■25 毛刈りからのコットンガード
ここからしばらく蛇足。
私は一人で農場にやって来ていた。
何でかって言うとNPCからの依頼で、農場にいる羊の毛刈りを頼まれたからだ。
何でも人手が足りなくて困っていたとか。
私は人助けも兼ねてやってみることにした。
毛刈りなんてやったことないけどね。
「すみませーん。クエストを受けて来たんですけど」
「おう、こっちだ!」
手を振って私を呼んだのは少し背の高い初老のおじさんだった。
その人は手にバリカンを持っている。
もしかしてアレで羊の毛を刈るのだろうか?
「いやぁーすまんな。今年はアイツらの伸びが早くてな。急遽人手が必要になったところだったんだ」
「全然大丈夫ですよ。それより羊って?」
「ああそれならあそこだ」
そう言って指を指した方向を見る。
するとそこにはたくさんの羊がいた。
と言うか浮いていた。
「えっ!?浮いてる!」
「なんだ知らないのか。アレはバブルシープと言ってな。しゃぼん玉みたく空中を浮きながら進むのが特徴的なモンスターなんだよ」
「えっと、私はなにをすれば?」
「簡単だ。バブルシープが逃げないように取り押さえて、毛を刈ってくれればいい。じゃあ儂は向こうをやるから、お前さんはこっちを頼むぞ」
「えっ、まだいるんですか!」
「ここには全部で100匹近いバブルシープが飼育されているからな。じゃあ頼んだぞー」
「えっ、ちょっと待ってくださいよ!」
私は振り返った。
それと同時に何かを思い出したのか、NPCの人、ヴィムさんは私に毛刈り用のバリカンを差し出してきた。
「毛刈りにはコレを使ってくれ」
「コレをですか?」
「ああ。やったことなくても、自然とやり方がわかる代物だ。じゃあ頑張ってくれ」
「は、はい」
そんな凄いアイテムがあったんだ。
面白い。と言うか楽しい。
最初は戸惑ったけど、それでもやったことないことなので不安にはなる。しかも相手は生き物なのだ。
注意深くならなくてはならない。
けどそれを差し引いても、楽しかった。
「よーし、やるぞー!」
一人拳を突き出して意気揚々としていた。
「せーのっ!」
私はバブルシープに飛びかかった。
バブルシープはその名の通りと言うか、さっきの説明通りと言うかふわふわ浮いていて捕まえるのが大変だ。
いざ毛を掴もうとするとモフッと毛が膨らんで目を丸くする。
それに加えてめちゃくちゃ軽いので触れているのがわからなくなるほどだった。
「よしまずは1匹目」
私はようやく一匹捕まえた。
モフモフの羊毛を丁寧にバリカンで剥ぎ取っていく。
毛が鼻に入ってくすぐったい。
「ふぁ、は、はくしゅん!」
鼻を鳴らす。
しかしそれに驚いてしまったのか、バブルシープが身震いし始めボフッと毛が膨らむ。
毛玉になって私に襲いかかって来た。
「これヤバいよね。どうしよう」
どんどん膨らんでいく。
私は早く刈り取ってしまわないと駄目だと思った。
バリカンを握りしめる。
そうして私は〈雷光の長靴〉の力に頼ることにした。
「せーのっ!」
雷の眩い閃光。
猛烈な速度で、縦横無尽にバブルシープのモッフモッフの羊毛を刈り取る。
青く紫電を纏った。
「ふぅ。こんな感じかな?」
私はとりあえずまずは一匹、羊毛を刈り取った。
それにしてもたった一匹でこれだけの量と疲労感があるのは仕事としては真っ当ではあるけど、かなり大変だった。
そんな私に朗報が一つ。
急に目の前にウィンドウが開かれ、そこにはスキル獲得を示す合図が送られた。
「えっ、スキル!?」
私は首を傾げた。
ここまで特に何もしていないのだ。
一体どんなスキルなのだろうかと、タップしてみるとそこには【コットンガード】と言う文字が現れた。
「【コットンガード】?」
不思議に思って私。
どんな効果なのか気になって調べてみる。
【コットンガード】
レア度:レア
習得条件:羊系のモンスターの毛を刈る。
説明:瞬時に羊毛で作り出した分身を展開出来る。攻撃されると消滅する。(最大一つ)
とあった。
「へぇー変わってる。と言うより難しい?」
使い所を選ぶようなスキルだ。
私にこんなスキルが使えるだろうか?
仮に使えたとしても上手く出来る気がしなかった。
そんな副産物に疑念を抱きつつも、私は自分の仕事を全うすることを疎かにはしなかった。
「駄目駄目。そんなことよりまずはここにいる子達を軽くしてあげないとね!」
私は今度は驚かさないようにしようと注力した。
右手に持つバリカンを力強く握る。
ちょっと痛い。
ゆっくり、ゆっーくりと背後から近づいて、そーっとそっと取り押さえる。
「えい!」
私はギュッと掴んで離さなかった。
捕まえたバブルシープが膨れ上がる前に今度は毛を刈り取る。
今度は上手く出来た。
この調子で次行こう!と息巻く私は、その後もバブルシープの毛を刈りまくり、気がつけば夕方になっていた。
「やっと終わったー!」
私は両手を上げてそのまま地面に座り込む。
羊達が鳴く。
刈り尽くした羊毛を眺め、私は達成感に浸った。
「おう終わったか!」
「はい。こんな感じですけど」
依頼主のNPCがやって来て声をかけてくる。
私は丁寧に返答し、刈り取った羊毛を眺めては御満悦気味だった。
「ありがとさん。おかげで助かったわい」
「そんなことないですよ」
私は手をプルプルと振って謙遜する。
こうして私は無事クエストを完了させた。
そう言えばちなっちとスノーは大丈夫だろうか?と内心心配するのだった。
【簡単なキャラクター紹介】
神藤愛佳:マナ
15歳の高校一年生。
得意なことも不得意なこともないのが特徴の女の子。
運がそこそこいいことと、頑張れば頑張る程、他の人よりも格段に上達していくのがポイント。
ステータス(現在)
ネーム:マナ
種族:〈ヒューマン〉
レベル:20
HP:102
MP:50
STR:48
VIT:43
AGI:53
DEX:45
INT:43
LUK:47
装備品
体:〈両面の外套〉
服:〈白の長袖〉
足:〈黒のレギンス〉
靴:〈雷光の長靴〉
武器
〈麒麟の星雫〉
スキル
【成長補正(平均)】【幸運】【ジャスト回避】【毒耐性(小)】【反転】【聖拳】【コットンガード】
称号
『蛇殺し』




