表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/266

■31 梅雨なのでバスケです

評価とかブクマとかしてくれると励みになります。

 バーンバーン!!


 ボールをドリブルする激しい音が体育館の中に響き渡る。

 華麗なステップとフェイントで体勢を崩させながら、千夏ちゃんが相手選手を抜いた。

 そしてそのまま綺麗なフォームでレイアップを決める。

 千夏ちゃんに教えてもらったばかりの用語を使いながら、何とか頭の中で今起きた一連の動作をまとめ上げた。


「今のどうだった愛佳?」

「うん。凄いよ。私には絶対できないもん」

「そんなことないって。あんなの簡単だよ」


 千夏ちゃんは楽しげに答えた。

 中学時代から千夏ちゃんの運動神経は目覚ましかったけど、高校生になってそれが如実に現れている。

 成長が目まぐるしく、皆んな息を上げてあるのに一人だけ平然としている姿がまたそれを表現する。


「はぁはぁ。南さんって、ホントにヤバいよね」

「うん。なんで部活入らないんだろ?」

「陸上部に顔を出してたって話だけど、コレじゃあ他の競技でもよくない」


 嫉妬ではない。

 それに妬みでもない。

 単純な尊敬。そして疑念。それが皆んなの中にあったが、そんなこと一切気にしない様子なのところが千夏ちゃんらしかった。


「でも梅雨だからって体育館でバスケって」

「変?」

「ううん。別に変ってわけじゃないけどさ、私はこう外で思いっきり走りたいなーって!」

「元気だね千夏ちゃんって」

「そうかな?」

「そうだよ。でももうすぐ水泳の授業が始まるみたいだよ?」

「あーもう夏だもんね。梅雨早く明けないかなー」


 千夏ちゃんはそうぼやいた。

 そんな時だった。


「ねえ南さん!」

「ん?」


 千夏ちゃんの名前を呼ぶ声。

 それを聞くや否や振り向いた千夏ちゃん。

 そこにいたのは皆んな体操服なのに一人だけ部活用のバスケットユニフォームに着替えた少女の姿。

 確か同じクラスの水橋香織(みずはしかおり)ちゃんだ。


「水橋じゃん。私に何か用?」

「南さん、バスケも得意なんだね。どう?私と1on1やらない?」

「「「えーーーーー!?」」」


 皆んな驚いていた。

 香織ちゃんも何だか嬉しそうだ。

 しかし当の千夏ちゃんは微妙な顔を浮かべる。


「どうするの千夏ちゃん?」

「うーん。別にやってもいいよ」

「やった!」

「でも急になんで?」

「南さんの動き、バスケ素人の動きじゃないからちょっと興味あって。だからせっかくだしやってみたいなって思ったんだよ」

「そっか。うんじゃあやろっか!」


 確かに千夏ちゃんは運動に関してはピカイチ。

 バスケなんて多分体育の授業以外でやったことはないはずだ。

 それなのにバスケ部に所属している香織ちゃんから一言かけられるなんて凄いや。


「ねえどっち勝つと思う?」

「流石に水橋さんじゃない?」

「だよねー。愛佳ちゃんはどう思う?」

「うーん。千夏ちゃんに勝ってほしいなー」

「そう言えば南さんってバスケやったことあるのかな?」

「確かないはずだよ」

「えっ!?じゃあ結果絶望的じゃん!」

「うーん、どうだろう?千夏ちゃんって、運動神経いいから」

「いや流石に経験者と素人じゃ相手にならないんじゃないの?」

「うーん……」


 ちょっと自信なくなってきた。

 俯き加減の私。

 そんな中、ボールの弾む音がした。

 低くボールを体育館の床に跳ねさせ抜こうとする千夏ちゃんと、トラップで千夏ちゃんを行かせないようにする香織ちゃん。

 方やバスケ部。方や素人。

 そんな対決は如何に。

 ってそんなこと言ってるそばから始まった!


「じゃあ行くよ!」

「うん。素人には負けないからね」

「私だって負ける気はないよ」


 素早い動きでドリブルをする千夏ちゃん。

 姿勢は低くボールと床までの距離が短い。

 あんなの慣れてないと出来ない技だ。

 しかしそれを千夏ちゃんはさも当然と言う動きとリズムでやってのける。


「なかなかやるね。でも!」

「おっと!」


 千夏ちゃんの動きが止まった。

 半歩下がって体勢を立て直す。

 今の一瞬、香織ちゃんが腕を伸ばしてボールを奪いかけると同時に足技で間合いを一気に詰め寄ったのだ。

 そのせいで千夏ちゃんの進路が妨害された。

 だから千夏ちゃんは前に出られず後退させられたのだろう。


「私はこれでもバスケ部だからね。挑発したのはこっちだけど、流石に負けられないよ」

「うーん。じゃあちょっとスピードあげてみよっかなー」

「えっ!?」


 その瞬間、千夏ちゃんは加速した。

 〈WORLD OF LIFE〉の世界と同じで【加速】のスキルが発動したみたいに、急に千夏ちゃんのスピードが上がった。

 そう言えば陸上の時もそうだった。

 千夏ちゃんは後半からスパートをかけるタイプ。それを自発的に起こしたんだ。

 つまり自分で自分のギアを上げたことになる。

 やっぱり凄いや千夏ちゃん。


「嘘!マジで!」

「マジだよ。さっ、ほい!」


 千夏ちゃんはもの凄い速さで駆け抜けた。

 前に出てブロックする香織ちゃんも速いけど、それよりも速く千夏ちゃんは脇を抜けていく。

 そのまま加速し続け、ゴール下まで辿り着くと、シュート体制に入った。

 それを妨害するようにジャンプする香織ちゃん。だけどそれも千夏ちゃんは計算に入れていた。


「えっ!?」

「跳ばないよ」


 千夏ちゃんのシュートスタイルはただのブラフだった。

 香織ちゃんがジャンプしたのを見送ってから逆サイドに走り出しそのままレイアップでシュートした。

 それは香織ちゃんが丁度着地した瞬間と同時だった。


「ふぅー。イェイ!」

「凄いよ千夏ちゃん!」


 千夏ちゃんは私に向けてピースサインを送る。

 私は声を大にして声援を送った。

 それを受けて周りの皆んなも歓声に湧く。

 取り残された香織ちゃんも負けを認めるようにちょっと不服そうだけど、満足気味の顔色をしていた。


「いやぁーまさか私が負けるなんて。思わなかったよ」

「でも水橋も強かったよ」

「香織でいいよ。だって南さんは私のライバルだからね」

「ライバルかどうかはわからないけど、私は楽しかったよ。香織」

「私も。またやろうね、千夏」

「いいよ」


 何だかいい感じの雰囲気だ。

 こんな漫画みたいな青春、本当にあるなんて思わなかった。

 千夏ちゃんはノリがいいし、香織ちゃんもこういう展開自然と起こせてしまうんだろうな。

 私はそう思いながら、二人のやりとりを手を合わせて眺めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=446623083&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ