言うと重みが違った。
まあとりあえず方針は決まった。
とりあえず全員で街に出て良い武具を作る人と知り合いになる。まずはそこを目的として、私達はとりま街に繰り出すのだった。




