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240/266

■240 水橋香織は負けず嫌い

今回はちなっちのお話。

こんな人がいたら夢がある。

 ある日の放課後。

 十一月も終わり頃。千夏ちゃんは香織ちゃんに呼び出されていた。

 やって来たのは体育館で、私は「愛佳は先に帰ってて、すぐに終わらせるから」と息巻いていた。その言い方も如何かと思うけど、私は大人しく帰った。


「さてと、またあれかなー」


 私は正直だらけていた。

 そんな性根を定期的に叩き起こす。そう、水橋はそう言う奴だった。


「あっ、やっと来たね!」

「まあ来たけどさ、今日も? 確か二週間前もしなかったっけ?」

「そうだよ。でも今日も体育館借りれたからさ。あの時は私が負けたけど、今日こそは勝つよ!」


 私も勝ち負けは嫌いじゃない。

 はっきりと決まるのは、性に合っていた。だけど私は“楽しい”が何よりも最優先事項だから、水橋のは好きじゃないんだよね。


「じゃあ行くよ! ほいっ」


 頭を掻きむしるだらけた私に、水橋はバスケットボールを弾くように手渡した。

 瞬時に片手で止まると、私はコートに立つ。


「今日は何本?」

「十本勝負で行こう」

「オッケー」


(私も予定あるんだよなー。って、四時十分かー、十五分で終わらせよ)


 ある程度の見切りをつけた。

 目標タイムは十五分。私は水橋と1on1になり、掌でボールを叩きつけるように跳ねさせる。ドリブルだ切り抜け、ゴールに向かう。


「あっ!?」

「よっと」


 レアアップでボールをリングに落とした。

 もう少し距離があればダンクもできたけど、それじゃあ面白くない。昔から足腰には自信があるし、ある時からダンクもできるようになった。できるようにしたからね。


「もう一回!」

「はいはい」


 水橋は負けず嫌いな性格だ。

 だけだそれは諦めが悪いとも言う。けどそう言う勝負心は嫌いじゃない。むしろ――


「取れる!」

「甘い甘い」


 ボールを右から左に切り返して、そのまま抜き去る。

 水橋の動きは悪くない。もう背後についている。だけどスピードが違うんだ。


「よっと」


 パサッ――

 ボールはネットをかすり、ポーンポーンと弾み出す。


「これで二勝」

「はぁはぁ。はぁはぁ」


 水橋は額から汗を流していた。

 たった数歩、数秒程度の攻防でかなり体力を持っていかれる。それでも水橋は諦めない。むしろ、ニヤリと笑いながらこの攻防を楽しんでいる。


「私、まだ負けてない。ここから二本取れば……」

「そうはさせないよ」


 ここで点を上げたら怒られる。

 だから私は全力で叩き潰しにかかった。前にも同じことをしようとしてキレられたから、それぐらいの気でやってやる。


「ほいっ」


 私の勝ち。


「やっ!」


 私の勝ち。


「取った!」

「それは如何かな?」

「えっ!?」


 一瞬わざとボールを持たせ、手から弾いて奪い去る。

 そのまま半円を描くようにドライブで切り込み、一気にボールを叩きつけた。

 ボールはネットをくぐり、私の左手はリングを掴んでいた。


「よっと」


 スタッと体育館の床に足を下ろした。

 すると、ドサッ! と音を立てた。それから背後を振り返れば、すでに限界値寸前の水橋だった。

 ポタポタと汗をコートに垂らし、私は心配して近づいた。


「大丈夫、水橋!?」

「大、丈夫。続き、やろ」


 いや、もつ無理だ。

 いつもより汗の量が甚大じゃない。見れば足を引きづっていた。そう言えば愛佳が、言っていた。


「香織ちゃん、足痛めてるみたいだから。お願い、無理させないでね」

「了解」


 忘れてたわけじゃない。

 だけどここまで来たらもう私の勝ちだ。


「じゃあ次私が取ったら、それで今日は終わりね」

「えっ!?」

「いいから、ほいっ。次は水橋からね」


 私はボールを突き渡した。

 水橋はボールを受け取ると、汗ばんだ手でボールを弾く。だらだら流れる汗。照りって見えた。


「行くよ!」

「オッケー!」


 水橋はドリブルをした。

 県屈指のポイントガード。それが水橋だ。パス回しや、指示などを送る。まさに指導者。しかしその手からボールが滑り落ちる。私が奪ったんだ。


「このっ!?」

「早く終わらせる!」


 一気にダンクで決める。

 そう思ったのも束の間。足が取られた。朝に滑って体が倒れ込む。


「今だっ!」


 水橋はボールを掴んだ。

 しかし体を捻りながらボールを奪い返すと、倒れ込みながらボールを放り投げる。するとボールはリングをくぐり、ネットを掠めて落ちた。

 私の勝ちだ。


「このっ!?」


 水橋は疲れ果てた腕で体育館の床を叩いた。

 激しい音が響く。

 しかし最後のは危なかった。けれど、勝ちは勝ちだ。


「お疲れ、水橋」


 私は手を差し出した。

 すると、汗ばんだ手を伸ばして私の手を掴んだ。うわぁ、凄い汗だ。気持ち悪い。何って言ったらいけないね。


(これは水橋の頑張りだもんね。変に言っちゃ駄目だよ)


 人の頑張りを無碍にはしない。

 そう言った主義なのでここは何も言わずに讃える。


「惜しかったね」

「何処が?」

「最後の。あれは本当に危なかったよ」


 かなり挑発みたいな発言。気をつけよう。

 けれど水橋にはそんな躊躇はいらない気がした。それに、


「あー、もう! 次は絶対に勝つよ!」

「それ何回めー?」

「そんなの関係ない。私は負けない!」

「はいはーい」


 面倒な奴。

 そう思われても不思議じゃないけどね。けれど、誰も水橋のことは嫌いになれない。そんなポジティブで、諦めの悪い根性持ちのプレイヤーはきっと重宝する。

 だから私もうっかり乗ってしまうんだよね。

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