■192 刀に導かれて
細さんにお礼を言いに行くKatana。
私は再び神鳴神社の方に足を運んでいました。
その理由は決まっています。細さんに会うためです。しかし今回の目的は前回とは違います。今回、無事にボス戦に勝利できたことへの報告と、そのお礼を言いたいと思い、やって来たのでした。
「細さん。いらっしゃいませんか?」
神社に辿り着くや否や、すぐに声を張りました。
しかしいくら呼んでも返事はありません。
今日はログインしていないのでしょうかと、首を傾げる私でしたが、神社の本殿の方から、細さんの声がしました。
「細さん?」
「ふぅ。あら?Katanaさんでしたか。本日も参られてご苦労様です」
「いえ。それより細さんは、何をなさっていたのでしょうか?」
私はふと気になってしまったので、尋ねました。
すると何でもない顔色を浮かべ、私の刀を覗き込みます。
「本当、良い刀ですね」
「えっ!?あっ、はい」
や返事も心地よいですね。それにしても、貴女に渡して本当によかった。この子、夜桜蒼月は如何なものでしょうか?」
「如何と言われれば、私の手に馴染み、共に戦ってくれる頼もしい存在ですね。ですが、私がこの子の実力を十二分に発揮できているかは……」
「大丈夫ですよ」
私は唇を噛む。
その様子を見届けた細さんは、首を横に振る。
「その子は、貴女に十分使われています。満足いくぐらいには」
「そうなのでしょうか?」
「そうです。それに、このくらいのことでしたら“真に剣士”なら、わかるはずですよ」
それを聞いて、ハッとさせられる。
細さんは腰に剣も刀も帯刀していない。それでも、この人には遠く及ばない。それだけは確実に伝わっていた。
「でも……」
「えっ?」
「貴女はもう一本、刀を所持しているはずですよね。そちらは」
「どうしてそれを……」
「なんとなくです」
私は今度は驚かされてしまった。
ですが、本当に“なんとなく”なのでしょうか?私には、全てを見透かされているようにしか思えません。
「もしかして、この刀のことでしょうか?」
私はインベントリから、〈青龍の華雨〉を取り出しました。
青龍のような見た目をした見事な装飾が施された、刀を見ると、細さんは「それです」と短く唱えました。
「あの、こちらの刀は」
「それは特別なものです。ですが、今はまだ分かりませんね。ですが、その刀には“天候を司る龍の息吹が宿っています”よ」
「天候をですか?」
「はい。今でも、その力は多少ならコントロールすることができるはずです」
そんな凄いものだったのですか。
ではやはりこれはマナさんの剣と同じ資質。でも、何故この刀は私の手に・・・
「何故、その刀が自分の手元にあるのか、知りたそうですね」
「また!?」
またしても私の心を見透かされてしまいました。
「あの、知っているんですか?」
「はい。もちろんですよ。でも、今はまだ知る必要はないことです」
「えっ!?」
さっきから驚いてばかりですね。
ですが、細さんの言葉はどれも的を射ているように思えるのは、私だけでしょうか。
いえ、間違いはないはずです。ただ、不可侵の領域にいるような、そんな印象が強く表れます。
「それよりも、その子も使ってあげてくださいね」
「あっ、はい。そのうちには」
「ふふっ。では、失礼しますね」
細さんは本堂の中に戻ろうとしました。
しかし私はそれを止めます。
「あの、待ってください!」
「はい?」
「細さんのおかげで、阿修羅武者を倒せました。本当にありがとうございました」
私は丁寧にお辞儀をしましたが、細さんは、
「構いませんよ。私は大したことはしていません。全ては、貴女方が残したものですから」
「貴女“方”?」
「ええ。でも、それだけではないのでは?」
「もうわかっているんですね。では聞かせていただきます。如何して、貴女はあの場所への入り方を知っていたのでしょうか?ただ入るだけでしたら、疑いはしませんでしたが、阿修羅武者を倒した形跡がないのは、いささか不自然かと思いまして」
「それもそうですね。でも、その答えに至るにはまだ早いです。ですから、ここは一つだけ。あの場所には前に一度、素振りに向かったのですが、その時たまたま知ってしまった。それで、納得してはいただけないでしょうか?」
細さんは嘘をついている。それがわかるのに、それを指摘できない。
今にも記憶から断片的に剥がれ落ちてしまいそうで、私は頭を抱えました。
「あの、貴女は一体」
「何者でもありませんよ。私は、細ですから」
細さんは、何事もなかったかのように笑顔でした。
本当になんなのでしょうか。あれ?私は一体、何を求めてここに来たのでしょうか。わからなくなってしまいました。




