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■28 ノースの日常①

ここ数日体調不良と神経質な性格が災いして投稿出来ていませんでした。

 私の名前はノース・アレクシア・高坂である。

 書くときはノース・A・高坂になる。

 イギリス人の父と日本人の母を持つクォーターで、10も離れた姉がいる。

 普段は〈市立常蕾学園〉に通い、成績は常にトップクラス。

 表では礼儀正しく控えめでお淑やか。

 何でも出来る天才。

 それが私に付けられた印象だった。

 しかしそれは私には重たくのしかかった、ただの世間体でしかない偶像だった。


「高坂さん、ここってどうしたら解けるの?」

「コレですか?コレはxを二乗して、後は教科書通りにすれば解けますよ。教科書の38ページです」

「高坂さん、ピアノ上手だね!先生褒めてたよ」

「ありがとうございます。小さい頃からピアノは続けていて、途中で辞めてしまったんですけど今でも感覚は指に残ってくれていたみたいです」

「謙遜しなくていいよ」

「いえ、私なんてまだまだですよ」


 ああめんどくさい。

 何で私にここまで人が寄ってくるんだ。

 せっかく元いたエスカレーター式の学校からこっちの進学校に変えたと言うのに、人が寄ってたかって来て面倒でしかない。

 丁寧な口調とは裏腹に、私は内心正直な話呆れていた。そう、これが私の学校生活だった。


(はぁー、寝たい)


 大きな溜息が出る。

 それが聞こえないように窓に向かって吐きかけていた。

 そうして人目を気にせず私は机に突っ伏した。



 ピアノの旋律が音楽室を駆け巡る。

 何て大層な表現はしてみたけれど、結局これは他にピアノを弾ける生徒がいないから代わりに私が弾いているだけの仕方ない決まりだった。

 しかし皆んなさっきからまるで歌っていない。

 うちの高校は進学校ではあるが、別に美術や音楽の授業がないわけではない。2年生からは選択制になるが、それまでは普通にある。

 で、今は合唱のはずだ。

 しかし一ヶ月前から様子がおかしい。まるで歌っている様子がない。しかも先生まで止めやしない。

 演奏に耳を傾け、聴き惚れている。

 私はそんなに上手くないんだがな。


 私は手を止めた。

 音楽が鳴り止み、全員が呆然とする。


「あの先生、合唱のはずなんですけど」

「いやぁー、高坂さんの演奏が素晴らしすぎてついつい忘れていたよ!」

「あ、はぁ?(忘れんじゃねーよ)」


 教師としてあるまじき行為というか社会の大人として在りうべからざる姿に言葉を失った。

 そうだ。いつもこうだ。

 私は大して上手くないし、ピアノの道に進もうなんて気、毛頭ないのだ。


(はぁー、人を外見だけでしか判断出来ないのか)


 私はさらに溜息をついた。



 私の住んでいる家は世間一般で言う豪邸だ。

 と言うのも両親は資産家で、特に医療関係には厚い。

 元が医者として成功を収めた人間であるのだから致し方ないのだが、そんな両親だ。普通に考えればかなり厳しく厳格な人間。そう思われるかもしれない。

 だがーー


「ただいま」


 私は家の扉を開いた。

 うちには何人もメイドがいるが、自宅までは歩いて帰るし出迎えも必要としていない。

 と言うか私がそうさせていた。


「はぁ。今日も疲れたー」


 三度目の溜息。


「おっ帰りー、ノースちゃーん!」

「お帰りノース」

「ぐはっ!」


 私は思いっきり抱きつかれた。

 誰に抱きつかれたのか。それは私の両親だ。

 側ではメイドの一人が呆れ顔を通り越して、無情なまでの無心を貫き通している。

 せめてこの状況を笑ってくれ。


「離れてください、お父さんお母さん」


 私は抱きつく両親を突き放した。


「もう!そんな冷たいこと言わないでよ!」

「そうだぞ!」

「いえ、高校生にもなって両親にベタベタされるのもあれなので」

「「ガーン!!」」


 私はとにかくぶっきらぼうに答えた。

 しかし話しかけられていることが嬉しいのか、顔が(とろ)けている。

 いやこんなキャラメルみたいにトロトロに腑抜けた主人に遣えるメイドってどんな気分なんだ。と、私は内心疑問に思った。


「あれ?ノースちゃんどこに行くの?」

「自室に戻ります。用があれば呼んでください」

「ノースちゃん!」


 私は気にせず自分の部屋に戻った。

 一応言っておくが私は甘やかされて育てられている。

 両親が過保護すぎるのだ。

 だがそれを真っ向から否定する。

 そもそもの話、私が元々通っていたお嬢様学校を辞めて普通の進学校に切り替えた時なんて、泣いて号泣された。

 悪い意味じゃなくて“感動”だとか何とか。

 甘えを自力で排除して生活して来たことが、あの過保護さを産んでしまってのだと大分遅く気付かされてしまった。

 はぁー。こうなることなら、もっと幼少の頃に甘えておくんだった。


「はぁー」


 四度目の溜息。

 それと同時に自室に入る。

 そこには三台の高級PCがあり、ベッドの上にはVRドライブの姿があった。

 私はVRドライブを手に取ると、自然と口角を上げた。

 何の気もない。気にしなくていい友人。

 私は今日も彼女達に会いにログインする。

 やっぱり私にはあれぐらい緩い友人の方が心休まるのだろうな。

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