■27 VS虎
時刻は夜の9時を回った。
ゲーム時間では夜。
3時間周期だとして、大体夜の9時くらいで合っている。
こんな時間に私はだだっ広い平原にやって来ていた。
「この時間で間違いないか」
私は時間を見た。
合っている。
そしてこの場所だ。つまり奴が現れる。
そう思った途端、私の周りを凄まじい勢いで突風が舞い上がった。
反射的に顔を服の袖で覆う私。
しかしそれを見定めて私の顔目掛けて何かが素早く飛んできた。
私はそれをすんでのところで半歩下がって躱す。
ギリギリの行動。冷や汗が溢れた。
「来たか」
小さく唱える。
私の目の前に飛んできたもの。それは鋭い爪だった。
銀色に輝く鋭い爪を持つのは巨大なモンスター。
名前は無頼タイガー。その名の通り、虎の姿をしたモンスターである。
私がコイツに遭遇したのは何も偶然ではない。
コイツがこの時間帯、この場所に現れることは事前にクエスト内容で知れていた。
そうこのモンスターを倒せば私のノルマは完了する。
しかしこのモンスターは見るからに強敵で、あまり情報がなかった。それ故にまず飛び込んでくる公開情報のレベルに視線が行く。
「レベル25か。私より2つ上か」
そう苦い顔で答えた。
無頼タイガーは爪をジリジリと草原の草を抉りながら、地面を引き裂く。
そしてその怖い顔からは唾液と生暖かい息を吐く。
獰猛。
一言で表すならそれが適切だと思った。
しかし私は逃げやしない。びびったりもしない。
背中に背負った弓矢を手に取り構える。
そうして無頼タイガーの眉間目掛けて放った。
「グラウッ!」
無頼タイガーはそれを前脚で払う。
流石に効かないか。
それを悟った私は瞬時に距離を取るが、それを睨むような視線で見つめる無頼タイガー。
一気に距離を縮めて来た。
「チッ!」
大きな舌打ち。
私はすかさず左に方向転換しながら矢を撃ちまくる。
しかしそれらは無頼タイガーの剛毛に阻まれてしまい、致命傷には至らない。
HPも僅かにしか減っていなかった。
しかしそれで十分。
(僅かにでも減らせれば、勝機はある)
躱し続ければ負けはしない。
しかし勝つことも出来ない。
装備出来る矢の数にも限度はあるし、インベントリから出していてはその隙を狙われる。何処かのタイミングで何かしらの“変化”を起こすしかなかった。
「仕方ないか」
私はインベントリをすかさず開き、そこから小さな小瓶を一つ取り出した。
中には毒々しい紫色をした液体。
私はそれを弓矢の先端の鏃に垂らす。
ポタポタと浸された矢。それを構える頃には、無頼タイガーの強靭な牙持つ顎が私に迫っていた。
しかし私は一切怯むことなく矢を放った。
それは無頼タイガーの下顎に命中し、痛みからか苦しみ出す。
その上HPもごっそり削れた。
「ふん」
私は一瞬で弓矢から大鎌に切り替えた。
ここからは接近戦。
無頼タイガーは首を大きく振り引き剥がす。
しかしさっきよりも確実に動きが悪い。何故かって?そんなの決まっている。
私がさっき放った矢の先端には毒を塗っていたからだ。
その毒が無頼タイガーの体に瞬時に回り、毒状態にする。そうエフェクトも出ていた。
だからこそ動きがかなり鈍いのだ。
「毒は効くのか」
軽いステップで攻撃をひらりと躱し、大鎌で連続して傷を負わせる。
こうしてついた傷口が摩擦に点在するのか、無頼タイガーは吠え、私の動きを一瞬止めた。
片目を瞑り、両耳を覆う。
その隙を突いて無頼タイガーは私の顔目掛けて鋭い牙を剥き出しにして噛み砕こうとする。
だがーー
「終わりだ」
刹那、大鎌が無頼タイガーの喉元に触れた。
そしてそのまま力の流れに任せて慣性が勝手に無頼タイガーの命を奪う。
どでかい咆哮。
悲痛な叫びと共に無頼タイガーは苦しみ出し、そのまま他に伏せると消滅した。
かくして私は無頼タイガーをものの数分で討伐したのだった。
無事に無頼タイガーを討伐した。
そんな私は如何やらレベルアップしたらしい。
その上、私の目線は下を向いていた。
「なんだコレは」
私の視界の先。
そこにはウィンドウ画面が表示されていた。
そしてスキル獲得の証。
スキル名が隅付きカッコで囲われている。
「【換装】?」
私はスキルの説明欄を見た。
そこにはこうあった。
【換装】
レア度:エピック
習得条件:同時に二つ以上か異なる武器を連続して使用している場合。また装備している場合。
説明:装備している武器を瞬時に持ち帰ることが出来る。
そう書かれていた。
見事にシンプルな文面だ。
もう少し凝っていても文句はないほどだが、とりあえず試してみよう。
私は現在装備している弓と大鎌。
この二つの武器を装備した状態で、片方に手をやる。
すると如何だろう。
今まで感じていたラグがなくなり、瞬間的に手に吸い付くように持ち帰ることが出来た。コレは使える。私は確信した。
「なるほどな。いいスキルだ」
しみじみと心の底から溢れた。
不敵な笑みを浮かべる。
ニヒルな口元。二人がいたら気味悪がるだろう。
しかしそれぐらい面白く、使えるスキルだったことに好感したのだった。
【簡単なキャラクター紹介】
ノース・アレクシア・高坂:スノー
15歳の高校一年生。
元は私立のお嬢様学校に通っていたが、現在は優秀な進学校に通っている。
文武両道、才色兼備の持ち主でその有り余る能力をゲームに注ぎ込む程の暇人で天才。
両親からは甘えられ、学校のクラスメイトや教師からは頼られるほどの優秀さをみせる。
名前に敬称を付けられることを最も嫌う。
ステータス(劇中未登場も含め)
ネーム:スノー
種族:〈ヴァンパイア〉
レベル:25
HP:102
MP:75
STR:50
VIT:50
AGI:52
DEX:50
INT:75
LUK:70
装備品
体:〈レッドタイ〉
服:〈黒夜のワンピース〉
足:〈黒夜ショートパンツ〉
靴:〈黒夜の革靴〉
武器
〈黒夜の大鎌〉〈先鷲の弓〉
スキル
【換装】【体術】【受け身】【反射神経】【自動HP回復(小)】【自動MP回復(小)】【呪い無効】【毒耐性(中)】
魔法
《シャドウバインド》《ダークトルネード》
称号
『夜の姫公子』




