■36 南千夏と言う人間性
遅くなりました。
砂漠も途中ぐらいまでやって来た。
ここまでで出て来たモンスターは蠍だったりサボテンだったりで砂漠感が強調されていた。
だけどどれも戦いにくい相手で、スノー曰く“旨みがない”とのことだった。
如何言うことだろ?
「はぁはぁはぁはぁ。なんでだろ。全然体力が減ってないよ」
「硬い。マナ、私のでも全然減らない」
「えー!」
ちなっちの連撃でもまるで歯が立たない。
それぐらい硬いんだこの蠍。
体を覆う殻がめちゃくちゃに硬くてこっちの金属刃を逆に返り討ちにしてくる。
そっかスノーの言ってた“旨み”の意味がようやくわかった。
「これじゃあキリがないよ」
相手の防御力が尋常じゃなく高いせいでこっちの攻撃はまるで通じない。
おまけに蠍のモンスターだけあって、鋭い鋏を持っている。そのせいも相まってこっちからは無闇に近づけなかった。近づけばあの凶悪そうな見た目の鋏が飛んでくる。あんなの食らったらひとたまりもない。
私はスノーとちなっちの表情を窺う。スノーは相変わらず済んだ姿勢をとっているけど、ちなっちは苦い顔をしている。
ここまでずーっとちなっち一人にアタッカーを任せていたせいか、本来の持ち味を発揮していない。
ちなっちは本当はーー
「ちなっち、下がっていいよ。疲れてるでしょ?」
「でも!」
「スノーどうしよう。これじゃ勝てないよ。逃げる?」
「それも視野だな。ここで無駄足を食らう必要もない」
「じゃ逃げよ」
「えーーーーー」
ちなっちは不満そうだった。
けどこのままやっても意味がないと悟ったのか、ちなっちも渋々従う。
結構走ってきた。
気づけば砂漠も半分くらいじゃないかな?地図とかなしよくわかんないけど。
それにしてもホントにしんどい。今までとは比べ物にならないぐらいハードだし、エッグは集まんない。幸いにも競合になりそうな相手が近くには見る限りいないことと手に入るエッグの星の数がほかのエリアよりも多いことぐらいだろうか。それでもやっぱりスノーの言う通りで“旨みがない”にもほどがあった。
それに暑さで精神的にしんどくもある。
ちなっちの異常な体力でも流石に限度がある。ちなっちの戦い方とは本来向かないエリアなのでその攻撃力にも期待はできなかった。そもそもちなっちの種族〈エルフ〉ってあんまりSTR高くないもんね。
(やっぱり、ちなっちを活かすにはもう一人前衛で戦える人がいないと。それに正面からあたっても頑張れる人……でも心当たりもないし。どうしよう……)
私は一人悩んでいた。
楽しんで遊ぶのも大事だけどお互いの負担を減らせるようにしないと疲れちゃうもんね。
そんなことを考える私に、スノーが話しかけてきた。
それもちなっちには聞こえないようにひっそりと。
「マナ、少しいいか」
「うん。なにスノー?」
ちょっと重苦しい口調だった。
なにかあったのだろうか?
「ちなっちのことだ。どうして退かせた」
「えっ?」
「確かにちなっちの動きはいつもに比べればよくはなかった。だがそれはこの環境と地形が言うものだ。ちなっち自身の動きに特別な差異はないように見えるぞ」
スノーの的確な意見。
確かにそれも一理ある。というか、私がここまで考えてきたこととちょっとい被るようだけどかなりちなっちの背中を押している。
私もちなっちの動き自体には明確な問題点は見つからなかった。というか分からなかった。けれど一つだけスノーは見誤っていることがある。それはちなっちのいや南千夏という人間としてのスタンスだ。
「それは私にわかるよ。だって中学の時からの親友だもん」
「ならなぜだ」
「千夏ちゃんてさ、昔から運動と数学が大の得意だったんだ」
「運動はわかるが、数学は意外だな」
「うん。私もそう思うよ。何でだろうねー」
軽く笑ってみせた。
「それでね千夏ちゃんって昔から“一度決めたら絶対にめげない”って言う心情でさ、そのせいで振り回されることもあったけどどっちかって言うとそれは一人の時なんだよね」
「一人の時?」
「うん。千夏ちゃん友達と一緒にいる時はそっちを優先するんだよ。皆んなに同調して自分の意見も多少は言ってくれるけど、結局皆んなの意見に従っちゃう。それはスノーも見てたからわかるよね?」
「ああ、なんとなくな」
スノーも確実に見たことがあるはずだ。
ちなっちの時の千夏ちゃんはリアルの千夏ちゃんと同じで私やスノーの意見や言葉に賛同してくれる。
基本的に不満そうな態度は取るけど、否定は一切しない。それが彼女の南千夏と言う人間の持つ隠されたスタンス。“同調”だ。
私が口では結構子供っぽいことを言ってるのに、内心では色々考えているみたいに、千夏ちゃんも外側には見せない一面がある。誰だってそうだ。キャラじゃないとかなのかな?私は、単純に言わないだけだけど。
「特にね如実?って言うのかな。チームスポーツをやる時なんかそうなんだよね」
「どういうことだ」
「千夏ちゃんって運動神経いいでしょ。だからワンマンプレイになりやすいんだよ」
「なるほどだな。で、なにをするんだ」
「千夏ちゃんはね。わざとワンマンプレイに走るんだよ。皆んなのために」
「皆んなのため?……そう言うことか」
「うん」
スノーはその一言だけで察したらしい。
千夏ちゃんは昔からチームスポーツをする時は最初にワンマンプレイに走る。けど、それは皆んな承知の上だし本人もわざとやっていることだ。
計算したプレイ。
千夏ちゃんはわざと自分に注目が集まるような立ち回りをして相手の注意を自分に引きつける。そうすることで、相手に自分の強さを思い知らせることで自分にばかり気を取られているところで、皆んなが活躍する。
つまり千夏ちゃんはわざと自分に注目が集まるように動いて、他の皆んなが自由に動けるように事を運ばせるのが得意なと言うかそんな性格の持ち主だった。
やっぱり優しい。それに頼りになる。けどそれは“囮り”でしかないのは周知の事実だった。
「そうか。だがそれはあくまでもチームプレイにおけるものだろう。それで本当にちなっちは満足しているのか?」
「それはわかんないよ。けど、これ以上戦ってもらってもちなっちがしんどくなっちゃうだけだから」
「だが……」
「私もね。ちなっちには千夏ちゃんにはもっと伸び伸びして欲しいんだ」
「本当のことを言えばいい。真実を伝えれば詰む話だろ」
「そうかな?千夏ちゃんの性格だと、逆にそれで気負いしちゃうんじゃないかな?無理して体を壊しちゃう気がするよ」
「一理ある。難しいな」
「うん。ホントにね」
私とスノーはそんな会話を続けた。
そんな中、見張りをしていたちなっちが私達に声をかける。
「おーい!そろそろ行こうよ!」
「あっ、ちなっち!」
私はちなっちに近づいた。
するとちなっちは不思議そうな顔をした。
「どうしたの?てかなんの話してたのー?」
「なんでもないよ。それよりもさちなっち」
「ん?」
「無理しないでね。ちなっちはちなっちらしく自由にやって欲しいから」
「はい?なんの話。急に最終回っぽいフラグなんて立ててさ」
「最終回じゃないけど、なんとなくだよ。それより行こ」
私はちなっちの手を掴んだ。
ちなっちはやっぱり不思議そうで、気持ち半分。スノーはそんな彼女の隣を素通りし、そんなスノーをちなっちは呼び止めた。
「なあスノー。マナ、なんか変じゃない?」
「鈍感だな」
「ほへっ?」
結局スノーも本当のことは言わなかった。
それがベストだと判断したからだ。
しかしちなっちはそれに対してやっぱり不思議に首を傾げるだけだった。




