■32 イベントに参加するよ
最近暑いですね。
もう夏バテ気味で毎日眠たいです。
とうとうこの日がやって来た。
6月24日水曜日。
“遅れてやって来たイースター祭”とか言うちょっと遅れすぎな〈WOL〉のイベント日、初日だ。
私とちなっちはほとんど同じ時間にログインした。
するとギルドホームにはスノーの姿がある。
「スノー、こんばんは」
「ばんはー」
「ああ」
如何やらスノーも今来たみたいだ。
私達はギルドホームを手に入れたので、ここに真っ先に設置したのはベッドだ。
そのおかげでここがリスポーン固定されたらしい。
おかげでログインすると、フカフカのベッドの上で目覚める仕様だ。
「さて全員揃ったな」
「うん。じゃあこれからイベントに行くんでしょ?」
「そうだ」
「じゃあ早く行こうよ!皆んな待ってるでしょ!」
「待ってる?何を言っているんだ」
「ふぇ?」
私は首を傾げた。
スノーはそんな私に教えてくれた。
「いいか。イベントは現実時間の今日の正午から既に開始されている。つまり開会式などないんだ」
「えっ、そうなの!」
「今回のイベントはそうだ」
スノーは何も知らない私に教えてくれた。
私はてっきり陸上の大会みたいに開会式があって、他の人と鉢合わせするものかと思っていた。
しかし実際は違うようでちょっと残念だった。
「とにかくだ。これからすぐにでも出発する。準備はできているな」
「私はもちろんオッケーだよ!」
「私も!」
私とちなっちは同意した。
するとスノーはコクリと首を縦に振る。
ここ数日で回復ポーションとか色々集めていたのだ。
そのおかげでインベントリは過去一番に充実している。
「なら早く行くぞ。こうしている間にも他の奴等にエッグを奪われているはずだ」
「だよね。せっかくやるなら勝ちたいもんね」
「賞品も気になるしね」
私達はギルドホームを出た。
これから向かうのは何処か。
それはスノーに任せていた。
と言うわけでやって来ました。
今私達がいるのはいつも来る狩場とは違う森。
名前は〈フィリオ森林〉。
鬱蒼とした深い森が続く、広大な森林だ。
そんな森の入り口にはたくさんの人の姿がある。
皆んなせっせと何かを探しているようだった。
「すっごーい。まさかこんなにたくさん人がいるなんてね!」
「普通のことだ。むしろ私達は遅すぎた」
「そうだねー。これじゃあこの辺りの卵は全部他の人に取られちゃってるだろうねー」
二人はそう答える。
ここにいるほとんどの人はイベントのためにやって来たと言っても過言ではない。
と言うか、むしろそのためにしか来ていないはずだ。
「どうするの?もうちょっと奥の方行ってみる?」
「その方が良さそうだな」
「じゃあ早く行こうよ。他の人に先越されちゃうよ?」
「だな」
「じゃあ皆んなで行こ!」
「あはは。競争じゃ【加速】待ちの私には敵わないもんねー!」
「地の利を活かせば覆すことも可能だがな」
「じゃあ勝負する?」
「いや、勝てるとは言っていない。止めておく」
「なーんだ、つまんないのー」
「あはっ。そんなことよりさ、早く行こうよ!」
「ああ」
二人のそんな談笑のやり取りを眺めた私は話に夢中の二人を引き連れて森の奥を目指した。
この森は来たことがないので、どんな地形なのかはわからない。
とりあえず周りを警戒しながら軽く探索を開始した。
「なんだか暗いね」
「うん。それに木もかなり高い」
ちなっちは周りの木を触ってみて答える。
確かに木も高いし、葉もそこそこ大きいので光がなかなか入らない。
そんな地形の構造になっていた。
「そっちはどうスノー?」
「少し湿っているな。密林をモチーフにしているのか」
「森林なのに?」
「ああ」
スノーは相変わらずだ。
「にしてもさ、卵全然なくない」
「うん。こっちにはないのかな?」
「いや、おそらくなんらかの手段をとれば手に入れることができるはずだ」
「なんらかって?」
「さあな」
「さあって!」
スノーも色々考えているようだ。
ここまで準備はしてきたけど、どうしたらいいんだろ。
実際に来てみたらわからないことだらけだ。
ザザッ!!
急に草むらが揺れた。
私はチラッと視線動かす。
【気配察知】のスキルが光った。
このスキルはこの前のバブルシープの毛刈りの後、手に入れたものだ。
私の動きに皆んな気がつき武器を取る。
「なんだろ」
私は様子を伺う。
するとそこに現れたのは一匹のリスだった。
「可愛い!」
モッフモフの毛並み。
普通のリスではなく、エゾリスに姿は似ていた。
尻尾が独特で耳も長い。
図鑑で見たそれに似ている。
「あれ?」
「どうしたのマナ」
「あの子、何か持ってるよ」
私はリスに向かって指を指した。
そこにいるリスの手には自分の身の丈よりもほんの少し小さい程度の大きさの“卵”を持っていたのだ。
しかもその色合いは自然界には存在しないような鮮やかな水色で、真ん中には星マークが一つある。
多分と言うか絶対アレだ。
「なるほどな。イースターエッグは落ちている場合よりも、モンスターが所持している場合の方が多いのかもしれないな」
「じゃあさっさと倒してゲットしちゃおうぜ!」
スノーとちなっちがそんな話をしていた。
しかし私はそんな会話には一切入らず、リスに近づいていた。
「マナ?」
ちなっちが声をかける。
私はリスに近づいてしゃがみ込むと、何故か話しかけていた。
「ねえリスさん。それちょうだい」
私は笑顔で話しかけていた。
その様子を後ろから見ていた二人は唖然としたようで、私の奇想天外な行動に理解が追いついていないようだった。
って自分で奇想天外って言ってちゃおしまいだけどね。
でも私、あんまり戦いたくないんだよね。
だからダメ元でこうやって話しかけてみたのだ。
しかし相手はモンスター。首を傾げる。
「なにやってるのマナ?」
「話しかけてるの。だってあんまり戦いたくないでしょ?」
「そりゃあそうだけどさ。そんな簡単に渡してくれるわけ」
「ないよね」
私もきっぱり答えた。
しかし私はリスを見続けて手を出す。
すると何を思ったのか、急にリスは卵を落として木の上に登ってしまう。
「ありがと」
私は落とした卵を受け取ると観察した。
「コレがイースターエッグ。あっ、ホントに星マークあるよ!」
手に入れた卵には星マークがある。
だけど一つだけだ。
いわゆるハズレというやつだろうが、私にとっては十分だった。
しかしそんな様子を見ていた二人は不思議そうにしている。
「どうしたの?」
「いやまさかホントに渡して貰えるなんて思わなかったからさ」
「なんのトリックだ」
スノーは疑いの目を向ける。
しかし私は首を横に振ると前にも似たようなことがあったと軽く話をした。
そんな話を聞いてスノーは何かを閃いたように手を叩く。
「なるほどスキルか」
「スキル?」
「聞いた話では【動物愛】と言うモンスターに懐かれやすいスキルがあると聞くが……」
「うーん。私持ってない気がするんだけど」
そう答えるや否や、私の前にウィンドウが現れた。
そこにはスキル【動物愛】とあった。
今スノーが話した内容と全く同じスキルだ。
「手に入れちゃった」
「マジで!凄いじゃんマナ」
「う、うん……」
「偶然か?」
ご都合主義全開。
何となくそんな気がしてならなかった。
【動物愛】と言うスキルはかなり便利なはずだ。
私は頬を掻きながら、何となく都合が良すぎる気がしてならなかった。




