■37 Katana
8月ですねー
暑いですねー
夏バテの季節真っ盛りですねー
ちなみにワクチンも最近打ちましたねー
そんな感じですねー
「ちなっち、今だよ!」
「オッケー!せやっ!」
ちなっちがサンドスコーピオンの脚関節に鋭い一撃を入れた。
サンドスコーピオンは体勢を崩し、砂の地面に転がる。
そこを狙って今度は私の剣が垣間見えた。サンドスコーピオンの硬い頭を剣の腹で直接叩くことで斬撃は入らないけど、ダメージを着実に与えることが出来る。
さらにそこにスノーが援護射撃をお見舞いする。
「行け」
同時に三本矢を放った。
それらは全て命中し、微かにだがHPを削る。防御力の低いスノー目掛けて飛んでくるサンドスコーピオンの尻尾攻撃は飛んでくる前にちなっちがカバーに入り、払い落とした。
「させるか!」
サンドスコーピオンの尻尾が落ちる。
そのおかげでかなり動きが鈍る。そこに私の〈麒麟の星雫〉の斬撃が剥き出しのサンドスコーピオンの肉に食らい付き、さらにはスノーの大鎌が残った脚を根こそぎ払い落とす。
完全に機動力を失ったサンドスコーピオンはなすすべなく大きな鋏を宙に転がし、ふわふわさせていた。
可哀想だけど、今の私達にとってこれが最善。と言うか、これしかなかった。
「今だよちなっち!」
「オッケー!《フレイム・オブ・エンチャント》!」
燃え盛る炎がちなっちの双剣に灯る。
エンターテインメント顔負けの妙義が繰り広げられる。
炎が砂漠の熱を吸ってどんどん燃え広がる。纏った〈火の粉のローブ〉が爛々と瞬いて赤々と鮮やかな色味を出す。防御力が格段に上がり、もはや敵なしだった。
「行くぞー、せのーっ!」
ちなっちは飛び掛かる。
【加速】を発動させ私の目にはもう追えなかった。それぐらい速いので、当然サンドスコーピオンも気づかない。
頭から突撃し気付けば真っ二つにしていた。
「よし、勝った!イェーイ!」
ピースサインを私達に向ける。
私とスノーも互いに顔を見合わせ私はニカッと笑顔を見せ、スノーは済ました顔をした。なんとかなった。このままやっていけば時間は掛かるけど、確実に勝てる。
私はそう確信した。おそらくそれはスノーも同じで、少しだけど活路が見えて来たのだった。
「ねぇねえ今ので星幾つ手に入った?」
「えっとねー。うわっ、凄いよ!今ので星が五個も貯まった」
「よーし。じゃあこの調子でガンガン狩るぞー!」
「その前にコレを飲め」
そう言ってスノーが投げ渡したのはMP回復用のポーションだった。
ちなっちの魔法は付与型とか言うらしくMPの消費はあんまり多くないけど、それでも回復出来る時はしておいた方がいいとのことだ。
いつ回復不能な戦闘に巻き込まれるとも限らないからだった。
「ゴクゴクゴクゴク、プハッー!」
「親父か」
スノーがツッコミを入れた。
最後まで飲み干したちなっち。みるみるうちにMPが回復する。
「ちなっちも回復した。さっさと行くぞ」
「あっ待ってよスノー!」
やって、待って待って!」
スノーはせかせかと私達に指示を出しそのまま歩いて行ってしまう。
今は少しでも時間が惜しい。だけど慎重に行動するのも重要。その両立を図るための行為だった。
そんな感じで私達は流れを掴み始めていた。
「せーのっ!」
ちなっちが飛びかかった。
またしても現れたサンドスコーピオン。しかもさっきよりもちょっと大きかった。
その巨体を翻し襲っては来たが、的確に避けてを繰り返しヒットアンドアウェイ?をもっとうに攻撃を加え、あっという間に倒してしまった。気持ちさっきよりも調子が良い。
「よしっ、バッチリだね!」
「だね!」
ピースをするちなっち。私はピースで返事する。
スノーは相変わらずエッグの確認をしている。
ここまでかなり調子がいい。
流砂の姿もないのも良かった。
そんな喜んだパーティーの雰囲気の中、私の視界が何かを捉えた。
「あれ?」
「どしたのマナ?」
私は急に動こを止めて視界の先を凝視する。
何かいるような。いやモンスターではない。何か……じゃない。誰か倒れてる!
「はっ!」
「えっ、ちょっとどうしたのさマナ!」
私は〈雷光の長靴〉で雷の如きスピードで走り、ちなっちは私の動揺した様子に驚いて【加速】を使ってついて来た。
てことはスノーを置き去りにして来たことになるんだけど、そんなことは今は如何でもいい。如何でも良くはないけど、如何でもいい。
「だ、大丈夫ですか!」
「おいマナ何があって。って、人が倒れてる!」
「うん。大丈夫ですか?」
そこにいたのは女の子だった。
NPCではない。私達と同じでプレイヤーだった。
腰には刀を携え、着物ってわけじゃないけど和装だった。
草鞋を履き、頭からは竜の角を生やす。水みたいに青く澄んだ髪色。〈ドラゴニュート〉の女の子だ。
「見た感じ悪そうには見えないけど……」
「なにがあったんだろ」
とりあえず仰向けにする。
すると彼女の口が微かに動いた。何か言っている?私は耳を口元に近づけた。
「み、水を一杯……」
「お水?ちなっち」
「オッケー」
ちなっちに水筒を手渡してもらう。
「ありがと」
私は水筒の蓋を開け彼女の口に注いだ。
するとゆっくりと飲んでいき少し顔色が良くなった気がする。脱水症状だったのかも。
とりあえずこれで一安心。
私とちなっちは互いの顔を見合わせ、彼女が目覚めるのを待つことにした。
「それで、私を置いていったというわけか」
「ご、ごめんね」
私はスノーにことの事情を説明した。
置いていかれたことに不満なのか、それとも頼られなかったことに不服なのかは定かではないがちょっと気持ちがてんやわんやな様子だ。
だけどスノーは大きく息を吐き、全て受け入れた。
受け入れたというか納得したと言うのが適切だろう。
「わかった、もういい。それで肝心の当人は」
「見ての通り」
私は左をチラッと見た。
そこには先程助けた少女が横になっている。
見た感じでと私達とそんなに差異はなさそうだけど、実際はわかんない。けど、回復に向けて進行中だ。
「刀か。また珍し武器だな」
「日本刀だよね。凄い、こんなのまであるんだ」
感心した。と言うか意外だった。
スノー曰くこの世界にはいろんな武器があるみたい。
鎖鎌とかトンファーとか三節棍とか天秤刀とかマイナーなものから聞いたことのないものまでいっぱいある。
「まあ基本は剣や槍が主流だかな」
「スノーの武器も変だもんね」
「大鎌は変ではないぞ」
「いやいや、私スノー以外で使ってる人見たことないよ。でもそれがスノーらしいって言うのかな?」
「うるさい」
照れているのだろうか?
顔を背けてしまう。
私はそんな愛らしい彼女の様子に滑らかに微笑んだ。そんな笑い声が聞こえたのか、眠っていたはずの〈ドラゴニュート〉の少女が身震いした。
「ううっ」
「あれ?」
ゆっくりと目を開ける。
青く澄んだ綺麗な瞳が空を見上げた。
「ここは……」
「気がついたんだね。大丈夫ですか?」
「貴女方は……」
彼女は朧げに答えた。無理もない寝起きだ。
視界がまだ鮮明じゃないんだと思う。
「私はマナ。こっちはスノーで、あっちで見張りをしてるのがちなっちだよ。貴女は?」
「私はKatanaと申します。そうですか、私は気絶していたんですね。助けていただきありがとうございます。おかげで助かりました」
「いいよ。それにKatanaさんって一人なの?」
「Katanaで結構ですよマナさん。はい。私は一人です。皆さんはパーティーですか?」
「マナでいいよ。それから私達はパーティーじゃなくてギルド。新生ギルドの『星の集い』だよ」
私は笑顔で答えた。
するとKatanaは微かに微笑んでから呟く。
「『星の集い』ですか。いい名前ですね」
見せた笑顔はまた素敵で大和撫子って言った感じだった。
よく知らないけど。




