■242 竜の胃袋
今回は迷走しました。
カランカラーン——
心地の良いベルが鳴った。
金属製の甲高い音だったが、喫茶店らしい。
けれど、
「いらっしゃいませニャー」
「猫耳?」
現れたのは猫耳と猫尻尾を生やしたウエイトレスの女性。
年齢はそこまで私達と変わらなそう。しかもNPCじゃない。プレイヤーだ。
だけど格好がウエイトレスって言うか……
「メイド喫茶……いや、コスプレ喫茶か」
「うーん、そんなつもりはないんだけどニャー」
「そのキャラ付けが……まぁいい。それより」
「席空いてるー?」
ちなっちが尋ねた。
見たところ空いている様子はある。そこで奥のテーブル席に案内された。
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのベルを鳴らしてくださいニャー」
「わかりました」
「あっそれとだニャー。今マスターいないから、注文できるのはそっちの四つとドリンクだけニャーよ」
「ん?」
タイガーは首を傾げた。
しかしウエイトレスさんは、
「だってマスターがいないと、ほとんどのものが作れないからニャー」
「それってお店として……」
「そもそもうちはギルドニャーよ。それに」
ウエイトレスさんはメニュー表を見るよう促す。
するとスノーはすかさず手に取って眺めた。その内容はと言うと、スノーでもびっくりするような代物ばかりだった。
「なんだこれは。全部レベル高いじゃないか」
「どれどれ……うーん、わかんない」
「私も……」
ただイタリアンだとか、フランス料理だとか様々だった。
しかし何より多かったのは……
「なにこれ?」
「和食ばっかりだな」
スノーは顔を顰めた。
するとタイガーがメニュー表を奪い取り、眺める。何故か目を見開いたのが気になった。
「この料理の数……和食の多さってことは、ねぇマスターって!」
「……もういないね」
注文をしないと来てくれないのかな。
それにしてもタイガーは何を思ったのかな。よくわからない。表情を読もうにもメニュー表で顔を隠していてわからないんだ。
「タイガー、何か気になることでもあるの?」
「えっ!? いんや、まさかな。あの人がするわけない……よね」
(あの人?)
恋人では絶対になさそう。
だけど意味深すぎて気になった。
お店の名前は竜の胃袋。
竜の要素は何処にあるのかわからないけど、胃袋感はある。何故なら異のように深い洞窟みたいなドーム構造だったからだ。かまくらでもいい。
お店の中の雰囲気もごつごつした岩が張っていて、尖った部分が少し丸い。
そのおかげで安全性は保たれていて、仄かな明るさを放つ天井のライトがムーディーさを醸し出す。
「このお店って一人でやってるのかな?」
「さぁな。だが繁盛している様子はないな」
「それは言っちゃ駄目だって。でもさ、隠れ家的でいいんじゃないの?」
「それは分かるかもー」
ちなっちが同意してくれた。
それからKatanaもこくこくと首を縦に振って頷き返し、ゆっくり注がれた水を飲む。
私達が注文したもの。それは……
「お待たせしましたニャー。こちら竜の胃袋特性、ドラゴンカレーですニャー。それからサバの煮つけと、特製のドラゴンの卵オムライスニャー」
この中に一つ異色なものがあるのはご愛敬と言うことで。
ちなみに私です。
それからカレーはちなっちで、残りは全員オムライスだった。
「美味しそうな煮付け」
「わざわざそんなの頼むのか?」
「うん。だって定食だよ」
そう、私が頼んだのは単品じゃない。定食だ。
喫茶店らしいかと言われれば微妙だけど、試しに食べてみたかった。
それから、
「それじゃあとびっきりの隠し味。美味しくなーれニャー。ニャーニャーニャー!」
「だからメイド喫茶か!」
「この方が美味しくなって客足も稼げるらしいニャー」
「それはこの手のものが好きな奴だけで……お前はもう食うのか!」
タイガーは気にせず食べていた。
すると目を丸くする。そして、
「この味! あのウエイトレスさん!」
「なんだニャー?」
「このお店のマスターって……」
「ふふーん。私達のマスターは、とんでもない料理人なんだニャー。私の憧れニャーよ」
ウエイトレスさんは嬉しそうに誇った。
腰に手を当てている。
それにしてもタイガーのこの言い方。多分、知り合いだ。
「うわぁ、このカレー辛い!」
「カレーは辛いものニャーよ」
「それにしてもこれはないよ」
ちなっちが口から火を吐きそうなほどだった。
さっき聞こうとしたことも半ばで忘れてしまう。それにしてもこれを一人で作ったのって凄いね。
「あれから二十分で作ったんですか?」
「そうだニャー」
「手際凄くいいですね。これもすっごく美味しいです!」
私はベタ褒めした。
すると照れているのか、揺れ出した。
「褒められるのは嬉しいニャー」
「でも本当に旨いぞ」
「はい。このふわふわ感はなかなか出せませんよ、きっと」
「ニャニャニャー。煮付以外は全部私が作ったんだニャーよ。マスターのレシピ通りだけどニャー」
それでも完璧にここまでやってのけるのは凄すぎる。
しかしそのマスターはこんな美味しいものをあらかじめ作っておくなんて、きっと料理が好きな人なんだろうなー。
「あの、今度マスターさんに会えますか?」
「うーん如何かニャー。マスター忙しいからニャー」
如何やらなかなか会えそうにない。
だけどいつか会ってみたいと思ったけど、特にタイガーは意気込んでいた。それにしても美味しいね。
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