■240 水橋香織は負けず嫌い
今回はちなっちのお話。
こんな人がいたら夢がある。
ある日の放課後。
十一月も終わり頃。千夏ちゃんは香織ちゃんに呼び出されていた。
やって来たのは体育館で、私は「愛佳は先に帰ってて、すぐに終わらせるから」と息巻いていた。その言い方も如何かと思うけど、私は大人しく帰った。
「さてと、またあれかなー」
私は正直だらけていた。
そんな性根を定期的に叩き起こす。そう、水橋はそう言う奴だった。
「あっ、やっと来たね!」
「まあ来たけどさ、今日も? 確か二週間前もしなかったっけ?」
「そうだよ。でも今日も体育館借りれたからさ。あの時は私が負けたけど、今日こそは勝つよ!」
私も勝ち負けは嫌いじゃない。
はっきりと決まるのは、性に合っていた。だけど私は“楽しい”が何よりも最優先事項だから、水橋のは好きじゃないんだよね。
「じゃあ行くよ! ほいっ」
頭を掻きむしるだらけた私に、水橋はバスケットボールを弾くように手渡した。
瞬時に片手で止まると、私はコートに立つ。
「今日は何本?」
「十本勝負で行こう」
「オッケー」
(私も予定あるんだよなー。って、四時十分かー、十五分で終わらせよ)
ある程度の見切りをつけた。
目標タイムは十五分。私は水橋と1on1になり、掌でボールを叩きつけるように跳ねさせる。ドリブルだ切り抜け、ゴールに向かう。
「あっ!?」
「よっと」
レアアップでボールをリングに落とした。
もう少し距離があればダンクもできたけど、それじゃあ面白くない。昔から足腰には自信があるし、ある時からダンクもできるようになった。できるようにしたからね。
「もう一回!」
「はいはい」
水橋は負けず嫌いな性格だ。
だけだそれは諦めが悪いとも言う。けどそう言う勝負心は嫌いじゃない。むしろ――
「取れる!」
「甘い甘い」
ボールを右から左に切り返して、そのまま抜き去る。
水橋の動きは悪くない。もう背後についている。だけどスピードが違うんだ。
「よっと」
パサッ――
ボールはネットをかすり、ポーンポーンと弾み出す。
「これで二勝」
「はぁはぁ。はぁはぁ」
水橋は額から汗を流していた。
たった数歩、数秒程度の攻防でかなり体力を持っていかれる。それでも水橋は諦めない。むしろ、ニヤリと笑いながらこの攻防を楽しんでいる。
「私、まだ負けてない。ここから二本取れば……」
「そうはさせないよ」
ここで点を上げたら怒られる。
だから私は全力で叩き潰しにかかった。前にも同じことをしようとしてキレられたから、それぐらいの気でやってやる。
「ほいっ」
私の勝ち。
「やっ!」
私の勝ち。
「取った!」
「それは如何かな?」
「えっ!?」
一瞬わざとボールを持たせ、手から弾いて奪い去る。
そのまま半円を描くようにドライブで切り込み、一気にボールを叩きつけた。
ボールはネットをくぐり、私の左手はリングを掴んでいた。
「よっと」
スタッと体育館の床に足を下ろした。
すると、ドサッ! と音を立てた。それから背後を振り返れば、すでに限界値寸前の水橋だった。
ポタポタと汗をコートに垂らし、私は心配して近づいた。
「大丈夫、水橋!?」
「大、丈夫。続き、やろ」
いや、もつ無理だ。
いつもより汗の量が甚大じゃない。見れば足を引きづっていた。そう言えば愛佳が、言っていた。
「香織ちゃん、足痛めてるみたいだから。お願い、無理させないでね」
「了解」
忘れてたわけじゃない。
だけどここまで来たらもう私の勝ちだ。
「じゃあ次私が取ったら、それで今日は終わりね」
「えっ!?」
「いいから、ほいっ。次は水橋からね」
私はボールを突き渡した。
水橋はボールを受け取ると、汗ばんだ手でボールを弾く。だらだら流れる汗。照りって見えた。
「行くよ!」
「オッケー!」
水橋はドリブルをした。
県屈指のポイントガード。それが水橋だ。パス回しや、指示などを送る。まさに指導者。しかしその手からボールが滑り落ちる。私が奪ったんだ。
「このっ!?」
「早く終わらせる!」
一気にダンクで決める。
そう思ったのも束の間。足が取られた。朝に滑って体が倒れ込む。
「今だっ!」
水橋はボールを掴んだ。
しかし体を捻りながらボールを奪い返すと、倒れ込みながらボールを放り投げる。するとボールはリングをくぐり、ネットを掠めて落ちた。
私の勝ちだ。
「このっ!?」
水橋は疲れ果てた腕で体育館の床を叩いた。
激しい音が響く。
しかし最後のは危なかった。けれど、勝ちは勝ちだ。
「お疲れ、水橋」
私は手を差し出した。
すると、汗ばんだ手を伸ばして私の手を掴んだ。うわぁ、凄い汗だ。気持ち悪い。何って言ったらいけないね。
(これは水橋の頑張りだもんね。変に言っちゃ駄目だよ)
人の頑張りを無碍にはしない。
そう言った主義なのでここは何も言わずに讃える。
「惜しかったね」
「何処が?」
「最後の。あれは本当に危なかったよ」
かなり挑発みたいな発言。気をつけよう。
けれど水橋にはそんな躊躇はいらない気がした。それに、
「あー、もう! 次は絶対に勝つよ!」
「それ何回めー?」
「そんなの関係ない。私は負けない!」
「はいはーい」
面倒な奴。
そう思われても不思議じゃないけどね。けれど、誰も水橋のことは嫌いになれない。そんなポジティブで、諦めの悪い根性持ちのプレイヤーはきっと重宝する。
だから私もうっかり乗ってしまうんだよね。
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