■41 VS石像
今日はもう1話投稿予定です。
「ホントに動き出しちゃったよ!」
私の目先にはさっきまで大人しくしていたはずの石像が動き出していた。
全長は3メートルぐらい。普通に大きくてビックリする。それにしてもあの赤い石が何で砂の中に落ちてたんだろ。
「起動のための装置が近くに無造作で置かれていることはよくあることだ」
「そうなの?」
「“逆に”ってことじゃない。パターンとしてありえるでしょ!」
ちなっちまでそんなこと言う。
パターンとか言われても知らないよそんなの。けどもう皆んな私の指示で戦う準備万端って感じだ。後は機をうかがって、奇襲を仕掛けるって感じかな?知らないけど。
「スノー、どうするの?」
「いつも通りだ。この手の相手は耐久面に優れている節がある。故に動きが鈍いのが特徴だ」
「そうなの?」
「そうだ。来るぞ!」
スノーの掛け声と共に石像の腕が振り下ろされた。
しかしスノーの言った通りで確かに動きが鈍かった。これなら躱せる。そう確信すると同時にスノーの言った通りだとしたら多分ーー
「せーのっ!」
真っ先に仕掛けたのはちなっちだった。
【加速】で石像の背後を取りそのまま双剣で斬りつける。しかし最初にサンドスコーピオンと戦った時みたいに簡単に弾かれてしまった。
全く刃が通らず、弾かれた後が無防備となってそこに石像の腕が伸びる。
「ヤバっ!」
何とか体を捩って【受け身】のスキルと併せて持ち前の運動能力が功を奏し擦り傷程度で済んだ。
けどこれじゃあスノーの言った通りだよ。
「ホントだ。避けられるけど、これじゃあいつまで経っても倒せないよ!」
「それがゴーレム系の特徴だ」
そっかこの石像はゴーレムって言うんだ。って言うか書いてあるじゃん。
如何やらこのゴーレムって言うのは何種類もタイプがあるらしく、どれも共通して耐久面が高い。だけどスノーはこうも言う。
「この手の相手は序盤に出てくることが多い。それをこのゲームにも流用され、かつ性質が同じならばこの程度の相手で苦戦することはほぼない」
「そうなの?」
「レベル差が多少あっても戦略でどうにかなる。少し待て」
スノーは考え込んだ。
そう言えば今までこんなにスノーが考え込む瞬間を私は見たことがない。何度かパターンだとか知識とかで軽くアドバイスはくれたけど、こんなに真剣に黙り込むことなんてなかった気がする。
もしかしからスノーって今まで本気じゃなかった?じゃあ今のスノーって……軽く脳裏によぎるのはそんな感じのことだった。けど私にはよくわかんない。ただスノーがかなりわくわくしているのが伝わってくるだけだった。
(さてと、少し面白くなってきたな)
私は内心そう呟く。
今わかっている情報を整理しようか。
まず一つ、相手はゴーレム。大抵のRPGでは序盤に配置されその耐久面とグラフィックの使いやすさから色違い、つまりはリカラーで重宝される。ただし鈍重という点も目立つ要素で、そこを利用して地形が反映されるゲームではもっぱら周辺の地形を狡猾に利用した戦い方も想定されている。となると砂漠のフィールドを使えってメッセージだろうか?
二つ目に武器だ。ゴーレムは石。すなわち打撃系統の武器の攻撃の方が有効だ。しかしあいにくとこの場にいる全員の武器は斬撃系統。有効なダメージソースにはなり得ない。となると、ゴーレム自体にダメージを与えて貰うのが手っ取り早いだろう。
三つ目は方法だ。さぁこっちの切れるカードは何だ。捻らなくてもいいな。ちなっちは高い敏捷性。Katanaの技巧、さらには私の対応策だ。それらを足して足りないものをマナは持っている。だがそれらは今はあまり意味がない。こちらから切れる有効カードがないのは確かだ。つまり何かをこの一瞬で見つけるしかないか、さて如何するか。
「うわっ!」
急にマナの声が上がった。
マナはゴーレムの攻撃を避ける最中、足がもつれてさっきのオアシス跡に引っ掛けたらしい。
〈雷光の長靴〉の効果で瞬時に抜け出したが、クールタイムを考えると流石に難しそうだ。
だがそこで一つ閃いた。マナのお手柄か偶然かはこの際置いておくとして、私の目が捉えたのはマナの足が単に砂の中に飲まれたのではなく砂自体が飲み込む性質を持っていたからだ。つまりあのオアシス跡は……整った。
「ちなっち、ゴーレムをオアシス跡まで誘導!」
「えっ!?わ、わかったよー!
ちなっちは即座に対応してゴーレムの前まで【加速】を使って移動した。急に現れたちなっちの動きに対応しきれず伸ばした腕を逆に利用されて蹴りを入れた。
そのまま何度か軽くジャブみたいな攻撃を浴びせ続け敵対心を煽ると、ゴーレムはすんなり標的をちなっち一人に切り替えた。
(ここまでは予想通り)
「Katana。一瞬でいい。奴の体制を崩せるか!」
「崩しですか?はい、可能です」
「その言葉を信じるぞ。マナは私と一緒にKatanaを援護しつつオアシスにゴーレムが踏み込んだら一気に足元を崩せ!」
「「うん!(はい)」」
マナとKatanaは頷いた。
さてと、ここからはシステムだとかではない。勝算は十二分にある。ここからやるべきことは、それぞれの動き次第で変わる。人の動きは正確じゃない。その動きを瞬時に見切り、二手三手と切り替え続けることが大事だ。そのためには誰かが統率者となり目を引き受ける必要がある。だが、そうすれば戦力が減る。しかし自慢ではないが、私はそんな下手な真似はしない。
私の構える弓は一点を狙い続け、それと同時に周囲の状況を的確に捉えていた。だからこそあらゆる動きに対応出来るのだ。
(もう少しだ。頑張ってくれ)
ゴーレムの腕を的確に狙い撃つ。
関節部になっている石片に矢を当てると、若干だがHPが削れた。やっぱり今のままでは普通に倒すのは手厳しい。だがーー
「これで、よしっと!」
ちなっちがオアシスに辿り着いた瞬間、ちなっち自信何かを察知したのか瞬時に【加速】を発動させその場から離脱した。
標的を見失ったゴーレムは不思議そうに周囲を見回す。だがその好機を逃しはしなかった。
「今だやれKatana」
私はそう指示した。
途端、背後から音もなく近づいていたKatanaがスッと現れる。【潜伏】のスキルで姿を消し、【忍び足】で更に音も消したのだ。
そんな死角から放たれるのは見事な剣技だった。
「……陸ノ型辻風」
小言で何か呟いていた。
そうして繰り出された技は魔法とは違う。
一瞬にしてゴーレムの足に亀裂が入り、そのまま砕けてしまった。まるで急所に叩き込んだのがそれこそレーザーの刃みたいにすんなりとだ。
耐久値を完全に無視した一撃。
それは紛れもなく技だ。おそらく何かしらの技を【体現】のスキルと【昇華】のスキルでゲーム内に取り込んだのは想像がつくが、何なのかはわからない。不思議な奴だ。
「うわっ!」
「危ない!」
ゴーレムがオアシス跡に崩れ落ちる。
その衝撃で巻き上げられた砂がKatanaを襲ったが、瞬時に判断したマナによって間一髪のところを掬い取られた。
「助かりましたマナさん」
「いいよ。それよりさっきの凄かったね」
マナは聞こえていたのだろう。
しかし今はそんな無粋なことは言わない。とりあえず勝利の余韻に浸らせてもらいたい。と、ちなっちは思っているだろう。
ほっと一息ついた私達。
目の前でバラバラに崩れ落ちたゴーレムのHPは底をついていた。そんな光景を後にした全員には確かな疲労が残っていた。




