■248 火口の桜
マグマに揺らめいたのは……
落ちた。
ちなっちが落ちた。
「は、早く助けに行かないと!」
体は素直に動いた。
私自身がマグマの中に飛び込んで助けに行かないと。そんな自傷行為に駆られる。
足がマグマの谷に向いた。しかしそんな私の腕を誰かが掴んで止める。
「馬鹿が行くな!」
「だ、だってちなっちが……」
私の腕を掴んだのはスノーだった。
振り返り涙袋に大粒の涙を溜め込み、今にも決壊しそうなダムのようになっていた。
「わざわざ死を見るより明らかな行動をする必要はないだろ」
「でもさっきスノーが脳に伝わる影響が強いって……」
「あくまでそれは可能性の話だ。真に受けるな」
「真に受けちゃうよ。とにかく助けないと……」
私はマグマの中を覗き込んだ。
ちなっちの姿はない。そんな私にKatanaは、
「少し落ち着きましょうか、マナさん」
「Katana」
Katanaはいつもの通りで一切表情を崩さなかった。
隣のタイガーは心配した顔で胸もいっぱいだった。だけどこれはKatanaが冷徹な訳じゃない。あくまで冷静さを欠いたら負けだった。
「大丈夫です。ちなっちさんはこれぐらいの困難で壊れるような人ではない。それを一番理解しているのは貴女のはずです」
「それはそうだけど……でもこれは!」
「だから落ち着いて深呼吸をしましょう。明鏡止水の心で願うんです。そして私達ができること。それは何ですか?」
「ちなっちを助ける?」
「違うはずです。そうですよね、スノーさん?」
「あぁ。あいつが戻って来るのを待つ。そう言うことだ」
「はい。笑って出迎える。それがやるべきことです」
Katanaはちなっちの人間性を汲み取り、その思考さえ読み解いた。
すると何故かそれが一番ふさわしいことに気が付いた。
「ほら、とっとと行くぞ」
「う、うん。ちなっち……大丈夫だよね」
◇◇◇
意識が途絶えたのは分かった。
それが戻て来たのも分かった。つまりそれは暗い暗転した世界から明るい活気のある街に帰還することの暗示でもあった。
はずだった——
「はぁ!?」
私は目が覚めた。
パチパチ炭酸を飲んだみたいにそれこそエナジードリンク系の味が味覚を通じた時のように、激しく瞬きを繰り返した。
「ここ、どこ?」
周りには炎の壁。
流石に触れる勇気はない。だけど熱いのは伝わる。焦げてなくなってしまいそうな、それこそマグマのような……マグマ!?
「そっか。私マグマん中に落っこちたんだ。えっ、何で生きてるの!」
おかしい。
確かにさっきは熱を感じたはずだ。それを体が覚えている。もしかしてこの炎……
「触れる?」
意を決して炎に触れた。
すると忍者の隠し部屋みたいに指が入る。だけど全く熱くない。表面は熱いのに、如何してだろ。
「もしかして落ちても平気だった的な? でも連絡が取れない……」
いくらメッセージを送っても途中でエラーになった。
おっかしいな。如何してこんなことになったんだろ。そう思った私だったが、
ポーン、ペチャ! ポーン、ペチャ!——
背後から何かが跳ねる音が聞こえた。
振り返るとそこには一匹のスライム。さっきよりちょっとオレンジ色。チェリー味からミカン味になったみたいだった。
「君、さっきの?」
私が腰を落として聞いてみた。
でも口は返ってこない。馬鹿みたいだなと思った矢先、スライムが炎の中に消えた。
「ちょっと、えっ、なに!?」
まるで付いて来いって私を誘っているみたいに見えたのは、私の頭の中がメルヘンチックに汚染されてるからかな?
だけどこんなところにいても意味がない。
私も炎の中に飛び込んで、円形の壁から脱出した。
「よっと!」
炎を抜けるとスライムが待っていた。
だけどすぐにどっかに消えてしまう。熱でぼんやりしてまるで世界が陽炎のようだった。
しかし視界ははっきり開けていて、先に行ってみた。するとそこには巨大な大木が炎に揺らめきながら生えていた。
「な、なにこれ?」
目を奪われた。
あまりの大きさだ。それに人が入れるようにかは知らないけど、亀裂ができていた。
「この中にいるのかな?」
私はスライムを追いかけて亀裂に入る。
中は温かいのか冷たいのか分からない。だけどこの大木は生きていて、このあっつい炎にも屈していなかった。
「おーいスライムー!」
手を口元に当て、叫んだ。
するとスライムが待っていた。
「いたいた。ねぇ、ここに何があるのー……はぁ!?」
私の目は奪われた。
スライムが見ていたもの。その視界の先にあったのは、とんでもなく美しい桜の木。花弁が炎のように見えるのが、また目に残るような煌びやかさで焼き付いた。
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