■47 簪
2話目。
できるだけ1話が短く、サクサク読めるようにしたい。
イベントが終わりまったりムードの中、突然やって来たKatanaが放ったのはギルドへの加入だった。
快く受け入れた私達は改めてKatanaを見つめ直す。
「あの、どうしましたかお二人共?」」
「いやちょっとね。急だったから」
「うんうん。急すぎてびっくりしたよ」
私とちなっちはそんなたわいもない反応を見せる。
その中で一人静かに本を読み耽るのはスノーだ。彼女は何故か話に混ざろうとしない。多分緊張してるんだと思うけど。
「スノーもこっち来てよ!」
「私はいい」
「緊張してるの?知り合いなのに」
「知り合いでも急に馴れ馴れしくなったら嫌だろ」
「そっかなー。まあ確かにそうかもだけど、私は初対面の時でもスノーに対しては普通だったでしょ?」
「うっ!わかった」
スノーは仕方ないと言った雰囲気で私達の隣にやって来た。
こうして間近に揃ったのだが、さてさて何の話をしようか。別に深く聞く必要はないけど、一応聞いておこうかな。
「ねえ、どうして入ってくれたの?」
「あっ、聞いちゃうんだ。勇気あるねーマナは」
「勇気とかじゃないよ。空気読めてないだけ」
「それもどうかと思うがな」
空気読めない発言はあんまりしないようにしてるけど、一応ね一応。
私のそんな質問に丁寧に答えてくれた。
「そうですね。あれから私も一度しっかり考えてみたんです。私は今までは一人で活動してきましたが、皆さんとパーティーを組んで自分の未熟さを知りました。それと同時に楽しいと思ったんです」
「そっか、ならよかった」
「それでこのイベント中に一度他のパーティーと組んでみたのですがなかなか上手くいかず、そこで思ったんです。私は“皆さんと一緒だったから楽しいと思えた”のだと」
「えっ!?」
私は「ほえっ?」の顔になった。
しかしちなっちとスノーは黙って首を縦に振る。何で二人は「わかる!」みたいな反応してるの?まあ私も皆んなと一緒に遊ぶの楽しいけど。
「それでウチのギルドに?」
「はい。こんなにも手に馴染むは感覚はあまりありませんでした。ですので、決めたんです」
「そっか。理由はよくわかんないけど、ギルドに入ってくれて嬉しいよ。じゃあ改めてこれからよろしくね」
「はい」
こうしてKatanaは私達のギルドに加入した。
何だがまたこれから面白くなる予感がするのは私だけだろうか。
「あっそうだ。Katana、せっかくだからコレもらってくれない?」
そう言って私が差し出したのは今回のイベント報酬の〈水差しの簪〉だった。
「コレは?」
「今回のイベント報酬。私達、五位入賞したんだよ!」
「それはおめでとうございます。それで何故こちらを私に?」
そりゃ不思議だろう。
急にイベント報酬のアイテムを差し出されて不気味に思うのも無理はない。だけどそれに対しては笑顔で真っ向から答えれた。
「私達は必要ないし、それに何よりKatanaなら上手く使えるかなって?」
「上手くですか?ですがそれは耐性付与のアイテムですよね」
一応効果は説明してある。
そこに疑問を抱くのも無理はない。
「それもあるけど、何よりもコレはKatanaのおかげで取れたんだよ」
「どう言うことでしょうか?」
「Katanaが砂漠で色々教えてくれたり、手伝ってくれたおかげってこと。だからコレはKatanaだって貰う権利があるんだよ。だからお願い!この簪貰って!」
私は手を合わせた。
するとKatanaは私の手から滑り落ちた簪を受け取ると、身につけた。
簪をヘアピンのように使い邪魔にならないようにする。簪の水差しと蓮華を模した形がよかった。
「どうでしょうか?」
「すっごく似合ってるよ!」
「うんうん。可愛いよー!」
私とちなっちがすぐさま返す。
それを見たスノーも「悪くない」と答えるのだ。
反応を見たKatanaは嬉しそうに頬を赤めらせ、「ありがとうございます。大切に致します」と堅苦しいけど、Katanaっぽい反応でそれはそれでよかった。
「あっ、ねえねえマナ!」
「どうしたのちなっち?」
「久しぶりに街の方に行ってみようぜ!イベント終わりだし、何かあるかもしんないし」
唐突にちなっちはそんなことを言い始めた。
確かにギルドホームでまったりぐったりしてるのもいいけど、せっかくだし街に行ってみるのも有りな気がする。
「確かにちなっちさんの言う通り、イベント直後ですので少し街の雰囲気も違いましたね」
「そうなの?」
Katanaに尋ねる。
「はい。先程こちらに赴く際、街で聞き込みをしていたのですがその際もいつもよりも点灯が華やかで露店も盛り上がっていましたよ。見慣れない屋台もあったのでイベント直後の独特な雰囲気が垣間見えましたね」
「面白そう!」
私は率直にそう思った。
さらに追い風を吹き込むようにスノーが呟く。
「運営が用意したものだろうな。確かに面白そうだ」
「おっ!乗り気だねー」
「少し興味があるだけだ」
ツンツンしている。
そこにちょっかいを出そうとはしないけど肯定するようにちなっちがまとわりついた。と言うわけで私達も街に行ってみようと思う。なんか面白そうだから。
「じゃあ行こっか。皆んな!」
「はいはーい!じゃあ先に行って待ってるね。ほらほらスノーも早く!」
「腕を引っ張るな」
ちなっちはスノーを連れて行ってしまった。
まあちなっちのことだから途中でスノーが帰らないようにとスノーを連行したのだろう。スノーはそんな性格じゃないんだけどね。
そんな様子を眺める私とKatana。そんな中でKatanaがボソッと呟く。
「いいですね。このギルドは」
「そう?」
「はい。とても和みます」
「和んでばっかりだけどね」
「それでいいんです。やっぱりマナさんがいるから……」
「えっ!?」
「いえなんでもありません。ただこのギルドは良いと心から思ったまだです」
「ありがと。でもこれからはKatanaもだよ」
「ふふっ、そうですね。それでは私達も行きましょうか」
「うん」
私はKatanaの背中を追いかけた。
だけど何故だろう。何故かは知らないけど、急に変な空気になった。私が変わったんじゃない。不思議な空気感が唐突に現れ私を飲み込もうとした。
あれ?何でだろ。めちゃくちゃ一人になりたい。
でも皆んなが待ってるし、そうだ!
「Katanaちょっと先に行ってて!忘れ物しちゃって取ったらすぐに行くから!」
子供っぽい言い訳だ。
しかしKatanaは何事もなかったかのような冷静な対応で「はい」と頷き返す。
そのおかげもあり私は浸りになれた。
そんな自分でも意味のわからない行動に呆気に取られながら、私は一人になったのだった。




