■238 マッシイタケ
今回はかなりくだらない話。
その日のギルドホームは非常に静かだった。
スノーはボウガンの改造に手を染め、ちなっちはグデーンとして机に突っ伏せる。
キッチンではもくもくと煙を上げ、鼻をくすぐるような美味しい匂いがしていた。
「はぁー」
「如何した?」
痺れを切らして口火を切ったのはちなっち。
そこにスノーがツッコむ。だけど何か違う。
「いや、何でもないよ。ただ」
「待て、その先は言わなくても分かる」
「だよね」
二人はこのあの寂しさが分かっていた。
片っ端から、質問攻めと相槌の両方を行うギルマスと、常に冷静沈着で水の流れのような決まった時に口を開く子がいない。
そんないつもとは異なる空気にたまらなく恋しものがあった。
「あの二人は如何したんだ」
「二人とも高熱だって。珍しよね」
ちなっちは今朝方LOINに二人からのメッセージが上がっていたことを話す。
どちらも昨晩、ゲームからログアウトするとほぼ同時に四十度近い高熱を出して倒れてしまったそうだ。
一晩経てば熱も下がると思っていたが、一向に下がらずにベッドの上でお休み中とのことだ。
「ほーいできたぞ」
タイガーが話に参戦した。
手には焼き上げたばっかりの鮭の塩焼き。だけど一番似合うメンバーは姿を見せないのだ。
「暇だね」
「そうだな」
「本当に。はぁー」
三人は意気消沈してしまった。
しかし当初の予定が崩れただけでやることがないわけじゃない。そこで気を取り直して、ちなっちは叫んだ。
「そうだ! ねぇスノー、何かクエスト来てないの?」
「そう思って抑えてある。これを見ろ」
そう言って全員の前にウィンドウが開かれる。
そこにはとあるクエスト……もとい、イベントが告知されていた。しかも今日だ。
「えーっとなになに、マッシイタケ採り放題?」
「マッシイタケ!?」
タイガーの食い付きはいい。
と言うのもそれを狙ってのことだった。
「そうだ。三人一組で参加のイベントで、一日中マッシイタケを採るイベントだ」
「そのマッシイタケがわからないんだけど?」
「マッシイタケって言うのはな……」
スノーが話だそうとしたものの、タイガーが乗っとる。
けれど初めからそのつもりだった。
「マッシイタケって言うのはね、カサの部分が表裏関係なく真っ白な珍しいキノコなんだよ」
「そんなのがあるんだねー」
「あるだよ。味も絶品で特にバター醤油焼きが……じゅるり」
タイガーは口元から涎を垂らした。
しかしすぐにハッとなって戻す。よっぽど美味しいらしい。
「とにかくだ。そんな珍しい椎茸が採り放題なんて、そうそうあったもんじゃないぜ!」
「そうだな。だからこの機会にと思っていたんだ」
「あっ、ここに追加で書いてあるよ。一番大きくて立派なものを採ってきて人たちには……椎茸の木が贈られる?」
ちなっちがそう読み進めると、スノーは何度も首を縦に振る。
腕組みをしているところから、最初から知っていた模様だ。
だけどタイガーは目を丸くして唖然とする。
「そんなことあるの?」
「如何したのたいがー?」
気になってついつい尋ねていた。
するとタイガーは興奮して鼻息を荒げる。
「そんな珍しいものが手に入ったら、培養してたくさん育てられるよ!」
「そ、そう? でも椎茸を年中は流石にね」
「何言ってるの。時期になれば最高の風物詩だよ!」
食べ物の話になると本当に我を忘れる。
食べるのも好きだが、採るのもそれより作るのが好きなタイガーだった。それに、
「きっとそれを食べれば、二人も喜んでくれるよ!」
「「あっ!?」」
スノーとちなっちも顔を上げる。
二人に喜んでもらいたい。そう思うのは友達として当然のことだった。そんな具合にスノーが持ってきたイベントの話だったが、踊らされた二人はタイガーの名の下にイベント参加を表明した。
今日までエントリーできるのっていいよね。
「よし、今すぐ行くぞ」
「もう始まってるかもだしね。急ごうよ!」
「オッケー!」
三人の気持ちは爆発していた。
普段はやる気の欠片もないはずのスノーまで張り切る次第だ。きっとこの姿をマナとKatanaが見たら微笑ましく思うはずだ。
ちなっちとタイガーの脳裏には薄らとそんな絵が思い起こされるも、とにかく二人もイベントを満喫することにした。
インベントリから何故か武器を取り出すと、ギルドホームを出てすぐさまイベント開場の白亜森林に向かっていた。




