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■253 千里の道も一歩から

前回の続きだけど、名前とかけているよ。

  寒々しさが滲みよる十二月の今日。

 車一台走らない市道をまばらに蠢くジャージ姿の女子達の中、二人だけ明らかに突出した少女たちがいた。

 千夏と嘉歩。二人はそれぞれ走る意義は違った。

 千夏は何となく走るだけだが、嘉歩は楽しみつつ負けじと走る。まさに一心不乱な様子だったが、互いに変わらないものがあった。それは本気ってことだ(・・・・・・・)


「やるね千里」

「楽しいからねー。それに私だってさぼってないんだよ」

「あはは。確かにちょっと速くなってる」

「ちょっとってなんか癪だよ。それになんで名前で呼んでくんないの? 小学校の時からのライバルじゃんか」

「うーん。じゃあ私より早くゴールで来たら呼ぶことにするよ」

「むっ! なんか余裕だね」

「そんなことないって。お互い全力じゃないんでし(・・・・・・・・・)()?」


 それもそうだった。

 千夏は終始余裕。だけど嘉歩が本気になったこともない。お互いに本気になったのは小学校の時に一度だけ。それ以降は一方的に嘉歩が勝負を挑む程度で、それでも勝ち負けは五分五分だった。走りだけなら。

 それからも嘉歩は走りに磨きをかけた。

 香織はバスケに情熱を注ぎ、奪うだけなら千夏以上。それは人として本気になった千夏を上回るが、それでも千夏はやる気と根気で超えてくる。

 だが最後の一瞬は……


「じゃあ私ちょっとスピード上げるね」

「スタミナ持つのー?」

「持つ持つ。私だって鍛えてるんだよっ!」


 嘉歩は歩幅を広げて一気に走りだす。

 前を走る上級生たちを追い抜き、姿が見えなくなりそうだった。

 千夏は嘉歩に追いつくために少しだけスピードを上げる。ここまで一切汗を掻いていない千夏にも、少しだけ疲労の色が見えた。


「待ってって。それで私に勝つ気なのかなー?」

「おっ。久々に聞いたよ、所見じゃないと怖くない挑発」

「あちゃぁー。そっかそっか、千里は知ってたっけか」

「当たり前だよ。中学の時の陸上大会で他校の同学年にやって、「あれまた怖くないのやってるね」とか言われてたよー」

「マジで! 私それ知らなかった」


 本当に知らなかった。

 数年ぶりの真実を突きつけられ、目を丸くする。一気に冷静さを欠いて、少し呼吸が浅くなる。


「そろそろデッド・ゾーンに入る頃?」

「うーん、そうかも。私ほとんど入らないから、デッド・ゾーン」

「じゃあ私もギア上げよっかな。こんなに全力な千夏とやるの楽しいから」


 嘉歩はデッド・ゾーンに自発的に入った。

 それは千夏も同じで、互いに呼吸が浅くそれから血液の流れが加速する。

 デッド・ゾーン。それはランナーの呼吸が苦しくなり、足が鉛のように重くなる。走り始めたマラソン選手に起こる状態で、急激な酸素不足により引き起こされ、腹痛も起こす。

 この苦しい時間に自発的に突入してまで二人がやろうとしていたこと。

 特に千夏は珍しく、ただでさえ馬鹿げた身体能力とスタミナを引き換えにしてやろうとしていた奥の手。それは……


「はぁはぁはぁはぁ」

「はぁっはぁっはぁっはぁっ」


 二人の呼吸が安定し始めた。

 腹部への痛みも和らぎ、呼吸が一定になって走りやすい。しかしスピードは落ちることはなく、むしろどんどん加速していた。

 限界を自らの手でこじ開け、その姿はまるで少年漫画の主人公さながらだった。


「千夏も入ったんだ」

「もちろんね。セカンド・ウィンド。本当に疲れないや」


 この状態に入れば無敵。

 特にこの二人には完全な追い風となった。まさに風。だけど千夏は違う。千夏は……


「この風を燃やし尽くす!」

「なにそれ。って、速ぃ!」


 嘉歩は目を丸くした。

 自分の目の前をさっきまで隣を走っていたはずの千夏が軽快に走り抜け焚いた。まるで炎を纏ったみたいに鋭い熱気を放ちながら、双剣を突きつけているようだった。

 その瞬間、折れる音がした。

 なにとは言わない。だけど、嘉歩は……


 ポキッ——パキッ! ——


「折れるならもっと折る!」


 嘉歩は心をさらに折る。もう折れることはない。もう折れるものはない!


「千夏、私負けないから」

「私もね。ほらゴールだよ!」

「だから負けないっ!」


 最後の一瞬。

 ゴールを踏み切るのは千夏ではなかった。ほんの一瞬。頭が先に抜けた。


「ま、マジ?」

「はぁはぁはぁはぁ。勝った。これでやっと名前……」

「おっと」


 転びそうになった。足に力が入らない。完全に笑ってる。

 そんな嘉歩を引き上げたのは千夏で、その顔には汗が零れた。


「お疲れ、負けたよ嘉歩」

「あはは。やっぱり私って走るの好きみたいだよー」

「そうっぽいね」


 熱い友情。何だろ、この空気。

 近寄りがたさが滲みつつ、他が戻るのをそれから十分近く待つ二人だった。


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