■43 雪山に行こう!
夏の今に雪山のワード。
6月28日。イベント最終日だ。
昨日はギルドメンバー全員が何故か同時にノックアウトを食らってしまったので、イベントには参加出来なかった。その遅れを取り戻すためにも、砂漠エリアと双璧を担うとされるエリアに行くことになりました。そう、これはスノーが提案してくれたアイデアをそのまま言っているだけです!つまりは状況整理なのです。
「と言うわけで来たには来たんだけど……寒っ!」
私は肩を震わせていた。
一応コートはいつもの通り黒を表にしているので吸熱効果のおかげで少しは暖かい。けど、完全に寒さを克服したわけではなくこのエリアは寒い。寒すぎる。
「流石は〈ツンドゥーラ〉だな」
「まあ雪山だからね、そりゃ寒いよねー」
二人共口々にそう言った。
「〈ツンドゥーラ〉?」
「ああここは〈ツンドゥーラ〉。いわゆる雪山だな」
ちなみに今知った。
ここは〈ツンドゥーラ〉と呼ばれる雪山で、年中通してこんな感じらしい。故にしっかりとした防寒対策は必要らしく、私は装備の都合上変えてはいないが、ちなっちもスノーも必要最低限の防寒装備を整えていた。ずるい。
「はぁー」
吐く息が白くなる。
髪も若干ぱさついていて凍ってしまいそうだった。完全に凍ることはないにせよ、そう思わせてしまうぐらいにはこのエリアは現実の冬を匂わせる程寒いのだ。
「今日、最終日だけどどうする?」
「エッグは今のところ集まってるねー」
「そうだな。何か目星をつけてくれば良かったが、あいにくとこのエリアに来るのは私も初めてだからな。残念だが、情報はあまり仕入れていない」
「そっか。まあこんな寒い場所、誰も来たくないよね」
“旨みがない”とかではない。
単純に寒いのだ。
VRゲームは五感を特に伝えるらしいが、このゲームはかなり違う。五感だけではなくて触れたものや感触や暑さ寒さ、痛みなども感じられる。脳波に直接伝えるシステムになっていて、害を及ぼさない程度にはリアリティを追求しているらしいのだ。
まあそんなことほとんどのプレイヤーが知ってるんだろうけど。
「じゃあさ私が一つ提案していい?」
「なに、ちなっち?」
ちなっちが前触れなく提案する。
そう言えばちなっちから意見を言うのなんて珍しい気がする。いつもは同調してくれる味方になってくれたら一気に引っ張ってしまう存在だ。
「あのさ、私の武器この間戦闘でこんなになっちゃってさ」
「こんな?って、うわっ酷いね、コレ」
ちなっちが見せてくれたのはちなっちが愛用している剣だった。
何とか剣の体裁は整ってはいるけれどそれでもギリギリな程に刃こぼれが起き、腱は薄くなる。これじゃあまともに使えやしない。
「ってことでなんだけど、あんまり戦闘は避ける方向で」
「う、うん。流石にこれは酷いもんね」
「だが何故武器を調達しなかった」
「うーん、時間がなかったからかなー」
「それを言い訳にするのか」
「いや常套句でしょ」
スノーとちなっちはそんなやりとりをしていた。
二人共滑らかに会話をしているが別にどちらとも悪いわけではなかった。
「うーん、じゃあこうしよ。モンスターが出てきたら私とスノーでどうにかする。ちなっちは……」
「囮でもなんでもどんと来い!」
「胸張って言わなくてもいいんどけだ」
ドンと自分の胸を叩くちなっち。
ホントにドンと来いじゃん。
そんなしょうもないダジャレは置いとくとして、私はスノーにこれからのことを煽った。
「それでスノーこれからどうするの?」
「どうもしない。ここでは最後にブーストをかけるだけだ」
「ブーストをかけるって?」
「要はモンスターをガンガン狩りまくって、エッグを集めるってことじゃね?」
「ああなるほど」
私はポンと掌を叩いた。
でもそれじゃあますますちなっちの立場が危ういけど、いいのにそれで?
「よーし、じゃあじゃあ早速出発ってことで!」
(あとちなっちのテンション今日おかしくない?。って言うか、今までは喋ってなかった方が正しいのかな?)
ダッダッダッーー
雪の降り積もった斜面を駆ける音がする。
人のものではない。軽快なステップで駆け降りるそれはモンスターだった。
「そっち行ったよ!」
私は叫んだ。
するとちなっちが反応し、私とバトンタッチする。
「オッケー!」
ちなっちは駆けて来たトナカイ型のモンスターの前に飛び出した。
急な出来事にビックリしたのか方向転換して逃げ出そうとするモンスターだが、それを瞬時に察知したちなっちは【加速】で再び前に躍り出て、モンスターの進路を妨害した。
そのせいもあって行きたい方向に逃げられたいモンスターだったが、何もない方向を見つけるとそちらに駆け出していた。
「OK、OK。スノー行ったよ!」
「見えている」
トナカイ型のモンスター、ベリーレインディアは雪の中から突然姿を現したスノーにビックリしたのか少し歩幅が短くなる。
しかしそれを見越していたのか、スノーは愛用の弓を使ってトナカイの脳天を貫いた。
HPがごっそり削れる。
このゲーム、頭や胸など一定以上の負荷ダメージを与えられれば即死判定になるのだ。まあ狙って出来る芸当ではないにしろ、スノーはやってのけてしまうので私なんかじゃ足元にも及ばない程、実力差があった。やっぱりゲーム上手いや!
「ふぅ。こんなものか」
「凄いよスノー!今のどうやったの?」
私は尋ねた。
「山の斜面の溝を利用して姿を隠して狙い撃っただけだ。二人が上手く誘導してくれたおかげだ」
「えへへ、ありがと」
「私も武器さえ整えてればなー」
「そんなことない。ちなっちのスピードあってこそだ」
「ありがとー」
何だか上手い具合に機能していた。
やっぱりちなっちが自由奔放にフィールドを駆け抜けて相手の注意を引きつけてくれたら、かなり楽に立ち回れる。
ちなっち自信、囮を進んでやってくれるからだけどそれでいいのかなーってちょっと思う。
そんなちなっちに助けられる形だけで、今のところはこれで十分やっていけそうだった。




