■5 麒麟の星雫
とりあえず後2話ストックを作りました。
スライムについていくことにした私。
後ろから見ていてもポヨポヨと跳ね回っていて可愛い。
金色のスライムが緑色の草原を抜け、気が付くと森の中にまでやって来ていた。
「ここ森だよね。大丈夫かな?」
もしモンスターに襲われたら如何しよう。
そんなことを考えながら歩く。下手な話、途中で退き返さないといけないかもしれない。そうなったら多分二度とこの子には会えないと思う。だったらやけにでも進んでみるしかなかった。
ゲームの中だとアクティブになっている様子の私。
途中倒木があって通れない場所もあったけど、スライムは倒れた木の中が刳り貫かれていてそこを通り、私はという時の上を軽く飛んで横切った。
「何処まで行くんだろ」
スライムの言葉が分からないので結局何処に向かっているのかわからない。
もしかしたら自分よりもっと強いモンスターの下まで私をおびき寄せているんじゃないかと思うとゾッとする。でもそんな様子はなく、やっぱり私を何処かに連れて行こうとしている風にしか見ない。
「あれ、止まった?」
しかしそんなスライムが突然動きを止めた。
それから急いでこちらまで戻ってくる。その様子はすっごく慌てた様子で、攻撃の意志もなく私にくっついた。
「なに、なにがあったの!?」
慌てふためく私。
前を向き直ると、そこには何もない。しかしガサゴソと草の陰から音がする。
ガサガサゴソゴソ……ガサガサゴソゴソーー
どんどん音が強くなる。スライムは依然として怯えた様子で、プルプルと体を揺する。
「絶対ヤバいよね、これ」
私は一歩下がった。
すると草の陰から勢いよく飛び出してきたのは鹿だった。しかし「何だ鹿かー」と落胆できる余裕はなかった。何故ならそこから勢いよく追って飛び出したのは巨大な熊だったからだ。
「グゥマァァァァァァァァァ」
「うわぁぁぁぁぁぁーーー!」
私はその場から逃げ出した。
流石にあんなの勝てっこない。少なくとも今のレベルじゃ負けるのは確定だ。
しかしスライムはこっちじゃないとばかりに前の方を指す。滑り落ちそうになるこの子を何とか抱え直し、私は仕方ないとばかりに木々の間を抜けて先を目指した。
「もう、なんでこんなことになってるの!」
スライムにホイホイ付いて行った自分を責めた。
「はぁはぁはぁはぁ、疲れたー」
何とかあの熊さんから逃げてきた。
膝に手を付いて息をゼェゼェ吐く。こんなに走ることになるとは思わなかった。
スライムは私の手から零れ落ち、何事もなかったかのように先に行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
私は疲労感の残る足を無理矢理動かした。
スライムを追いかけて行くと、スライムは巨大な大樹の前で立ち止まっている。
すり鉢型になっていて、周りには苔が生えていた。
「なんか、凄い……」
それしか言えない。
神秘的な雰囲気がある。周りには背の高い木が何本も生えていて、緑に生い茂っていた。
「ねぇ、ここに何があるの?」
スライムに尋ねると、プルプルと体を震わせてポヨンポヨンと大樹に近づく。
すると大樹の幹には隙間があり、人が一人入れる程度だった。
「この先?」
返事をするかのように二回ポンポンと跳ぶと、スライムは先に行ってしまった。
ここまで来たなら行ってみよう。私はスライムの後を追って、幹に空いた隙間に入ってみることにした。
結構狭い。
腰を曲げて、四つん這いになってやっと進める感じだ。私は先を行くスライムを追い、少し進むとその先には少し広い空間があった。
「よいしょっと。うわぁ、すごーい!」
私は幹の中の隙間に進み、開けた空間に出た。
天井を見上げると、如何やらこの木の中のようで中には草や苔が生えており、水も溜まって池みたいになっている。神秘的で美しい。その上涼しかった。
木の間には幾つも隙間が出来ていて、そこからこの空間に光が注がれている。
「ここに連れてきてくれてありがとね。すっごいいい景色だよ」
私はスライムに感謝を伝えた。
スライムに性別があるのかはわからないけど、多分この子は女の子だ。プルプルと揺れる体を震わし、高く跳ぶと先にあるものを示す。
そこには光が集まっている幹の内部中心で、一本の剣が刺さっていた。
「アレなに?」
私は剣に近づく。
綺麗な剣だ。銀色の刀身。それから金色の柄。何かの生き物かな?彫りが動物の形をしている。しかもその動物の目の部分はこのスライムと同じで、赤色だった。でも少し気になるのはそれが片面だけななところだ。
「で、コレを如何したらいいの?」
私はスライムに尋ねた。
「まさか抜けってことじゃないよね?」
私は軽く冗談のつもりで言ってみた。
するとスライムはポヨヨーンと高く飛び跳ねる。まるで「その通りだよ」って合図をくれているみたいだ。
私はその意図が伝わり、まあ駄目で元々って感じでとりあえず試してみることにした。
剣の柄を両手で掴む。そして後は力一杯引き抜くだけなのだが、これが何故かほんの些細な力加減でスポッと抜けてしまった。
「えーっ!?抜けちゃったよ!」
私はビックリして口をパックリ開ける。
けどまあ手に入ったものは仕方ない。見れば私の所有物になったのか、メニューを開くとアイテム欄にこの剣の情報が書いてあった。
〈麒麟の星雫〉
レア度:レジェンド
説明:伝説の守護獣、麒麟の力が宿っているとされる伝説の武器。
世界にたった一つしか存在しておらず、選ばれた者にしか抜くことが出来ないと言われている。
所有者をあらゆる害悪から護りぬくと言われている。
てな感じだ。
まず言いたいのは世界たった一つしか存在していない超超超レアアイテムをこんな素人の私が手に入れてしまったと言うこと。しかも含みのある説明欄。とりあえずこの動物の彫りが麒麟という生き物のものだと言うことは解った。それからあらゆる害悪から護るって何?と疑問を抱いてしまうが、兎にも角にも如何やら私は凄いことをしてしまったらしい。
しかしこうなったのも全てはこの子のおかげ。
私はスライムにお礼を言おうと思い、振り返るとそこにスライムの姿はなかった。
「あれ?何処行っちゃったんだろ」
スライムの姿はない。
代わりに置いてあったのは宝箱が一つ。
私はスライムが置いて行ってくれたのかなと軽い妄想を働かせながら、一応警戒して箱を開ける。すると中にはブーツが入っていた。色は普通のブーツ。しかし雷みたいなマークのラインが入っている。
「ブーツ?」
私はそれを手にすると、さらにアイテム欄を確認する。
そこにはこのブーツのことが書いてあった。
〈雷光の長靴〉
レア度:レジェンド
説明:雷のような速度で移動出来ると言われている。
雷を帯びた電気を周囲に放ち、空を飛ぶことが出来る。
「すっごい!」
コレは便利な代物だ。
ブーツの表記が長靴なのは気になるけど、とにかく今日だけでレジェンドアイテムが二つも手に入った。これが【幸運】のスキル補正なのか、それとも単なるご都合主義なのかは置いておいて、とにかくこれから楽しそうだと思うのだった。