■256 満月に鳴く
今回の話を起点にする。
夜も更けた頃。
静けさに深く酔いしれて、瞳を閉じる。
そこにいたのは『星の集い』の面々。
「静かだねー」
「そうだねー。それに涼しいよー」
まさかこんな時間になってまで暑いのはしんどい。
砂漠でも日中は暑く、夜間は寒い。そんな極悪な環境で、火山地帯も同じだと苦しかった。
「はぁー。お茶がおいしいです」
「水筒に入れて持って来てよかったぜ」
タイガーは人数分のタンブラーを用意し、中には緑茶や紅茶が入っている。
それぞれがおのおの好きな飲み物を飲んでいた。
これも全部タイガーが事前に用意していたもので、長期戦覚悟だった。
「スノー、本当に今日やるの?」
「今日しかない。このクエストはこのタイミングしかないからな」
この世界は一日に三日分が存在する。
だけど日付的には変化しない。三回目の夜が抜けて朝に変わればそこが一日のお終いで、それはゲーム的な要素。でも、イズモさんはボソッとこんなことを言っていた。「この世界の一日は二十四時間ですよ」。それを知っているのはマナだけだが、正直覚えていない。
そんな現状で、マナ達がこんな草原のある丘にいるのはとあるイベントのためだった。
「なかなか月が出ませんね」
「うん。曇っちゃってる」
「ほんとだな。さっきからずーっと見てるけどよ、まったく雲が引かねぇもんな」
「風でも吹けばいいのにねー」
「朧月か」
『星の集い』の面々はずっと上を見上げていた。
少し首が痛い。気分は少し遅いけど、お月見みたいだった。これで団子があれば、マナとちなっちはアイコンタクトを取り合う。
「ほいっ」
タイガーはインベントリから笹で巻かれた包みを取り出す。
笹で閉じた蓋を開き、中に入っていたのは少し黄色がかった小さなお団子だった。
マナ達は目をぱちくりさせて、タイガーの顔を見合わす。
「タイガー、これって?」
「見ての通りお月見団子だ」
「へぇー、お月見団子かぁー。これってもしかしてさ、手作り?」
「あん? 当たり前だろ。今朝早くログインして、作っといたんだよ」
タイガーは訝しい顔をした。
でもこれはキャラ的な感じだから本心ではない。多分、くすぐったい感じのはずだ。
今日は夜中にログインしている。
しかもリアルでの夜中の零時だ。
マナ達は普段ならこの時間は寝ている。
起きていてもスノーぐらいのもので、全員が起きていたのは明日が日曜日だからだ。
それにしても、
「旧暦の十五夜は八月の十五日が一般的なんだがな」
「いいだろ。俺達は今がお月見なんだよ!」
「まぁ、私も食べてるから文句は言わないんだがな」
スノーは団子を手に取ると、静かに食べた。
(うん。安定の味。タイガーの作るものは美味いな)
お世辞とかじゃない。本当の事だった。
そんな頃合いで、誰よりも月の様子を観察していたKatanaは、空気の流れが変わったことを見切った。
「皆さん。そろそろ雲が晴れますよ。かなり近いですので、準備してください」
それを聞きつけ、各々が武器を取り出した。
しかし伝説の神獣武器は使わない三人。最近はマナもここぞって時にしか使っていなかった。かなり慣れた様子だ。
それから、
「後十分か」
「分かるの?」
「あぁ、雲の流れだ。風も着た向きから吹き始めた。Katanaの言う通り、来るぞ」
スノーの言葉で全員が確信した。
団子みたいに固まって、何処からモンスターが来るか目を凝らす。
すると雲が途切れて、月明かりが照らし出した。
ピカッ!——
眩い聖なる輝きが飽和した粒子のように優しく照らす。
すると草原の草が緩やかに揺れて、何かが舞いだした。
「灰色?」
「火山灰だ。これが舞うということは、固まるな」
火山灰が固まり出した。
舞っていた灰色の粒子は灰で、月明かりが新たな姿として命を与える。まさに神秘的。何かの神話のようで、マナ達の目の前にそれは現れた。
「クゥォォォォォォォォォォ!」
甲高い高貴な鳴き声。
黒い体毛にしっかりとした四つの四肢。それから二本の角に、雷のマーク。
そこにいたのは、ユニコーンの亜種だった。
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